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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
二章 ソラ、幼児編(6歳)
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ソラ、ついていく!




「街の外に馬車を待たせている」


「そうか。じゃあ早速――」


 ジークリンデを追いかけようと立ち上がったアキトの袖をソラがぐい、と引っ張る。

 じー、とアキトを見上げているソラは視線だけで「連れてけ」とアピールしている。


「じー」


「ど、どうした?」


「ボクも行きたいです!」


 アキトの腕を抱きしめて離れたくないと駄々をこねる。プレゼントしたリボンをぶんぶんと振り回しながらしがみついて離れようとしない。


「ソラ、遊びじゃないんだぞ?」


 ソラを育てると決めて六年が経つ。日々健やかに育っていくソラを見守りながら、アキトは次第にクエストにソラを同行させなくなっていった。


 それはソラを危険に巻き込まないためである。

 守ることが出来ないわけではないが、冒険者の世界をあまり見せたくないのだろう。

 魔物との戦いは命のやり取りである。アキトだからこそ勝利を掴んできた戦いも多い。


 それは命を奪う行為である。奪う命も奪われる命もクエストには存在し、助けられない命も助けられる命もある。

 時に非常な取捨選択を迫られることもある。かつてのエフィントウルフのように、苦い後悔をすることもある。


 優しいソラにそんな重荷を背負わせたくないのだ。


 アイナや自分のように生計を立てるために冒険者になるのであれば、致し方ないとも考えている。

 でもソラにはコハクが認める魔法の才能がある。ソラ自身も魔法の勉強を好んでいるから、アキトとしてはその道に進んで欲しいのだ。

 魔法研究に携わることが出来れば、冒険者として不安を抱えて生きることもない。安定して、安心して暮らせる生活が待っている。


 ソラにはまだ将来の夢を聞いたことはない。

 だからアキトは、ソラがその道を選べるように下準備を重ねていく。


「わかってます。……でもボクは、ディアントクリス、ってのを見てみたいんです」


 ソラの願いは常に興味が優先される。エルフたちと交流し魔法に関わることではなく、ソラはディアントクリスに興味があるようだ。

 それはアキトがソラに望むことではない。

 でも、ソラが望んだことなのだ。


「……わかった。でも戦いになれば絶対に離れること。古龍はそれだけ危険な存在なんだ」


「はいっ!」


 ソラの興味は、アキトが望む方向には繋がっていない。それでも認めてしまうのは、結局アキトがソラの事を大好きで、できるだけ悲しませたくないからだ。

 寂しい思いもさせたくないし、本音で言えば連れて行きたいのだ。


 自分の甘さに悪態をつきながら、満面の笑みのソラを見て苦笑する。

 そんなやり取りを見てたのか、アイナが食堂から顔を覗かせる。


「アキトー、クエストにいくの?」


「ああ。レイティア共和国まで。多分一週間くらいかかるな」


「レイティアって……どんなクエストを受けたのよ」


「古龍の討伐」


「は?」


 アキト同様アイナもまた素っ頓狂な声をあげた。


「なによどうしたのどうしていきなり古龍なんて!?」


 一瞬の沈黙の後アキトに詰め寄るアイナ。その表情は不安でいっぱいだ。


「受けるしかないから?」


「なによそれ!!!」


 不安でいっぱいだったアイナの表情が怒りに染まった。


「ダメよ。古龍なんて。ダメよ。だめ、だめ……っ」


「アイナ?」


「だって、まだアキトがいなくなっちゃう……」


「……っ」


 アイナは別にアキトの命を心配しているわけではない。アキトの実力は信頼しているし、負けるとは思っていない。彼の力を心の底から認めているから。

 でも九年前にアキトは古龍に関わってアイナたちの前から姿を消した。

 それがアイナの心に強く残っているのだろう。ソラのおかげで再会することは出来たけど、もしまたいなくなってしまったら。


「アイナ」


 そっとアキトはアイナの頬へ手を添えて見つめ合う。ほんのりと朱に染まるアイナの頬。美しいエメラルドグリーンの瞳を覗き込みながら、アキトは優しく微笑む。


「必ず帰る。約束するよ」


「……本当に?」


 頬に添えられた手を愛しみながらアイナも手を重ね、この感触を忘れまいとゆっくりと瞳を閉じる。


「ああ。なんだったら無事に帰ってきたらなんでも一つ、願いを聞いてやるよ」


「……わかった。アキトを信じるからね?」


 それでも不安を隠せていないアイナのために提案したアキトの言葉に過剰に反応したのは言うまでもなくソラである。


(何でも一つ!? これならお父さんとアイナさんが少しどころかゴールインまで一直線っ!)


「……なあ、アキト・アカツキとあの女史は恋人か夫婦なのか?」


「あれで冒険者ギルドの仲間って本人たちは言ってます」


「ははは。色恋沙汰に疎い私にでもわかるくらい純愛じゃないか」


「まじです。ボクも困ってるくらいです」


「…………いや、なあ?」


 アキトとアイナの光景を見ていたジークリンデの戸惑いにソラも同意する。今日初めて知り合った人にもこう思われてしまうほどなのだ。いい加減どうにかしなければどソラはいつも焦ってしまう。


 というよりここまで見せつけられてどうして当人たちは踏み越えないのだろうか。


「お父さんは朴念仁でアイナさんはヘタレですからね……」


「バウッ!」


 隅っこで寝ていたシロもソラに同調して吠える。


「少しだけ心配になってきたぞ」


「わう……」


 ジークリンデにまで心配されてしまいソラも思わずしょんぼりしてしまう。

 これ以上は見てられないと先にジークリンデは『秋風の車輪』を出てしまう。

 それからアキトとアイナが見つめ合うのを止めるまで三十分ほど、準備に要した時間が三十分ほど。一時間待たされたジークリンデが笑顔で殺気を放っていたのは言うまでもない。

こいつらいつ結婚するの?(作者)

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