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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
一章 ソラ、赤子編(0歳)
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ソラ、ただいま。




 ワイバーンによる大空の旅はあっという間に終わった。なにしろ空には地上よりも遙かに障害物がないのだ。

 それでいてワイバーンの出せる速度はディノレックスの数倍は出るのだから、三時間かかった道程が一時間を切っても不思議ではない。


 スタードットの街内にある飛龍車専用の発着場にワイバーンが着陸すると、御者は親指を立ててサムズアップ。「どうだい最高な空の旅だろう?」とでも言いたげな表情だった。


「楽しかったよ。ありがとう」


「だ!(ありがとうございました!)」


 アキトとソラはそんな快適な空の旅をプレゼントしてくれた彼と笑顔で別れを済ませて戻ってきたスタードットの街を歩く。

 ソラにとっては見たことのないスタードットの裏側の街並は新鮮で、普通に歩いているだけでも楽しげだ。


「だー(やっぱりいろんな人がいるんですね)」


 冒険者ギルドから離れた場所にも亜人種は数多く生活している。持ち前の腕力を生かして鍛冶屋を営むドワーフや、美貌を活かして接待をしながら酒を飲む吸血鬼。

 獣人の多くは肉体労働や鋭い嗅覚を使って飲食店で働くものも多く、ソラから見ればどこにも沢山の亜人がいていくら見ていても飽きることはないだろう。


「スタードットはそれこそ冒険者の街って色が強いしな。生活に溶け込む亜人も多いけど、冒険者にはもっと沢山の種族がいるしな」


 アキトのこれまでの冒険者としての生活でも様々な種族との交流があった。

 アイナをはじめとした獣人、その時の武器や防具で世話になったドワーフ、魔法学校のエルフ。

 誰もが上手く折り合いを付けて生きていた。種族の垣根を越えて結ばれる者もいた。

 自らの種族だけに縛られず、楽しく生きるために何が出来るかを考えていた。


「だー(共存っていいですよね)」


 ソラからすればそれは本当に素晴らしいものだ。なにしろ前世の世界では同じ人間同士であろうと腹を探り合い相手の足を引っ張ることが常々当たり前の世界だったから。

 言葉が違えば嫌悪感を抱き、同じ人間であるというのに喧嘩は耐えないし酷ければ戦争にまで発展したいた。

 価値観の違いが争いを引き起こすとはわかっていたが、この世界を見てしまうとなんて狭い世界だったのだろうと。

 そして、家族は――。


「さて、帰るかー。アイナに怒られる」


「あい(あはは……)」


 これから起こる出来事を予想したアキトがため息を吐き、ソラは思わず苦笑い。

 とはいえアイナはアキトたちの身を案じて怒っていたのだからそこまで理不尽な怒られ方はしないだろうとソラは読んでいる。

 だってアイナはアキトのことが好きだから。

 あんまり嫌われるようなことはしないだろう。


 そしてなによりここにはユリアーナ(宿敵)がいない。

 アイナさんごめんなさいあなたが最初からお父さんの候補から外れてしまっているんです。

 ソラはそんな不謹慎なことを考えながら自分を抱きかかえているアキトの服をぎゅっと掴む。

 この身体ではまだ身体を使って甘えることも難しい。これが今でき精一杯である。


 この街ならばアキトとの幸せ親子生活を邪魔する者はいないと、このときのソラはそう思うのであった。




「ただいま」


「だー!(ただいま、です!)」


「お帰りアキト。ソラちゃんは無事だった!?」


 多分こっちにいるなーとアキトがぼやきながら『秋風の車輪』冒険者ギルド側の扉から入ると確かにアインが待ち受けていた。見事な連携であると同時に、アイナさんどうしていつも暇そうにしてるんだろうとソラは思ってしまった。


「はーいソラちゃんもおかえり~」


「だ~(く、くすぐったいよ~)」


 ソラを預かったアイナがナデナデ頬ずりほっぺにちゅっちゅと連続コンボを決めてくる。メロメロだ。親馬鹿……子煩悩なバイラルと似ていると思いながら全身でアイナの愛情を受け止めることにする。


「俺は着替えてくるからさ。アイナはソラの着替えとか出来るか?」


「任せてっ」


「あー(うー。おとーさんがよかった)」


 けれどもアイナに着替えさせられるのも嫌いではない。アキトの次にアイナがいいと思うくらいにはソラはアイナのことを気に入っている。

 アキトと同じか、それ以上かと思わせるくらいアイナは無償の愛をソラに注いでくれる。

 まるで母親のように。

 お父さんがいればそれでいいと思っていたソラだが、アイナがお母さんであればそれはそれで嬉しいなと思っているほどだ。


「だー(でもそうしたらおとーさんのお嫁さんがアイナさんになっちゃうのがなあ)」


 私お父さんのお嫁さんになるプロジェクトを密かに考えているソラとしてはアキトの回りに魅力的な女性が集まるのは正直困るのだ。おとーさんはボクと幸せになるのです。と思わずほんわかしてしまいそうな計画を進めている。


 赤子だから進めようがないが。


「アイナさぁぁぁぁぁぁぁん! 早くキッチンに入ってくださいよぉぉぉぉぉぉっ。私受付の仕事たまってるんですよ!?」


 食堂のキッチンからミカの悲痛な叫び声が聞こえてきてソラは察してしまう。

 アイナは暇そうにしていたのではない。アキトたちを待つために仕事を放り出していたのだ。


「大丈夫よミカならできる!」


「仕事がぁ! 仕事がぁぁぁぁぁぁ!」


 今にも泣き出そうな声のミカが受付に戻れたのは、着替えを終えたアキトが下に戻ってきてからだった。

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