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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
一章 ソラ、赤子編(0歳)
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ソラ、魔道書を買ってもらう。




 翌日、朝食を終えたアキトはソラに急かされスタードットの本屋にいた。

 本屋といってもスタードットには大きく分けて二種類の本屋が存在する。

 一つは雑誌や小説、新聞を取り扱う一般的な本屋。

 もう一つは魔道書専門の本屋である『白露の宿り木』だ。店主のオーキッドは知る人ぞ知る『魔法オタク』であり、彼の手によって増産された魔道書が軒を連ねている。


「いらっしゃ……ってなんだアキトか。久しぶりじゃのう」


「久しぶりだな、じいさん」


「ほっほっほ。三年振りじゃな。……コハクちゃんはどうした?」


「教会で子守してると聞いてるが」


「冒険者に戻ったとは聞いたがまだ会ってないのかお前は……」


 深いため息を吐くオーキッドとアキトは旧知の仲のようだが、ソラは二人の関係よりも店中に隙間無く並べられている魔道書に興味津々なようだ。

 そんなソラにオーキッドが気付く。胸元まで伸びた白髭をいじりながら柔和な微笑みで話しかける。


「可愛い赤ん坊じゃのう。お主の子か?」


「ああ。ソラっていうんだ」


「だー!(よろしくお願いします!)」


 小さく伸びたソラの手をオーキッドが撫でる。豊かな髭と白髪、そしてすっかり皺だらけのオーキッドはソラから見ればどこからどう見ても魔法使いそのものである。

 オーキッドの年齢はアキトも知らない。そもそもアキトが出会ってからまだ七年ほどだが、ずっとオーキッドはこの姿でこの店を営んでいる。


「誰の子じゃ? アイナか?」


「森で拾った」


「ほう……お主が子を拾い、育てるとはな。意外なものじゃな」


「そういうこともあるさ」


 笑い合うアキトとオーキッドにはアイナとは違った情の形があるのだろう。再会の挨拶はこれだけで十分だと差し出された拳に拳を重ねた。


「しかしお主が魔道書を読むのか?」


「ソラが興味あるみたいでな」


「だー!(本がたくさん! たくさんある!)」


 目をキラキラと輝かせているソラを見てオーキッドも微笑む。

 どこからどう見ても魔法を習うにはソラは幼すぎる。だがオーキッドはその程度を理由に客を断ることなどしない。


「では気に入るものをゆっくり探すといい。魔法は誰にでもその門を開いて待っているからのう」


「あいっ!(はいっ!)」


 背中にいたソラはアキトに抱えてもらう体勢に変わってもらい、じっくりと棚の魔道書を眺める。


「あー(……読めません)」


「会話は出来るのに?」


「むー(そういう魔法があればいいんですが……)」


「翻訳系か。じゃああっちの棚だな」


「あい(お願いします)」


 ソラが興味を持った魔道書をいくつか手に取り、まだ文字が読めないソラのために内容を少しだけアキトが音読する。言語はわからないが言葉にしてもらえば理解できるようで、さっそくとばかりにソラは翻訳の魔道書を選んだ。


「あとは……基礎の魔法を属性諸々詰め込んだのと、属性一つに絞られてる魔道書もあるぞ?」


「うー、うー(氷とかありますか?)」


「水属性に分類されるかな」


「あー(あと出来れば、おとーさんのエンチャントみたいな魔法も知りたいです)」


「エンチャント? あれは魔法使いにはあんまり必要ないが……」


「あい!(いいのです!)」


 ソラが何を目的に魔道書を選んでいるかはアキトにはわからないが、魔法に興味津々なのは手に取るようにわかる。

 こちらの世界に来たソラが初めてなにかを欲しがっているのだ。報酬もたっぷりもらったことだし、アキトとしてはなにか与えたくて仕方が無いようだ。


「これだけでいいのか?」


「だー!(十分すぎます……いいんですか?)」


 ソラがあれもこれもと選んだ結果、翻訳を初めとした魔道書は十冊ほどになっていた。中にはなにに使うかもわからない魔道書もあったが、アキトは深く考えないことにした。

 娘が欲しいと言っているのだ。買ってやらずして何が父親だ(個人の解釈に違いがあります)。


「随分買うのう。……ふむ。いいものを選ぶ」


「そうなのか?」


「ああ。ソラちゃんはいい魔法使いに育つぞ。ワシが保証する」


 どうやらソラが選んだ魔道書は店主であるオーキッドが目を付けていた魔道書も含まれているようで、オーキッドは偶然であろうともそれを選んだソラを高く評価している。


「全部で一万と七百ゴールドじゃが……ふむ。一万でいいぞ」


「だっ!?(高い!?)」


「いいのか?」


「ソラちゃんへのおまけじゃ」


「助かる」


 ソラが口を挟む間もなくアキトは魔道書の代金を支払い、オーキッドは丁寧にアキトの用意した鞄に魔道書を詰めていく。思わぬ値段になってしまい面食らっているソラは、アキトにしか伝わらないことをいいことに念話で叫ぶ。


「だー!(おとーさんダメですよ! 今回の報酬の三分の一も使っちゃうじゃないですか!)」


「それがどうかしたのか?」


「だー!!(お金は大切に使わないと! 我が儘すぎたんだったら、我慢しますから!)」


「我が儘? あれがか?」


「あい!(我が儘ですよ!)」


 鞄を背負うために胸元で抱きかかえられたソラは暴れることはしないがアキトに必死に訴え続ける。魔道書が欲しいとは言ったが、生活を圧迫するほど買うつもりはなかったと。

 我が儘を聞くために無理をしたなら我慢すると。


 ソラが何を訴えたいのかアキトはわからない。それはソラの過去に起因していることで、今のアキトが察せ無いのも無理はない。

 だからアキトは、せめて自分の本心を語る。


「こんなの我が儘じゃないだろ。可愛いお願いさ」


「だー(我が儘です。我が儘です……)」


「いいんだよ。これでソラが喜んでくれるなら安いものだ」


 アキトからすれば子育ては未知の領域であるし、子供がなにを渡せば喜んでくれるかもわからない。アイナやコハクであれば子供の相手に慣れているから容易いだろうが、とにかくアキトにとっては手探りのことだらけなのだ。

 ソラは普通の子供とは違う。中身は赤子ではない。死んだ時の年齢を考えれば、アキトの娘であることすらおかしい話なのだ。


 けれどもアキトにとってソラは娘なのだ。


「金はいくらでも稼げばいい。それよりもソラをきちんと幸せに育てることが最優先だしな」


「だー……(おとー、さん)」


「もし気に病むんだったら、それこそ買った魔道書をしっかり使ってくれた方が嬉しいぞ?」


「……あい(……わかりました)」


 まだ完全に納得はしていないのだろう。黙り込んでしまうソラだが反面アキトはにこにこと笑顔で『秋風の車輪』への帰路を歩んでいる。

 理由はわからないが嬉しいのだろう。

 本を見て目を輝かせていたソラを。そんなソラが欲したものをちゃんと買って与えられる自分が。


「明後日くらいにはまたクエストにでるつもりだし、それまでにしっかり読もうな?」


「あいっ(はいっ)」

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