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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
二章 ソラ、幼児編(6歳)
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クエストクリア!




「『マジカル・コンタクト』と『コピー』、それでもって幽霊と会話する『翻訳(エクスチェンジ)』ですか……ふむ。むむむ」


「ご、ごめんなさい」


 ウミガラの屋敷を後にしたソラたちはスタードットへの帰路を歩いていた。屋敷が解放されたからか、頬を撫でる風も何処か心地良い。

 コハクが連れ去られてからの出来事をソラは丁寧に説明した。

 ゴーストたちに囲まれたことも、創造魔法を使ったことも。

 幽霊屋敷となってしまった原因の少女の過去も、覚えていることを全て、コハクに説明する。


「なんでソラちゃんが謝るんです?」


「だって、お父さんに使っちゃダメって言われてますから……」


 しゅん、と落ち込むソラをコハクは微笑んで頭を撫でる。

 ソラの創造魔法は、これまでの魔法の概念を覆すもので。

 詠唱と魔方陣の省略を研究しているコハクにとっては喉から手が出るほど欲しい力だ。

 それはあまりにも危険なもので、もしソラが創造魔法を使えると知られれば、魔法を研究している者たちに利用される可能性も非常に高い。

 最悪、研究のために攫われてしまうことだって考えられる。それほどまでに稀少で、凄まじいものなのだ。


 アキトに意見したのはコハクである。それはソラのことを想っての言葉である。

 だからこそソラは、コハクに謝るのだ。


「確かに、使っちゃダメって兄さんと約束しましたもんね」


「……はい」


「でもソラちゃんが魔法を使わなかったら、二人とも危なかったですよね」


「そ、そうですけど」


 あの状況でソラは創造魔法に頼るしかなかったのは事実だ。

 ソラが覚えている魔法では、ゴーストの大群を振り払い、コハクを助けるために突入し、幽霊少女と対話することなど出来やしない。

 だから選択としては、間違っていない。


「ならコハクは何も言いません。コハクがソラちゃんを守れなかったのですし。それにソラちゃんのおかげで全部解決できました。……助けてくれて、ありがとうございます」


 コハクもまた、事態を理解しているからこそ――自分の不手際でソラを危険な目に遭わせてしまったからこそ、何も言わない。


「でも、兄さんには一緒に謝りましょう」


「はいっ」


 コハクの微笑みにソラは笑顔で応じた。ソラがここで謝罪の言葉を出せば、コハクはそれに謝って、ソラも謝り、お互いにずっと謝り続けなければならなくなるから。

 ソラを乗せているシロは黙ってそんな二人を見上げていた。仲睦まじい二人を眺めて、シロは小さく鳴く。


「シロー。もふもふ~!」


「ばうっ!」


 そんなシロにソラが気付かないわけがない。あの状況で一気にコハクが閉じ込められた部屋に飛び込めたのはシロのおかげなのだ。

 ソラはその功績を褒めるために、シロに抱きついて頬ずりする。

 ふわふわのシロのもふもふを堪能しながら、二人と一匹は『秋風の車輪』を目指す。




   +




「はい、クエストクリア、おめでとうございます!」


 すっかり『秋風の車輪』の看板となった受付のミカが手続きを済ませると、コハクは「ほっ」と安堵のため息を吐いた。

 これまでアキトやアイナといった、守ってくれる人と一緒クエストに挑んでいたコハクにとって、一人で挑むクエストというのはいつになっても慣れないものなのだ。


 ランクDのクエストとはいえ、ソラを連れたコハクはきちんとやりきった。

 コハクのことを知っているからこそ、ミカはいつも以上にコハクを労う。


「で、お願いしていた件、大丈夫ですか?」


「任せてください。先方もクエストクリアを条件として快諾してくれています!」


「ありがとうございます」


「ではこちらが、コハクさんが依頼していた見積もりとなります」


「はい」


 ミカはあらかじめ書類を用意しておいたのだろう。コハクがクエストを失敗するわけがないと信頼して。

 準備の良さに感謝の気持ちを伝えながら、コハクは数枚の書類を受け取った。

 見積もりを受け取ったコハクはすぐに目を通し、うんうんと頷く。

 満足げなコハクをソラが見上げている。コハクが考えている新居にソラも興味があるようだ。


「ソラちゃんも見ます?」


「見たいですっ!」


 ソラが受け取ったのは金銭の絡む書類ではなく、コハクが構想している新居の図面だ。

 予想していた新居より、だいぶ広い平屋建てだ。

 部屋数も多いし、なにより目を引いたのは地下室の存在だ。

 ソラが地下室に気付くと、コハクは悪戯をするような笑顔を見せる。


「コハクの研究室ですよー」


「研究室!」


「ええ。せっかくですしコハクも一緒に住むつもりですしね」


「やったー!」


 一緒に過ごしている期間は長いが、コハクだけはずっと教会の小屋で寝泊まりをしていた。そのためソラはコハクとだけは一緒に寝たことがないし、一日中甘えたこともない。

 魔法の先生とも言えるコハクと一緒に暮らせる。それが嬉しかったのだろう。

 ひまわりのような笑顔を浮かべて、ソラはコハクにしがみつく。


「いっしょー。いっしょー。コハクお姉ちゃんもいっしょーっ」


「あはは。くすぐったいですよー」


「わぅーっ!」


 コハクもソラを抱き上げて頬を合わせてすりすりする。

 ミカも笑い、二人を眺めていた冒険者たちも自然と頬が緩む。


 アキトとアイナが帰ってくるまで、あと一日と半分。

 部屋に残してある、二人のための指輪。

 幸せを満喫している二人に贈る、指輪と新居。


 喜んでくれるか、喜んでくれるに違いない。

 アキトとアイナが帰ってくることが、待ち遠しい。

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