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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
一章 ソラ、赤子編(0歳)
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ソラ、アキトの経歴を(少しだけ)知る。




 冒険者には実力や成功したクエストの難易度によってランクが付けられる。

 ランクが上がることは知名度が上がることに直結し、ランクが高ければ高いほどより高難易度だが高収入のクエストを受けられるようになる。

 Eから順繰りに上がっていくランクはAで一旦打ち止めとなり、ギルドから任される昇格クエスト:【女神の涙を手に入れろ】をクリアした者だけが到達できる領域。

 それが、ランクS。冒険者ギルドの中でも最高峰にして頂点。全ての冒険者が憧れる地位。

 そこに至れば何も苦労せず生きていけるとさえ言われるほどだ。


 アキト・アカツキはかつてその地位にいた。

 アイナはそんなアキトを追って、昇格クエストを目の前にしていたほどの実力者だ。


「だー?(おとーさんって凄い人だったんですか?)」


「凄くはないさ」


 アイナが抱えるソラの頭を撫でながら、恐れ多いと身体を震わせているミカをなだめる。

 Sランクに至った冒険者が、一度はその地位を捨て、再びその地位に戻ろうとしている。

 ミカにとって……いや、『秋風の車輪』にとっても前代未聞の出来事である。


「わ、私じゃ手に負えない案件ですよ!」


「ちょっとミカ。いくらあなたが一番新参でも、あなたはもう『秋風の車輪』の看板娘なのよ? シャキっとしなさい!」


「むむむ無理ですよ!?」


「責任なんてどうせ王都の本部が取るんだから書類に判子押すだけよ!」


「むちゃくちゃなぁ!」


 ミカが躊躇うのも無理はない。Sランクに到達した冒険者とはそれほどの存在なのだ。

 ましてやアキトはSランクに十六歳という異例と呼ばれるほど若い年齢で到達している。

 その天性の才は当時王国軍から引き抜きが何度も来たほどだ。


「ええいまどろっこしい! それ!」


「あ、あー!?」


 カウンターに乗り込んだアイナがミカの腕を掴んで強引に判子を書類に押した。簡単すぎる手続きはそれで終了していまい、ミカが暴れ出して書類を奪う前にアイナは郵送ボックスに仕舞ってしまう。

 この郵送ボックスは人の手による運送ではなく、しまわれた書類を自動的に本部へと転送する魔法が込められたボックスなのだ。

 つまり、いれてしまえば自動で送られる。ミカの奮戦空しく書類は転送させられてしまった。


「あぁぁぁぁ!?」


「よし。本部なんてどうせ書かれてる情報だけでカードを作るからこれでオーケーね」


「お前さぁ」


「だー!(アイナさん悪いひとです!)」


 だがしかしアイナとてまだるっこしい手順を飛ばすために行動したのだから、アキトとしても指摘はしにくい。なにしろアキトのためにしてくれているのだ。

 まだ冒険者に戻る覚悟は出来ていないけど、これで後戻りはできなくなった。


「ソラ、おいで」


「だー(はい、おとーさん)」


 ソラを横向きに抱きかかえ、あやすように身体を上下に揺らすとソラは嬉しそうに笑顔を見せる。

 流されるように父親であることを受けいれてしまったが、この無邪気な笑顔を守れるなら悪くはないと――アキトは誰にも聞こえないほどの小さな声で呟いた。

 だがソラには聞こえてしまったのか、アキトを見つめながらニコニコしている。


「あ、もう帰ってきたみたいよ?」


「本部さん仕事してくださいー!」


 アイナの言葉にカウンターを見てみれば確かに郵送ボックスに備え付けられているラインが緑色に点滅している。送信する時は青に、受信する時は緑に点滅し送受信がわかるようになっている。

 このような魔法による道具は魔具とも呼ばれ、冒険者たちの間でも重宝されているほどの優れものだ。


 郵送ボックスを恐る恐る開くミカ。その中には燦々と輝きを放つ金色のカード。

 つまり本部はアキトの冒険者への復帰を許可したということだ。

 アイナの言葉通り書類を精査していなければ問題ではあるのだが、アイナはそんなこと気にせずにカードを取り、アキトに渡す。


「お帰りアキト。採取にする? 狩猟にする? それともご・え・い?」


 金のカードを口元に持ってきて口づけでもするかのような仕草をしながら、アイナは耳をピコピコと揺らしながら身体をくねらせる。

 まるで全身で喜びを表しているようだ。それほどまでにアイナはアキトが冒険者を再開するのを待っていたのだろう。


「お前は新妻か」


「な、ななななななんで私がアキトのお嫁さんになってるのよ!?」


「だー(あ、アイナさんツンデレだ)」


「アイナさんわかりやす過ぎます……」


 ソラとミカがため息を吐くも、アキトはわけがわからずキョトンとしている。耳まで真っ赤にしたアイナは金のカードをアキトに渡して、赤くなった顔を誤魔化すように壁に掛けられているボードから一枚の紙を剥ぎ取り、アキトに渡した。


「グロードウルフの狩猟……なんだ、Bランクのクエストか」


 壁掛けされているボードはクエストボードという、ギルドが用意したクエストが纏められているボードである。冒険者ギルドを訪れた冒険者はこのクエストボードから受けたいクエストを選び、剥がした紙を受付に持っていってクエストを受けられる。という方式だ。


「ごめんなさい。そもそもそこのクエストボードにはBランクマでしか載ってないんですよ」


 ミカが心苦しそうな表情を浮かべながら説明する。

 なんでもスタードットの街はここ最近ランクBまでの冒険者しかおらず、それに伴って表に用意されるクエストはBランクまでのものだけとなった。

 もちろんAランク以上のクエストがないわけではない。クエストボードに貼られていないだけで受付で受注の受付はしているようだ。


「……ま、リハビリには丁度いいだろう」


「グロードウルフって百歳以上のレアルウルフのことですよね? そ、それがリハビリ……?」


「だー!(さすがおとーさんですね!)」


 はしゃぐソラのおでこを指でぐりぐりといじるとくすぐったそうに身を捩るソラを眺めながら、アキトは装備を調えなければならないことを思い出した。

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