表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
一章 ソラ、赤子編(0歳)
32/142

ソラの願い、アキトの幸福。




「……わかりました。アキトさんの人柄を信じて、『レアルウルフ亜種の生態観察』という名目で本部に申請します」


「ありがとう、ミカ」


「いえいえ。あんなにはしゃぐソラちゃんとシロちゃんを見てたら私も折れちゃいますよ」


「だー!」

「ワウッ!」


 日が落ちてスタードットの街に戻ったアキトは早速シロをミカに見せ、観察研究を名目に飼い慣らすことを半ば強引に説得した。最初は渋っていたミカだが仲睦まじく戯れるソラとシロを見て毒気を抜かれてしまったのか、少し頬を緩めながら承諾する。


「でもソラちゃん凄いですね。テイムも使えるなんて……」


「俺の娘だからな」


「あはは。そうですね」


 渇いた笑顔で返すミカだが、内心その通りなんだろうと感じているようだ。

 なにしろ血は繋がっていなくてもアキトは天性の冒険者。世界に数人しかいないSランクに歴史上最も若く到達した存在。

 そして、前代未聞の単騎によるファフニール撃退の功績。

 英雄という言葉はまさにアキトを指すのでは無いかと思うほど、アキトの力は壮絶な者なのだ。

 だが当の本人はマイペースなお人好しである。クエストをこなしているアキトをミカは見たことが無いから、本当にSランク冒険者なのかと疑ってしまう時もある。


 そんなアキトが育てると決めたのだから、きっとソラとアキトには不思議な繋がりがあるのだろうとミカは考える。


 凶暴であるはずのレアルウルフの亜種にテイムを施し、きゃっきゃっと遊ぶソラを見ていると不思議とそんな気持ちになる。


「ああもうソラちゃん。毛が凄いわよ」


「あい!(シロ楽しいです!)」


「ワウ!」


 少し抜けた毛にまみれたソラを見かねてアイナがソラを拭くと、待ってましたとばかりにシロがアイナに飛びついて顔を舐め出す。アイナは獣人だから匂いが近いのだろうか。

 そんなことを思いながらアキトはソラを胸に抱く。


「楽しそうだな」


「あー!(シロ可愛いですよ。もふもふも気持ちいいです!)」


 どうやらソラは相当シロを気に入ったようで、シロもソラをテイムしたマスターとして認めているのか見る限りではなんの問題もなさそうだ。

 無邪気に遊ぶのもいいが、もうそろそろソラは眠くなる時間だろうとアキトはソラを横向きに抱きかかえた。


「だー(あれ、バレてます?)」


「はしゃぎすぎだよ。さっきから瞬きもやけに多いしな」


 ソラはとっくに体力の限界を超えていてもうくたくただった。シロと遊ぶのは予想以上に体力を消耗し、いつもよりも早く眠気が襲ってきている。


「アイナー。シロを連れてきてくれー」


「わか……ちょ! シロ、ストップ! 猫の私にどうしてアンタが懐く!?」


「ッハッハッハ!」


 尻尾をぶんぶんと振り回すシロは無尽蔵の体力なのか散々ソラと遊んでもまだ遊び足りないのか離れたアイナの足にずっとすり寄っている。

 ソラが眠そうなのを察しているのかソラを求めず、あまり大声で吠えずに甘えようとしているあたり知能は高いのだろう。


「っはは。アイナの良さに気付くなんてシロもなかなか鋭いじゃないか」


 アイナとシロのやり取りを眺めながらアキトはソラを寝かしつけるために二階に上がる。アイナが貸してくれている部屋は追加料金を払い掃除のサービスを頼み、シロの抜け毛の対策にすることにした。

 ベッドにソラを寝かせ、目を細めているソラの頭を撫でる。アキトもベッドに腰掛けながら、ソラが眠るまで手を握る。


「……だー(ねむねむ……)」


「ゆっくりおやすみ、ソラ」


「あい……(……おとーさん。ボク、決めました)」


 微睡みの中でソラはうわごとのように呟く。優しい声色でアキトはソラに応える。


「何を決めたんだい、ソラ」


「あー(おとーさんが幸せに……なれるように……)」


「俺が?」


「あいー……(はい。ボクはおとーさんがいれば幸せだから、おとーさんも、しあわせに……)」


 静かな寝息が聞こえてきた。ソラは最後まで言わずに眠ってしまったようで、アキトはそんなソラの頬にキスをして頬を撫でる。


「お前がいてくれればそれでいいよ」


 出会いは必然であったとしても、ソラを育てると決めたのはアキト自身なのだ。ソラの優しさに触れて、三年間ずっと逃げ続けていた心の中の恐怖に少しだけ立ち向かえた。

 アイナやコハクと再会できたのも、冒険者に戻れたのも全てソラのおかげなのだ。ソラがあの日、雷と共に小屋を突き抜けなければ二人は出会わなかったのだから。


「俺はお前を幸せにする。それだけで十分だ」


 アキト・アカツキには欠けているものがある。

 アキトはどこまでも、自分自身を省みない。自分の命を使うことを躊躇わない。

 そんな自分が狂っていると、人間として壊れていると自覚している。

 そんな自分でも、ソラの前では父親でいられる。人間らしくいられる。

 胸に湧き上がる愛しさ。ソラを守り、ソラの笑顔を見て生きていたいという願い。


 アキトはこれからもソラを守り続ける。ソラはこれからも、アキトの幸福を望んで育っていく。

 お互いがお互いを支えながら、この親子は成長していくだろう。

 夜空を見上げながら、アキトはこれから過ごすソラとの生活に思いを馳せる。

 それはきっと楽しくてキラキラ輝いた毎日になるだろう。

 だってこんなに可愛い娘が自分の幸福を願ってくれるのだ。

 父親として、これ以上幸せなことは無いだろう。


「おやすみソラ。俺も頑張るよ」


 ソラの寝顔を眺めながら、アキトは精一杯優しく微笑んだ――。

ソラの【赤子編】はここで終了となります。

次回は番外編か、時間が経過しての話になりますね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ