ソラ、コハクと出会う。
「だー?(教会って、ボクどこも変じゃないですよ?)」
不安げに見上げてくるソラにアキトは頭を撫でて不安を和らげてやる。目を細めて喜ぶソラだが、教会に行くと言われてから不安をずっと抱いている。
「大丈夫だよ。ソラが魔方陣なしで魔法が使えるってのをコハクに聞くだけだからさ」
「むー(そんな変なことしてないと思いますが)」
「変なことじゃないさ。凄いことかもだと思ってさ」
アキトの言葉にソラは渋々納得する。自分がしたことがなにか不味いことだったのか不安だったが、アキトにそこまで言うなら……と教会に行くことを承諾する。
教会はスタードットの街の東端に存在しており、親を失った孤児たちの面倒を見ている施設でもある。教会、と謳ってはいるがある事情からシスターや神父はおらず、今は子供たちの世話をコハクが見ている状態だ。
「コハクとも三年振りだなぁ」
「だ?(コハクさんって、どんな方なんですか?)」
「んー……ドジ?」
オーキッドと同じ『魔法オタク』とでも答えようとしたアキトだが、オーキッドとコハクの魔法への取り組む姿勢のベクトルの違いを考えて言葉に悩んだ。
オーキッドはあくまで魔道書を集め、世の中の英知を招集したいと思っている老人だ。自分が使うわけでもなく、ただコレクションして眺めていたいだけだ。
だがコハクは違う。
「コハクは俺やアイナと違って純粋な魔法使いで、研究に没頭するタイプだな」
「あー(どうしてコハクさんはおとーさんやアイナさんと冒険者になったんです?)」
「あいつに頼まれたから」
けろっとした顔で答えるアキトだが、その答えではソラは理解していないようだ。
言葉が足りなかったかな、と苦笑しながらアキトはどう説明すればいいか考える。
「俺とコハクは昔から兄妹みたいに育っててさ。どうしても必要な材料を手にいれるために俺とアイナに頼んできた、ってところだな」
「だー?(つまりおとーさんはお兄ちゃんだったんですか!)」
「何故そこだけに反応する」
どうにもソラは質問しながら興味を失ってしまったようだ。そういうところは赤子なのかと心の中でツッコミながら、アキトは教会への道を進む。
「っとと」
「おやおや……ごめんなさいね」
「いえ。こちらも申し訳なかった」
曲がり角を曲がったところで買い物袋を抱えた初老の男性とぶつかってしまった。抱えられてた袋が落ちて中の果物が地面に散らばってしまう。
アキトはソラを背中に移すと落ちてしまった果物を拾い、軽く砂をはたく。落ちてしまったが傷は付いてないようで一安心した。
「俺みたいなそそっかしい奴が多いから、気を付けてください」
「ありがとねぇ」
ぶつかったのはこっちだと主張するアキトだが男性は小さく会釈をして街中へ溶け込んでしまう。申し訳ない気持ちがあるが、スタードットの街で人を探すのはそれなりに骨が折れる。顔も名前も知らない相手だ。
この街にいる以上はいつかは再会できるだろう。その時にもう一度謝罪しようとアキトは心に刻み込んだ。
「はー。相変わらずオンボロだなあ」
「だー(本当に教会ですか?)」
ソラがそう言うのも無理はない。教会の象徴ともいえる屋根の十字架は一部が欠け、よくみれば蜘蛛の巣が張っている。ガラスなどは綺麗だからちゃんと掃除もされているようだが、いかんせん建物自体が老朽化している。
しかし孤児院としても側面は健在なのだろう。子供たちの遊び場と化しているはずの教会から騒がしい声が聞こえてくる。
賑やかで楽しそうな騒ぎ声に、アキトは懐かしさを覚える。
「コハクー、いるかー?」
取り付けの悪いドアを開けると、そこには意外な光景が広がっていた。
教会の中は確かに子供たちの遊び場となっていた。椅子も壁掛けも落書きがされ、外側以上にぼろぼろだ。
親家族を失った子供たちだからこそわんぱくに育つことはいいことなのだが、こればかりは少々やりすぎではないかと思いつつ。
「に、ににににににに兄さんっ!? なんで兄さんがここにいるの! 幻覚? コハクがつい兄さんに助けを求めてついに幻覚まで見ちゃったの!?」
「あははー。コハクねーちゃんおもしれー!」
「こらダイキ。まーたおねーちゃん困らせてー!」
「うっせーやい! 隙だらけのコハクねーちゃんが悪いんだー!」
ドアを開けたアキトの脇を子供たちが駆け抜けていく。少年を叱っていた少女は腰に手を当てて怒った表情を見せつつも、一連のやり取りが楽しかったのか表情は笑顔である。
教会の中心で尻餅をついている紺色の髪の少女は、アキトを見て琥珀色の瞳を驚愕に染めた。
「コハク。俺は兄として少し恥ずかしいぞ」
「あああああ違うんです! 違うんですよ! 普段はもっとマシなもの穿いてますし! でもペンギンさん可愛いじゃないですかー!?」
慌ててスカートを抑えたコハクだが時すでに遅し。アキトはスカートの中をしっかりと見てしまっていた。すぐに記憶をかき消そうとも思ったが、コハクとは昔からこんな間柄であったのを思い出し逆に哀れんでしまった。
「確かにお前はもう十六だ。だがな……孤児院の経営に関わる者がどうぶつパンツはなぁ」
「忘れてくださいよー!? せっかくの兄さんとの再会がぁー!?」
コハク・アカツキ――敢えてアキトと同じ姓を名乗っている、アキトの妹のような存在。
普段は孤児院で子供たちの面倒を見ている優しいお姉さんだが、その正体はアキトやアイナと肩を張りクエストをこなしていったAランク冒険者にして、生粋の魔法使いである。
――まあ、パンツ晒しちゃってるけど。
「だー(ここに来て妹系ヒロイン登場でボクもうかうかしてられません)」




