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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
一章 ソラ、赤子編(0歳)
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ソラ、飼い主になる。




 まだ凶暴性も出ていないエフィントウルフの子供は狼というより犬に近い。生まれたばかりなのにその体躯はすでに大型犬ほどあり、ここからゆっくりと成長していくのだろう。

 親を求めてのか細い鳴き声は餌を求めているようで、このままであればいずれ餓死してしまうだろう。

 そうでなくても、これだけ弱々しい魔物であればレアルウルフに食い殺される。


「……参ったなぁ」


 今までであれば関係ないと放置すればよかった。エフィントウルフはこの森の生態系を荒らしたのだから、その報いは受けるべきだろう。

 だがしかし、エフィントウルフがこの森に来た直接の原因はアキトなのだ。アキトがクエストのために霧の森を訪れ、出産で気が立っていたエフィントウルフの縄張りに入ったから。グロードウルフを狩るだけならば縄張りの外で出来たかもしれないのに。

 全ては結果論だ。それでもアキトは後悔している。

 ソラを育てると決めたから。親になると決めたから。

 だから、この白狼から親を奪ってしまったことに責任を感じている。


「だー(育てたり出来ないんですか?)」


 ソラの頭に浮かんだのはこの白狼を育てることだ。まだ小さく凶暴でもないのなら、育て方次第で飼い慣らせるのではないかと。


「ダメだ。魔物を街にいれることは禁止されている」


 基本的に魔物というモノは制御できない存在だ。魔物使いといった者たちであれば可能かもしれないが、街自体が魔物を拒んでいる。

 いくら危険性がないと訴えたところで所詮は魔物なのだ。


「じゃあ、この小屋で育てるってのは?」


「こんな小屋じゃレアルウルフの集団に襲われれば持たない」


 元々アキトがこの小屋を使用していても無事だったのはレアルウルフがアキトを警戒していたからだ。賢い彼らはアキトに関わってはいけないと自然と距離を取っていた。

 だがこの白狼では話が違う。レアルウルフにとって無抵抗な獲物に過ぎないだろう。


 冒険者としても人間としても、この白狼とはもう関わらない方がいい。関わってもろくなことが無い。

 それはアキトも理解している。でも、そうしたくない心境のアキトである。

 だって、ここでこの白狼を見捨てることは、あまりにもソラの父親として似つかわしくない。


 白狼はアキトの匂いを嗅ぐと、目を細めて頭をこすりつけてくる。おそらく服に付いたエフィントウルフの匂いに反応しているのだろう。

 一瞬引っ込めた手を、恐る恐る伸ばす。

 まだ人間のことも知らない白狼はアキトに撫でられ、嬉しそうに鳴く。


「どうすっかなぁ」


「……だー(おとーさん、魔物を操る魔法ってどういうのがあるんです?)」


「どう、と言われてもなぁ。テイムって魔法しか知らないが」


 魔物に魔法で生成した首輪を付け、半ば強引に従える魔法だ。魔物使いの多くがその魔法を使い、長い訓練の果てに魔物を自由に操れるようになる。

 そもそも凶暴な魔物を強引に従わせる魔法であり、わざわざ魔物を操ろうと考える冒険者が少ないことから非常に使い手の少ない魔法でもある。


「だー?(魔物をテイムして保護した、ってのはダメなんですか?)」


「は? ……いやまあ、出来ないこともないが」


 それでもアキトが渋っているのは、白狼もいずれ凶暴なレアルウルフに成長するのでは無いかと危惧しているからだ。とりあけレアルウルフは魔物の中でも凶暴な部類に入ることをわかっているからこそだ。

 保護した、ならばミカの説得も容易だろう。何しろアキトが面倒を見ると言えば、必然的に脅威度は減るからだ。


 白狼は小さく鳴きながらアキトの手を舐めている。くすぐったさに手を引っ込めようとするが、どうにも引っ込めにくい。生まれたばかりの純真な瞳がアキトを見つめている。


「……俺はお前の親を殺したんだ。だから、お前には俺を恨む理由がある」


 しゃがみ込んで白狼にアキトは語りかける。白狼と見つめ合い、しっかりと事実を伝える。


「でもお前はこのままじゃ死ぬ。どうする。親の敵である俺と共に……来るか?」


「ワウッ!」


 おそらくアキトの言葉を理解はしてないのだろう。だがアキトの問いかけに、白狼は承諾の意を込めて吠えた。


「だー!(じゃあ、テイムです!)」


 アキトとアイナしかいないことをいいことにソラがテイムの魔法を唱える。魔法名だけで発動させる創造魔法は、大人しい白狼の首に水色の首輪を生成する。

 あ、とアキトが声を出した。アキトは自分でテイムを使おうとしたからだ。術式は知らないが、コハクに教わればすぐに使えるからだ。


「バウッ!」


 ソラのテイムによって白狼はソラに頭を下げる。ソラはアイナに抱えられる格好のまま手を伸ばし、まだ柔らかい白狼の毛並みをもふもふする。


「だー!(きもちいーです!)」


「……はは。こりゃなんとしてもミカの説得をしないとなぁ」


 ソラが気に入ってるなら仕方ないかと苦笑しながらアキトも白狼を撫でる。ただの犬のような白狼はされるがままに目を細めてうっとりとしている。


「…………私だって獣人だからふわふわしてるのに」


「……撫でて欲しいのか?」


「っ! ちちちちち違うから! そんなことないから!」


 ぽつりと呟いたアイナの言葉を拾ったアキトだが、すぐさまアイナに否定されて首を傾げる。ソラは白狼の背中に移って全身でもふもふを味わっている。

 抜け毛とか大丈夫なのかな、とアキトは心配しているがどうやら大丈夫なようで、ソラは白狼の上に座り込む。


「あい!(名前付けたいです!)」


「ソラが好きに付けるといい」


「あー(うーん……シロで!)」


「単純だなぁ」


 なんともわかりやすい命名に思わずアキトも笑ってしまう。でも白狼もその名前が気に入ったのか、「ワウッ!」と吠えて尻尾をぶんぶんと振り回す。

 随分と人懐っこい白狼・シロである。とてもレアルウルフの幼生とは思えない個体である。


「……もしかしたら、レアルウルフは周囲の環境で大きく変わるんじゃ無いのかしら」


「というと?」


「魔物の生態は未知の部分が多いわ。レアルウルフが生まれついて凶暴なのかどうかすらもまだ研究されていない」


 そもそもレアルウルフを捕獲して育ててみよう、と考える研究者がいるのだろうか。

 アイナの推測を聞いてアキトはその方向でミカを説得できないかと考える。

 魔物は大昔からこの世界にいる存在だ。数も種類も多く、動物たちを一方的にいたぶり人間の暮らしにまで被害を及ぼす困った存在だ。

 もし、その生態系が少しでも解明できるのなら。


「……うん。その方向でミカを説得してみよう。万が一が起きても俺が世話をしてれば大丈夫だし」


 ランクS冒険者という立場と、シェンツー家の後ろ盾を使えばギルドを認めさせることも出来るだろう。なにしろギルド側も数少ないSランクであるアキトの機嫌は取りたいはずだ。

 他にもギルド側を妥協させられるいい案がないか模索しながら、アキトはシロの上ではしゃぐソラの頭を撫でる。


「きゃー!(えへへ!)」


 本来なら創造魔法を使ったことも、勝手にテイムを使ったことも怒るべきだろう。

 だが結果的にアキトは心苦しさから解放され、シロを救うことも出来た。

 ちゃんと言葉にして叱っておく必要はあるが、それでもソラの行動で救われたのは事実だ。


「ソラ。創造魔法を使っちゃダメだ。それに俺の判断をちゃんと待つこと」


「……あい(ご、ごめんなさい)」


「でも、今回はお前が正しい。お前の機転で俺もシロも救われてる。だから、ありがとう」


 くしゃくしゃとソラの髪を乱雑に撫でながら感謝の言葉を伝える。


「あい!(えっへへー!)」


 アキトの言葉にソラは満面の笑顔で返すのであった。

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