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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
二章 ソラ、幼児編(6歳)
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せめて、先駆者として。




 腕が折れようとも。武器が無くても。例え四肢が粉砕しても、アキトは前進することを止めはしないだろう――。


 自己強化(エンチャント)・一式による肉体への負荷を無視した限界突破――零式を使わない現状で、アキトが引き出せる限界点。

 それは人の限界であると同時に、到達点である。これ以上先へ踏み込むためには、人をやめなくてはならない警告でもある。

 つまり、人である限り、アキトを上回ることが出来ない。


「く、そ、がぁっ!」


 ナユタが振るった一撃はアキトにかすりもしない。放った瞬間にはアキトはもうナユタの手の届く範囲から抜け出しており、躱すと同時に一気に距離を詰め、殴打を繰り返す。

 武器を持っていないことから決定打に欠けているのが現状だ。

 だがそれでも、アキトとナユタの間の圧倒的な実力差を見せつけるには十分である。


 ナユタがいくらアキトを倒そうと拳を振るっても、アキトには届かず。

 ナユタの鋼のような竜鱗(りゅうりん)は、アキトによって少しずつだが確実にダメージが蓄積されていく。


「なん、でだ! なんで、お前はぁ!」


 左腕が役に立たなくても。武器が折れていても。

 アキトがナユタに負ける理由にはならない。

 ナユタがアキトに勝てる理由にはならない。


 条件は圧倒的にナユタが有利だろう。五体満足であり、擬装竜牙の力は他の追随を許さないほどの、まさしく規格外の力だ。


 ――それが?


「お前が弱いから、だろうが!」


「ぐっ!?」


 一瞬の隙を突いてアキトがナユタの頭部目掛けて上段蹴りを放つ。衝撃に頭が揺さぶられたナユタは姿勢を崩し、アキトは膝や肘までも駆使してナユタを追い詰めていく。


 ナユタが反撃に出れば軽やかに躱し、攻撃の手を緩めることなく強化された肉体による格闘をぶつけていく。

 左腕の痛みを無視する。どちらにしろ自己強化(エンチャント)・一式が限界となれば負荷でしばらくは身動きが取れないのだ。

 だから此処こそが正念場。

 かつてナユタと似たような境遇であったからこそ、先駆者としてナユタに見せなくてはならないのだ。

 アキトがたどり着いた力を。アキトが求めたモノを。


 決定打に欠ける攻防は徐々にナユタに余裕が生まれてくる。

 なにしろアキトは手負い。武器も無ければ左腕による攻撃も有り得ないからだ。

 ナユタの攻撃全てが躱されるとしても、ナユタには擬装竜牙による圧倒的な防御力が存在する。

 いくらダメージが蓄積しようとも、この防御はそう簡単には崩れない。喰らっているダメージを考慮しても、限界はまだまだ遠い。


 ナユタは反撃のチャンスを狙っている。焦っているフリをしつつ、アキトが隙を見せるタイミングを待っている。

 そして、そのタイミングはナユタの予想より早く訪れた。


「っ――」


「そこだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 僅かに鈍るアキトの動き。自己強化(エンチャント)・一式による負荷が一瞬だけアキトの動きをずらした。

 それはアキトにとっては珍しく、そしてナユタだからこそ見抜けた隙である。

 刹那の隙間をナユタが見逃さない。一撃でアキトの意識を奪えるだけの力を込めて、拳を振り上げる――!


「……あ?」


「悪いな。自己強化(エンチャント)・一式のデメリットくらい把握している」


 弾かれた。ナユタの渾身の力を込めた一撃は、アキトの手前でなにかにぶつかって弾かれた。

 何が起きたかを理解するよりも早く、アキトの左腕が動いた。その手に集中している緑色の光は――治癒の魔法。


「まさか、今のは――」


「隙を見せればそこを突いてくる。俺がピンチになれば――俺を助けてくれる奴がいる。決定打に欠けるのであれば、信じてる仲間を頼るのが当然だろう?」


 ナユタの視線の先に立つ、紺色の髪の女性――コハク・アカツキ。足下に魔方陣を広げ、彼女を覆うように四つの魔道書が中空で開かれている。


防御(プロテクンション)? そんな、間に合うわけが――」


「間に合うんだよ。俺の妹を舐めるな」


 アキトの左腕もまた、コハクの魔法によってすぐさま治癒されていく。一式によって高められた身体能力は治癒速度までも上昇し、コハクの魔法と相まって一瞬で折れた左腕が元通りになる。


 アキトの左腕に、魔力が集う。それはとても魔法と呼ぶには拙いモノで、ディアントクリス相手に魔力を爆発させたものよりもっと簡単で危険なモノ。


 アキトが何をするかを、ナユタは気付いていない。

 だがそれが一撃で自分を倒せる技であることに気付き、咄嗟に両手を交差させて防御の構えを取る。

 伸びたアキトの左手が、交差された両腕に触れる。


「アブソ――」


「っ!?」


「――ダクションッ!」


 ナユタの両腕に、アキトから魔力が強引に流し込まれ――爆発した。

 魔方陣も何も必要ない、ただただ魔力を暴走させて爆発を引き起こす荒技であり、それには多大なデメリットも存在する。

 ディアントクリスを倒した時は、魔方陣を利用することで距離を取ることが出来た。

 だが今回は違う。アキトは自らの左腕を犠牲にする形で同じ事をやってのけた。

 結果的に、アキトの左腕は軽くは無いダメージを負う。


 ――その傷は、コハクの魔法によってすぐに治る。


 一連の光景を見ていたナユタは驚愕する。さらに迫るアキトへの対応が間に合わない。

 強さを求めた。求めて求めて求めて、神様の加護で得た擬装竜牙の力。

 それら全てを駆使しても、アキトには勝てないと、痛感してしまった。


 アキトの強さに負けた、と認めるわけではない。

 それでもナユタは自分の強さを疑うわけでも無い。


 ただ、そんな戦い方は自分には出来ないから。


 傷を癒してくれる仲間も、そんな仲間を信じて無茶が出来るわけでもないから。

 再び放たれたアキトの上段蹴りを、ナユタは黙って受け入れた。


 擬装竜牙の力が解けていく。元の人間の姿を取り戻したナユタは、薄れていく意識の中で懸命にもがき、アキトの胸元を掴んだ。


「それ、でも」


 負けは認める。Sランクであるアキトには敵わなかった。五十の戦力でたった三人を倒すことが出来なかったのは、自分たちの力不足を認めるには十分すぎる結果だった。


「それでも俺は、強くなりたいんだ……!」


「……ならば強くなれば良い。力ではなく、心で」


 圧倒的な身体能力でも、圧倒的な攻撃力と防御力を兼ね備えた擬装竜牙でもアキトには敵わなかった。

 アキトは――先駆者は、強さを求めるナユタにただ一言だけ告げる。

 そしてナユタは意識を失い、決着が付いたのであった。

ちなみに余談ですが、あのまま戦いを続けてもアキトは勝てます。ただし結構な泥沼になって。

限界時間を考慮しつつ、ナユタにアキトの強さを見せつけるためにサポートしてくれるコハクを頼った、という形ですね。

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