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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
一章 ソラ、赤子編(0歳)
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娘、自己紹介する。




「念話って……赤子のくせになんで魔法が使えるんだ?」


 アキトが知る限り、念話の魔法というのはかなり高度な魔法である。

 魔法に携わった才能ある人間だとしても習得するのに五年以上は費やさなければならないと言われている。

 そんな高度な魔法を、目の前の生まれたばかりのような赤子が使えるという。

 実際に念話で伝えられているから信じるほかないが、それでもアキトは半信半疑である。


「だー、だー(神様からの贈り物だそうです)」


「……神様?」


「だー(はい。別の世界で死んだボクをこの世界に転生させてくれた神様です)」


 なんとも眉唾な話である。赤子の言葉を信じるのであれば、神というのは死んだ人間を別の世界で蘇らせてくれる存在らしい。

 この世界の主神として崇められている戦神アルスーンの逸話では考えられない話である。

 もっとも、与太話と笑うことも出来ないが。


「だーだー(ついでに言語や魔法に関してはかなり大盤振る舞いしてくれたようで、ボクに使えない魔法はないらしいです)」


「まじかよ神様すげえ」


 まさに神業である。神の所業に間違いはないのだが。

 だがそこでアキトは疑問を抱いた。もし本当に神様がいたとして、どうして赤子は森の中、アキトの小屋を突き抜けるように送られてきたのか。

 転生するのであればそれこそ裕福な家庭に生まれれば不自由はないだろうに、どうしてアキトしかいない森の中に転生したのか。


「だー(それは、ボクが願ったからです)」


「願った?」


「きゃきゃ!(はい! 神様と約束したボクの願い事は――素敵なお父さんが欲しいことなんです!)」


「……はぁ」


 素敵なお父さん、というあまりにも曖昧な返答にアキトは苦々しく笑うことしか出来ない。

 素敵な父親が欲しいのであればそれこそ本当に裕福な家庭なり、王族にでも転生すればよかったのではないか。

 少なくとも森でアキトに拾われることが素敵な父親との出会いに繋がるとは思えない。


「だー!(そしてその結果、素敵なおとーさんに出会えたのです!)」


「……は?」


 赤子の言葉にアキトは先ほどの言葉を思い出す。

 出会って念話に驚いて忘れてしまったが、先ほどから確かにこの赤子はアキトを指差して「おとーさん」と呼んでいることに。


「だー(そういうわけなので、育ててください)」


「いやいや。いやいやいやいや」


 首をぶんぶんと横に振りアキトは赤子の言葉を拒否する。

 ようやく二十歳を迎え森での暮らしに慣れてきたのだ。

 魔物を狩り、時には冒険者の手伝いをして、たまには冒険者から食料を奪う自由きままな生活を営んでいるのだ。

 普通の人のように誰かを愛して愛されて、子供を授かって幸福な家庭を築くなんて――アキトの人生プランには入っていなかった。


「オレに父親なんかできないよ」


「だー!(そんなことありません!)」


「いやだからさ……」


 赤子の言葉は念話と叫び声が混ざって聞こえるためにアキトからしてみれば会話するだけで疲れてしまう。そんなこともお構いなしに赤子はアキトを父親として求めている。

 育てて欲しいと懇願している。

 けれどアキトは、赤子の思いに応えようとしない。


「はぁー。しょうがない」


「だー?(どこにいくんですか?)」


「街だよ。ここから一時間ほど歩いたところにスタードットって街があるんだ」


「だー!(街! 異世界ファンタジーの王道! 楽しみです!)」


(いや、お前を引き取ってくれる人を探しに行くんだけど)


 バスケットを抱えて赤子の重みを感じながら、屋根の修理は後回しにすることにした。

 街に行きがてらオークの牙だけは採取して、狩猟報酬だけはもらっておこうと考えながらアキトは森の中を進む。

 国境沿いにある森は陽の光も届かない場所が多いほどの深い森だが、この森で暮らすアキトにとってはぬかるんだ地面も滑りやすい苔も慣れたものだ。


 並べておいたオークの死体はものの見事に食い荒らされていた。狩猟の証である牙はかろうじて採取できたが、肉のほとんどは散らばってしまっている。

 赤子はバスケットに入ったままだからアキトを見上げることしか出来ないのが幸いした。

 こんな肉が散乱している光景なんて見ないに越したことはない。


「タイミングまずかったなぁ」


「だ?(どうしたんですか?)」


「囲まれてる」


「だー?(え?)」


 アキトと赤子を囲むように森の茂みから黒い毛並みの狼が姿を見せる。

 レアルウルフ。集団で獲物を襲う、凶暴で知恵の働く魔物だ。

 鋭い牙は獲物の骨すらかみ砕き食べてしまうと言われている。


 もちろんレアルウルフもアキトにとっては慣れ親しんだ魔物だ。倒すことは造作もない。

 だがアキトは赤子を抱えている。地面に降ろせばレアルウルフに狙われるし、抱えたままではさすがに手を焼く。


「だー(お父さん、困ってます?)」


「ピンチだなぁそりゃ。ま、なんとかでき――」


「だー!(サンダー!)」


「キャンッ!?」


 困っていると告げた瞬間、赤子が空に向かって手を伸ばし魔法を発動させた。

 どこからともなく現れた雷がレアルウルフたちに直撃し、悲鳴を上げてレアルウルフたちは散っていく。


「きゃっきゃっ(終わりましたよー)」


「は、ははは」


 アキトも思わず苦笑い。レアルウルフたちを殺してはいないが、地面についたコゲ跡を見ると渇いた声が出てきてしまう。


「すごいなぁ、お前」


 呆気取られるが、それでも自分のためにしてくれたのだからアキトは複雑な心境である。

 褒めて褒めてと騒いでる赤子を優しく撫でて、アキトはオークの牙を採取することにした。

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