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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
二章 ソラ、幼児編(6歳)
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ソラは恋のキューピッド?




「なあソラ。お母さんが欲しくないか?」


「わぅ?」


 スタードットを目指して馬車を走らせて二日が経った。王国には無事に戻れて、スタードットが見えるまであと数時間と言ったところだろう。

 アキトが馬を操れるからと御者は雇わなかった。ソラと一緒に青空を眺めながら、親子二人でゆっくりと旅を楽しんでいた。


 不意に、アキトがそんなことを言いだした。

 馬の手綱を引いているアキトの隣でソラはぽかーんと口を開けて呆けてしまう。

 アキトの言葉の意味を理解するまでに、数秒ほど。

 理解したソラは目を見開いて口をパクパクさせている。だってその言葉は、ソラが敢えて言うのを我慢していた言葉だから。


 アキトも気には掛けていた。自分が父親を上手くやれていたとしても、やはり子供を育てるのに母親という存在は必要なのでは無いかと。

 ソラの思いとは少し似ているようで少し違うが、アキトは母親のことを言葉にしていてすぐにアイナの顔が頭に浮かんだ。

 しまった。思いっきり自爆してしまった。頬が赤くなってないか。必死に誤魔化すように空を見上げることにする。


「お母さん!? お父さんどうしたの!?」


「……あーいや。ちょっと思ってな。いつまでも俺だけじゃ寂しいかなーとか」


「ボクはお父さんがいればそれで――――あーでもやっぱりお母さんがいたらいたで嬉しいと思いますよ具体的にはアイナさんとか!」


「なななななんでそこでアイナが出てくる?」


 ソラの前で初めてアキトが動揺した。それがアキトの言葉以上にソラには驚きだった。

 動揺している、ということはアキトはアイナを意識しているということだ。さらにはソラの母親――アキトの嫁、として。

 理由はよくわからない。お父さん鈍感朴念仁なのにいきなりどうしたんだろう悪い物でも食べさせられたのかなとか不安に思いつつ、これ幸いにと話を進めてしまおう。


 ここで崖から落とす覚悟で説得しなければアキトとアイナは結ばれないような気がする。


「お父さんは、アイナさんのことが好きなの?」


 突き落とすためにはストレートに殴るのが一番だ。誰の教えかは知らないが、ソラはそう判断した。さすがに真っ正面から言われてはアキトも誤魔化すことは出来ない。ただの仲間だとか、家族同然だとかの誤魔化しはソラには通用しないし、あそこまで動揺したのを見られて誤魔化せるわけが無い。


「……ああ、そうだよ。お父さんはアイナのことが好きだよ」


 認めてしまえばあとはもう楽である。勝手に崖から落ちてくれるようなものだ。


「ボクもアイナさんのこと大好きですよ!」


「そか。そうだよなぁ」


 ソラを拾った時からアイナは一緒にソラを育てていた。アキトと同じくらい、ソラに愛情を注いでくれた。そんなアイナにソラが懐かないわけが無い。


「アイナさんがお母さんになってくれたら、ボクも嬉しいです」


 逃げ道を塞ぐように屈託の無い笑顔をアキトに見せる。


「……そうだよなぁ」


 苦笑しつつも、アキトも答えが決まったのか表情はどことなくすっきりしている。

 アキトが何故自分の思いに気付いたのかソラはわからないが、とにかくアキトがアイナのことを好きだとようやく自覚してくれたのがたまらなく嬉しいのだ。

 なにしろアイナはアキトへの好意が非常にわかりやすいのだが、アキトはどうにも八方美人のきらいがあるようで、本心で誰を大事にしているかわかりづらかったのだ。


 それでもソラがアキトはアイナのことを好き、と思っていたのはひとえに娘として誰よりも彼の傍にいたからだろう。娘として彼が誰を目で追いかけていたかを見ていたからだろう。

 アキトがアイナを選んだことを嬉しく思いつつ、ちょっとだけアキトが取られてしまったような寂しい思いをしてしまう。


「アイナさん可愛いですもんね」


「ああ本当だ。時折見せてくる笑顔に何度支えられてきたか」


「……わぅ?」


「俺のことをよくわかってくれているし、からかうと耳も尻尾もふりふりさせるし。照れ屋だからか顔真っ赤にして否定するんだけどモロバレだったりするし。本当に、全部可愛いよなぁ」


「あー、コーヒーが飲みたくなってきました」


 普段は砂糖を何個も入れてようやく飲めるコーヒーだけども今日この時だけは無糖でも飲めるとソラは確信した。なんだこの父親は。アイナさんのことを語らせては止まらなくなったじゃないかと。

 矢継ぎ早にアイナの魅力を語り出すアキト。それだけでもうお腹いっぱいだ。どれだけ長い間自分の気持ちに気付いていなかったのだろう。貯まりに貯まった想いが爆発してしまっているようにも感じられる。


「で、お父さんはアイナさんに告白するんですか?」


「する」


「そ、即答なんですね」


 先ほどの動揺っぷりからアイナのようにヘタレてしまうことを危惧したソラが発破をかけようとしたが、さすが最速でSランクにたどり着いた冒険者なだけあって即断即決だ。

 帰ってアイナと再会したその場で告白してしまいそうな雰囲気だ。


(いやー、さすがにそれはアイナさんが逃げ出しそう)


 ちなみにだがアイナが断るという展開は全く想像していない。いやいや、ないでしょ。と断言してしまえるほどだ。それくらいアイナはソラの目から見てもわかりやすく好意を隠しきれていない。

 けれどもヘタレなアイナだからこそ失敗してしまう未来も見えてしまう。

 ふとソラの頭に思い浮かんだ妙案。それは出発前の見つめ合う二人が交わした約束だ。


「お父さん。アイナさんと約束してたじゃないですか! 『無事に帰ってきたらなんでも一つお願いを聞く』って!」


「してたな、そういうのも。だがアイナとの約束を破ることなんて有り得ないから忘れていたな」


「そういう惚気るのはいいんで。それを理由にデートすればいいんですよ!」


「デート? デート、かぁ」


「はいっ。街を練り歩くだけでもいいですし、アイナさんって結構乙女なところありますからロマンチックな空気出した方が喜んでくれると思いますよ!」


「アイナが喜ぶならやるしかないな」


「このお父さんもう動じてくれない!」


 少しだけ動揺してたアキトを可愛いと思っていたソラにとっては少し複雑だ。

 けどアキトはもう乗り気である。アイナとデートをし、告白するつもりでいる。

 上手くいけばそのままゴールインだろう。

 しかしながら、崖から落とすはずだったのだが、落としたと思ったら背中に羽が生えて飛んでいった感じである。

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