語るべき時
「おとうさーーーーんっ!」
結果からすれば、アキトもアイナもコハクも誰も倒れずに五十人の冒険者たちを倒したことになる。
元々Sランクであり圧倒したアキトはともかく、アイナとコハクがほぼ無傷でいられたのはひとえに彼女たちの研鑽のたまものだろう。
なにしろ総勢五十名とはいえ、アイナとコハクに割り当てられた冒険者たちは十名ずつ。アイナの獣人であるからこその身体能力と、コハクの研究成果による魔法の並列処理が功を奏したと言えよう。
「わぅ~!」
完勝したアキトたちを祝福するようにソラがシロに乗ってアキトたちのもとへ駆け寄ってくる。戦いの一部始終を見ていたのだろう、瞳をきらきらと輝かせながら、ソラはアキトに飛びついた。
「お父さん、凄いです! 凄かったです!」
「ははは。ありがとな」
ソラを受け止めたアキトは頬ずりしてくる愛娘にされるがままだ。ソラはここぞとばかりにアキトに甘えている。そんな二人を見てアイナもコハクも微笑んでいる。
「……畜生。勝てなかった」
「わぅ!」
「もう起きたのか」
アキトとしては完全に意識を奪う一撃を放ったのだが、ナユタは思った以上に早く目覚めた。擬装竜牙による防御力のおかげなのか、アキトとの攻防の後だというのに怪我一つ負っていない。
対するアキトは満身創痍といっても過言ではない。自己強化・一式での身体への負荷はコハクの魔法のおかげで回復してはいるが、全快ではない。
改めて、ナユタの力は恐ろしいと感じている。あれだけの力をデメリットなしで使えるのだから、神――竜王は本当に強大だと。
「……その子は」
「娘のソラだよ。『秋風の車輪』でも会っただろうが」
「あ、ああ。そうなんだが――」
『秋風の車輪』ではソラが一方的にナユタを観察していたが、今回ナユタの意識はソラに向けられている。それでソラに何かを感じたのだろう。ソラがナユタに感じたように。
じー、っとソラもナユタを見つめる。
不安げな瞳でアキトを見上げるソラを、アキトは優しく頭を撫でる。
ソラが転生者であること。ナユタもまた、同じ存在だという説明をした方が良いと思っているのだろう。
「そうだな。話した方がいいよな」
「……はい」
幸いなことに、この場にはアキトにとって大切なアイナとコハクしかいない。
「アイナ、コハク。大切な話がある。ソラの事で、とても大事な話だ」
そう切り出したアキトの言葉にナユタも事情を察したのか、紡ごうとした言葉を飲み込んだ。
アイナとコハクは何を告げられるのかわからず困惑している。そんな二人に、アキトはソラを後ろから抱きしめながら説明する。
「あまりにも荒唐無稽の話だ。ソラは、転生者っていう存在だ」
「……転生者? 何よそれ」
聞き覚えのない言葉にアイナは首を傾げる。
だがコハクの表情は凍り付いていた。すぐにはっとして、納得がいったような表情をする。
「……ボクは、別の世界で死んで、神様の温情でこの世界に生まれ変わった存在なんです」
「どういうことなの?」
「ボクは、普通の子供じゃないんです。ナユタさんも同じで、ボクは……神様からもらった力で普通の人よりもいろいろな事が出来るんです」
ソラは心苦しそうにぽつりぽつりと語り出す。アキトと出会ったあの日のことを。
念話による会話を行い、普通の子供なら覚えていない赤子の時の記憶も残ってることを。
「つまりソラちゃんは、前世の記憶を持ってるってことよね?」
「そう、なります。ずっと黙ってて、ごめんなさい」
アキトとしてもアイナたちに打ち明けるタイミングが掴めずにいた。アイナもコハクもソラが転生者だからと言って見る目を変えたりしないことくらいはわかっていたのだが、あまりにも信じがたい話だから告げられずにいたのだ。
苦しそうに謝るソラを、アイナはそっと抱きしめる。
「いいのよ。ソラちゃんはソラちゃんだから。昔がどうとか、なにも関係ないわ」
「お母さん……」
「大好きよ、ソラちゃん」
「~~~っ」
ありのままを受け止めるアイナにソラはしがみつく。豊満な胸に顔を埋めながら、精一杯の力を込めて抱きつく。
そんなソラをアイナもしっかりと抱きしめて背中を撫でる。
「コハクは転生者って単語を知ってたのか?」
「眉唾モノでしたけどねー。王都とかで聞いたことがあるんですよ。別の世界から来たイセカイテンセイシャですー、とか」
でも、とコハクは言葉を続ける。
「これで合点がいきました。ソラちゃんの魔法の才能は、神様からの贈り物だったんですね」
「ああ。ソラのために禁止にしていたけど――」
「兄さんの判断は正しいですよ。あんな力、小さなソラちゃんには重すぎます」
「だな」
抱き合うアイナとソラを眺めながら、コハクもすっきりした表情を見せている。
けれど少し不満もあるのだろう。黙っていたアキトに対しコハクはジト目で訴えている。
「……色々追求したいことがありますが、ソラちゃんが可愛いから許してあげます」
「助かるよ、コハク」
「いいんですよ。ソラちゃんがいたから兄さんも戻ってきてくれたわけですし」
表情を一変させてコハクははにかむ。ソラの過去のことより、コハクにとって大事なのは今のソラなのだろう。ソラがいたからこそ、アキトは戻ってきた。
「むしろソラちゃんに感謝ですよ」
「そうだな」
「……なあ、俺は蚊帳の外なのか?」
「おおすまないウニ。すっかり忘れてたぞ」
「だから! ウニって!」
本来ナユタとソラの話に繋がるはずだったのだが、存外重い空気になってしまい口を挟めなくなったナユタが言葉を漏らした。
地団駄を踏んで不満をアピールするナユタだが、アキトにもコハクにも当然のようにスルーされる。
「……本題に入ろう。ナユタ、お前に力を与えた神ってのは竜王ウロボロスなのか?」
「ああそうだよ。向こうで事故に遭った俺を助けて、肉体を強化してチート能力までくれたあいつは、確かにウロボロスって名乗ってた」
「……なにがしたいんだよ、あいつは」
頭を掻きながらアキトは空を見上げる。ナユタがこちらの世界に来たのは二年ほど前になるようだが、どうしてナユタに興味を持って力を与えたのか。
英雄であるアキトを狙い、殺し合いを望むウロボロスの姿しか知らないアキトにしてみれば見当も付かない。
「そうだ。ソラ。お前に力を与えた神ってのは、金髪金眼の女だったのか?」
「わぅ?」
アキトが覚えているウロボロスの容姿を伝えるも、ソラは首を傾げるだけだ。
自分を転生させた存在のことを覚えてないのかもしれない。けれどもソラは、首を傾げながらアキトの言葉に応える。
「ボクを転生させたのは、銀髪で赤い瞳の女の人でしたよ。イブ、って名乗ってた気がします」
――その名はウロボロスと並ぶ、偉大なる主神であり戦と炎の神アルスーンによって創造された、三つの生命の内の一つ。
人間の原型となったアダムの伴侶であり、世界を観測する存在である。




