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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
二章 ソラ、幼児編(6歳)
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たくさんの祝福と、新しい母親と。




 窓から差し込む朝の日差しと、鳥のさえずりにアイナの意識がゆっくりと浮上していく。重たい瞼を開くと、真っ先に飛び込んでくるのはアキトの寝顔。

 アキトの左腕を枕にして、二人で抱き合うように眠っていたのだろう。昨夜の出来事を薄ぼんやりと思い出しながら、嬉しさのあまり頬が緩む。

 下腹部の痛みと暖かさが昨夜の出来事が嘘ではないことを教えてくれる。

 長年の想いが成就され、アイナは幸せに包まれていた。


「……ん」


 ぼんやりとした意識のまま、アイナは自分が生まれたばかりの格好であることも構わずアキトの胸元に抱きついた。ふくよかな胸を押しつけて、離れたくないとばかりに頬ずりする。


「すりすり……ん~……」


 身体の奥から湧き上がる感情が止まらない。好きという感情が抑えきれない。

 くすぐったいのか、眠っているアキトが身じろぎする。起こしてしまわないように、細心の注意を払って頬ずりを続ける。

 いつかアキトに振り向いてもらえたら。いつかアキトに追いつけたら。そのために守り続けた操はきちんとアキトに捧げることが出来た。

 きっと自分は今、世界中の誰よりも幸福だ。

 そんなことを思いながら、アキトは耳をぴこぴこと揺らしながら何度も頬ずりする。

 出来ることなら、ずっとこの時間が続けばいいと思いながら。


「……あっ!」


 微睡みは突如として終わりを迎える。幸せに浸るのは良いのだが、アイナは肝心なことを忘れていた。アキトに連れてこられて、そのまま事に及んで、そのまま眠ってしまった。

 だからアキトも恐らくだが――コハクやソラへの連絡をしていない。


「アキト、アキト起きて!」


 ゆさゆさとアキトの身体を強引に揺らすが、アキトはなかなか目覚めない。まだ日が昇ったばかりのはずだから、急げばいつもソラが起きる時間にはスタードットに戻れるはずだ。


「……アイナ?」


「アキト、早く起きて! ソラちゃんにれんら――!?」


 アイナの訴えはアキトにかき消された。起き抜けの意識がぼんやりしているアキトは、目の前に裸を晒しているアイナを見て、彼女を抱き寄せて唇を重ねた。もちろん激しい方で。


「ちょ、ん、んんん」


「アイナ」


「アキト、今はこんなことしてる場合じゃ――」


「愛してる」


「ふにゃぁぁぁぁぁぁ~~~っ」


 耳元で囁かれる愛の言葉にアイナの思考は溶かされてしまう。一刻も早くスタードットに戻らなければならないのに、身体は言うことを聞かない。うずく下腹部が我慢をしてくれない。

 アキトはそのまま後ろに倒れ、アイナが上になってしまう。どうしようとか考える暇もなく繰り返される熱いキスで、思考は完全に蕩けてしまった。もう止まることは出来ない。

 心の中でソラやコハクに謝罪しながら、アイナはアキトに強く身体を押しつけていく。




   +




「……で、お父さんとアイナさんは何か言い訳がありますか?」


 すっかり日が昇ったところで、二人は『秋風の車輪』に戻った。事を終えて片方が正気に戻って帰ろうとしても、もう片方が落ち着きを取り戻せずお互いに愛を囁き合い、愛を何度も交えてしまった。

 疲労の限界が訪れてようやく冷静さを取り戻した二人が慌てて『秋風の車輪』に戻れば、そこには笑顔なのだが全く笑っていないソラが待っていた。


「まあソラちゃんはコハクが預かっていたから大丈夫なんですけどね。さすがに連絡は欲しかったです」


「ご、ごめんなさい」


「すまない。暴走した。ちょっと、な」


「……ちょっと?」


「かなり」


「ば、ばかっ」


 弁明の言葉を吐こうとしたアキトの言葉尻をアイナが捉える。だが逆に開き直ったアキトの言葉に顔を赤くしてしまう。

 目の前で弁明されずにいちゃつかれてはソラもたまったものではない。すぐに声を荒げて二人を叱る。


「あーもう! お父さんもアイナさんもボクに何か言うことあるんじゃないんですか!?」


 いつもなら夕食を終えればすぐに寝てしまうソラも、姿を消した二人を思って眠気を我慢して日付が変わるまでは起きていたのだ。コハクはもともと夜に強いのもあってずっとソラの面倒を見ながら寝ずに二人を待っていたこそ、ソラがどれだけ二人を心配していたかを理解している。

 だからコハクは二人を責めるのはソラに任せることにした。どっちにしたってお祝いの方向へ転がるのがわかっているから。


 ソラの言葉に、微笑んでいたアキトが表情を引き締めた。

 アイナの肩を抱き寄せると、アイナも察したのか少し恥ずかしそうに頬を紅潮させながらアキトの言葉を待つ。


「ソラ。遅くなってゴメン。俺は、アイナと結婚する。俺は、アイナが好きだから」


「……うん。それでいいの。お父さん、おめでとうっ!」


 アキトの言葉をソラは祝福する。ずっと望んでいたことが叶ったのだ。怒ることも哀しむことももう必要ない。アキトの言葉が欲しかったのだ。アキトが自分の幸せのために大切な人を選んでくれたのだから。


「おめでとうございます。お父さん、お母さんっ!」


 だからソラも満開の花のような笑顔で二人を祝福する。ずっと心に秘めてきた、アイナをこれ以上ないほどに祝福する言葉で。


「そ、ソラちゃん……」


「お父さんをよろしくお願いします。お母さん」


 にこにこと笑うソラに感極まったアイナがソラを抱きしめる。大好きなアイナが、大好きな父を選んでくれた。もうそれ以上の嬉しさはないとばかりに、ソラもアイナを抱きしめ返す。

 アイナの身体からほんのりとだけアキトの匂いがすることに気付いてちょっとだけ複雑な思いを抱きながらも、それこそがアキトとアイナが両思いである証だから黙っておくことにした。

 続けてアキトにも抱きつこうとしたが、同じくアイナの匂いがしたらまた複雑な感じがしてしまうのでちょっとだけ自粛した。

 すぐに我慢できなくなって抱きついたが。


「兄さんも姉さんも、おめでとうございます。コハクもこれで肩の荷が下りました」


「コハク、ありがとな」


「いえいえ。コハクも兄さんの幸せを望んでましたから。姉さんはヘタレで兄さんは朴念仁でどうするかずっと考えてたくらいですし」


 さらりと二人を乏しめるコハクだが、そこに悪意はない。けれどここまで拗らせたことには皮肉の一つでも言いたくなるものだ。あはは、と苦笑するアキトとアイナだがコハクの目から見てももう大丈夫だろう。

 ソラを膝の上に乗せながらもしっかり手を繋いでいるアキトとアイナを見れば。


「さて、それじゃあそろそろ閉め出してた冒険者の人たちをいれてあげますか」


「あれ? そういえば人がいないなーって思ってたら」


「兄さんたちが戻ってきた瞬間にミカさんに頼んで追い出したのです。さらに入って来れないように結界も張りました」


「コハクお姉ちゃんの用意周到さが凄い」


「だって絶対話し合い出来なくなるに決まってるじゃないですか」


 コハクの言葉に全員が笑った。『秋風の車輪』に集まる冒険者や利用者は大半が噂好きであり、アキトとアイナのことを見守ってきた人たちでもあるのだ。二人の関係をずっと見てきたからこそ、祝福こそすれからかうに間違いないことをコハクは見抜いていた。

 だから誰も入って来れないように物理的に進入を防ぐ結界を張っていたのだ。

 その魔法を解除した瞬間、怒濤の勢いでたくさんの人間がギルドに押し寄せた。


 誰かが大声で騒ぎ出す前に、立ち上がったアキトはアイナの手を引いた。引っ張られて立ち上がったアイナはそのままよろけつつもアキトの腕にしがみついた。絶対に離れないことを見せつけるように、胸が潰れるほど押しつけて。

 一部はそれだけでよろめいて膝を突いていく。キャーキャーと歓声を上げる女性たちもいた。

 流れ込んでくる沢山の人たちを見渡して、アキトはしがみつくアイナの手に空いている手を添える。


「俺はアイナと結婚します。必ず、幸せにする。だって、俺の幸せはアイナの笑顔だから」


「私も、アキトが大好き。愛してます。アキトの幸せが私の幸せだからっ」


 アキトの言葉に続いたアイナの言葉が嬉しかったのだろう。アキトはそのままアイナを抱き寄せて、愛を証明するためにキスをした。


 歓声と悲鳴に包まれながら、二人は大勢の人たちに祝福される。喝采の拍手を浴びながら、アイナはにぱー、っとこれ以上ない笑顔を見せてアキトに抱きついた。

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