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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
一章 ソラ、赤子編(0歳)
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ソラ、囲まれた!?




 エフィントウルフらしき魔物が出たと言われた街道はスタードットからそう遠くはない。アキトが暮らしていた森とスタードットを繋いでる街道のことを指している。

 アキトにとっては親しんだ街道だ。姿を見せるのもゴブリンを中心としたEランクでも相手に出来る魔物たちばかりで、なりたての冒険者たちはよく特訓としてこの辺りで経験を積む。

 普段であればこの街道はゴブリンや行き交う旅人、冒険者といったものたちで騒がしいのだが、今日に限ってはまだ日も昇っているというのに随分静かである。

 これもエフィントウルフが現れた影響なのか。


「ゴブリン一匹見かけないなんて、本当に異常事態よね」


「だなぁ。オークとかは森が中心だから見かけなくてもわかるんだが」


「だー(静かですねー)」


 ソラはアイナに抱かれたままのんびりとしている。なんとも緊張感がないのだが、それは傍に頼れるアキトがいるからだろう。アイナを見上げて観察していれば、ソラでもわかるくらいにアキトをちらちら見ている。時折頬を赤らめているあたり、アイナの感情はばればれだ。

 あんまり脅威と思っていなかったアイナだが、ソラとしてはなんだか面倒見て貰えて安心できるしだんだんとアイナも傍にいて欲しいと思うようになっていた。

 別に母親が欲しいわけではないが。むしろおとーさんのお嫁さんはボクがなりますとでも言いたげな表情をしている。


「そろそろ森が見えるが……静かなだけで異常はないな」


「じゃあ森に異常があるってことじゃない」


「森を根城にするために通りがかって遭遇した、が可能性として高そうだな」


 汗を掻いてきたソラの額を拭いながらアイナはアキトと共に見えてきた森に視線を送る。

 街道同様静寂にたたずむ森は見たところ異常は何もない。だが確実に森になにか起きている、とアキトは考えている。


「で、そのエフィントウルフってのはどんな魔物だったの?」


「ああ。特性としてはグロードウルフと変わりはなさそうだが、警戒心が強いんだろう。グロードウルフを倒したところですぐに退いたから、知能は高そうだ」


「つまり罠を張っても逃げられる可能性あるってことね」


「……その手があったか」


「アンタねえ……」


 アキトのひょんな言葉に思わずため息が零れてしまったアイナ。一緒のパーティーでクエストを受けている時から、アキトだけは罠などの搦め手を使うことなく真っ正面から切り込んでいった。

 アイナを前衛とするパーティーであり、アキトはアイナのサポートであるはずなのだが、どうにもアキトは突っ込んでしまう気質があるようでアイナもコハクもそのサポートに追われることも多々あった。

 結果としてはアキトが単独でも『どうにかしてしまう』からクエストは成功するのだが、アイナとコハクからすれば危なっかしくて見てられない。


「だー(おとーさん思ったより脳筋なんですね)」


「んーなにかいったかー?」


「きゃっきゃっ!(ぐに~)」


 ソラの念話が届くアキトはほっぺをぐにぐにと優しくつまむ。ほんわかした親子のやりとりにソラを抱くアイナの表情もつい綻ぶ。

 和気藹々とした光景だ。知らない人から見れば仲睦まじい家族として見られてもおかしくない。


 そんなアキトたちの表情が一変したのは、森から聞き慣れない遠吠えが聞こえたからだ。


「聞こえたか?」


「ええ。明らかにレアルウルフのじゃないわね」


 この森は一番厄介な魔物であってもレアルウルフといったDランク相当の魔物までしかしない。だからこそこの森もまた冒険者たちの特訓場所としても機能していたのだが……。

 その森から聞き慣れない遠吠えが聞こえた。

 つまり、探しているエフィントウルフがいると裏付けている。

 遠吠えからでも感じられる異様な殺気にアキトもアイナも表情を引き締め、アイナはソラを抱く力を強くする。


「アイナ、お前はソラを守ってくれ」


「任せて」


「大丈夫だ。お前たちは俺が守るから」


「……わかってるわよ。もう」


 アキトの言葉に頬を赤らめるアイナであるが、決して気を緩めたわけではない。

 ソラも森から感じるただならぬ気配を感じていた。森でエフィントウルフから感じていた気配そのものだ。


 不思議と恐怖を感じないのは、傍にアキトもアイナもいるからだろう。


自己強化(エンチャント)・五式」


 地面に書いた簡易的な魔方陣でアキトが自らの自己強化(エンチャント)の魔法を掛ける。一瞬の光に包まれてアキトの身体能力は飛躍的に向上する。

 エクスカリバーを引き抜いたアキトはいつでも戦闘に移行できる状態だ。意識を集中し、いつ何が襲ってきても対応できるように。


「だー(おとーさんのエンチャントって、なにか特別なものなんですか?)」


 ふとソラがアキトの自己強化(エンチャント)の詠唱に気付いた。アキトの自己強化(エンチャント)の詠唱は『五式』の部分だけであり、そこだけで役割を変えられるようにアキトとコハクの手で改良された魔法なのだ。


「特別ってほどじゃないが、まあ、Aランクくらいの魔物相手なら五式で十分な調整かな」


「アキトの自己強化(エンチャント)は一から段階的に強化が変化して、最低でも八式まであるのよね」


「まあ俺が受けるクエストの性質上六以下はほとんど使わないけどな」


 アキトの自己強化(エンチャント)は用途や相手に応じてギアを変えられる、とソラは解釈した。


 もちろん段階的に強化の比率が変わるために、使用される魔力も変わるし、過剰な身体強化は身体への負担も大きい。アキトとしてもよほどの相手でなければ段階を上げることはしない。


「着いた」


「いやこれもう森を立ち入り封鎖にした方がいいレベルじゃない!」


「あー(空気が重いです)」


 森の入り口からでも感じられる並々ならぬ殺気だが、アキトは平然と中への一歩を踏み出す。アイナもソラをしっかり抱きしめながら後を追う。

 自然と会話は減り、アキトが周囲へ意識を割いていく。


「そこ!」


 脇の獣道から飛び出してきたレアルウルフにアキトは即座に反応しエクスカリバーを振るう。追い払うために薙いだ一撃に怯んだレアルウルフは悲鳴を上げて森の中へと消えていった。


「……なーんかおかしいな」


「そうね。レアルウルフは普通集団で行動する魔物だし、飛び出してきた、というより逃げてきた、って感じだったわ」


 レアルウルフが飛び出してきた方向を注視すると、確かに一段と殺気が濃くなっていた。

 進行方向を変えて、獣道を進む。進むのに邪魔な木々や枝はエクスカリバーで切り払う。

 少し進んだところでアキトが足を止め、アイナに手で静止を伝える。


「いた。エフィントウルフだ」


 アキトの視線の先――かつてアキトが暮らしていた小屋がある少し開けた場所で、エフィントウルフが空を見上げながらたたずんでいた。

 エフィントウルフもアキトに気付いたのだろう。「ウォーン」と殺気に満ちた遠吠えと共に、次々とレアルウルフやオークといった魔物たちが飛び出してきた。

 おそらくどの魔物もエフィントウルフの支配下になったのだろう。

 その数はおよそ、百を超えていた。

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