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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
一章 ソラ、赤子編(0歳)
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ソラ、祈りが通じる。




「お待たせしました」


 バイラルが用意させたパーティーはアキトに配慮して立食形式のものだった。

 山盛りのパンやパスタには貴重な香辛料がふんだんに使われ、漂ってくる匂いだけで涎が出てきてしまいそうだ。

 内地にあるというのに新鮮な野菜はきっと今朝方届けられたばかりのものなのだろう。そんな貴重なものまで色とりどりのサラダとして出され、パーティーのメインとして用意された角ヒツジの丸焼きから来る香ばしい匂いだけでもお腹が満杯になりそうだ。


「だー……(おいしそー、です)」


 前世の記憶を持っているソラでさえご馳走と思える品々だ。特にキャビアをふんだんに掛けられたパスタなどソラは前世でも食べたことがない。

 思わず涎が出てしまうソラだが、消化機能が育ちきっていないこの身体では食べることなど出来やしない。

 目の前に食べてもいいご馳走があるのに食べられないもどかしさにソラは一人駄々をこねることしか出来ない。


「だ!(いいなぁ、おとーさん)」


「お前がもうちょっと成長したらアイナに沢山作ってもらうから。な?」


 ソラを片手で抱えてるアキトは骨付き肉を食らえば次にパスタを飲むように吸い込み、パンを一口で食べればサラダを次々に口に放り込んでいく。

 鍛えているとはいえアキトはそこまで大柄ではないのだが、いったいどこに入っているのだろうか。


「ん……このワインは肉に合いますね」


「そうとも。熟成もしっかりしてる赤ワインだからね!」


 バイラルのワイングラスが空になることはない。一口飲むごとにそばに控えたじいやが次々に注ぐことで途切れないのだ。

 ワインとはそうやって楽しむものなのかと疑問を抱くが、アキトは気にしないことにした。


 元々冒険者として生きていたアキトは「食べる時に食べる」がモットーだ。とにかく身体を動かすアキトやアイナは味付けの濃い肉を特に好み、魔法使いとしてあまり動かず小食であったコハクが主に料理番だった。


「しかし、グロードウルフも弱くなったもんだな」


「あー?(そうなんですか?)」


 アキトの記憶の中のグロードウルフはもっと手強い存在だった。アキトが迫ってもなおアキトを殺すために牙を剥き爪を振るうほどだ。

 だが戦ったグロードウルフたちからはアキトを殺す執念のようなものは感じられたが、牙も爪も振るわれる前に大地に沈んだ。

 アキトからすれば弱すぎて拍子抜けだ。


 冒険者から離れて三年の内にグロードウルフも慢心を覚えてしまったのかと少し哀れむ。


「お父様、アキトさん。お待たせしました」


「……おぉ」


「あうー(ぐぬぬ。ユリアーナさん、綺麗です)」


「似合ってるよユリアちゅわぁーん!」


 遅れて来たユリアは先ほどまでのドレスから一新し、真紅のドレスを身に纏っていた。前髪にはミルトニアムの花飾りを付け、身体も清めたのだろう、綺麗な金の髪はシャンプーなどでさらに手入れが施され、見ただけでもサラサラの毛並み具合がわかるほどだ。

 足首まで届くドレスの裾をつまみ、ユリアーナは一礼する。その仕草はとても六歳の少女には見えない。


「どうですか、アキトさん」


「似合ってるよ。綺麗なお嬢さんって感じだ」


「ありがとうなのじゃ…………ございます」


 どうやら口調も意識的に切り替えているみたいだが、アキトに褒められて思わず素が飛び出してしまったようだ。

 「ハハハ」と笑うアキトはそれでも食べるのを止めはしない。貴族が祝宴として用意した食事にしては冒険者に好まれる味付けだなーと思いつつ頬張っていく。


「だー(もうおとーさん! ほっぺにソースが付いてますよ!)」


「アキトさん。ほっぺにソースが付いてますよ?」


「だー!?(あー!?)」


 頬についていたソースを指摘したソラだがすぐにユリアーナにも指摘され、苦笑しながらアキトはソースを拭う。

 だがナプキンを取ろうとしたらその場でユリアーナの指がアキトの頬を撫で、ソースを拭い取ってしまう。


「あむっ。ふふ、美味しいお料理ですね」


 指に絡んだソースを舐め、どうやらユリアーナはご満悦のようだ。

 この時ソラは明確に感じ取った。神様のご褒美として手にいれた新たな人生。大好きな父親とのいちゃいちゃ人生を妨げる存在はアイナではなくユリアーナなのだと。

 六歳差。子供という括りからすればたいしたものでは無いがその差は当事者たちからすれば大きい。

 この年齢差から推測できるのは――元の世界の基準で言えば、ソラが十歳を迎える頃にユリアーナは十六歳になるということ。


 つまり、結婚することが出来る。


「だー……!?(駄目です。ユリアーナさんは危険です。ボクからおとーさんを奪うつもりです!?)」


 ソラの本能がアラートを鳴らす。このままではバイラルも巻き込んでアキトがユリアーナと婚約させられてしまうのではないか。

 あれだけ子煩悩なバイラルだが、アキトに恩義を感じユリアーナが恋心を抱いてると知れば応援してしまう可能性も高い。

 それだけは避けなければならない。おとーさんと一緒に幸せになるのはボクなんだとソラは強く決意してユリアーナを睨む。


 正直に言うとアイナのことは脅威として見ていない。おとーさん鈍感すぎてツンデレ不器用なアイナさんは苦労して顔真っ赤にされて振り回されるだけだと予想している。


 だが正面から気持ちをぶつけてくるであろうユリアーナは危険すぎる。

 どうすればいい。どうすれば一刻も早くここから脱出することが出来る?


「だー……!(お願いします神様助けてくださいボクの幸せ異世界生活のために!)」


 頼るつもりはなかった神様に頼るしかなかった。

 しかし所詮は神頼み。そんな都合良くアキトが帰る理由など出てくるわけが。


「うぉ!?」


 激しい鐘の音がアキトのズボンから聞こえてくる。鐘の音はアキトの冒険者カードから発せられており、そこには「アイナ」と文字が浮かび上がっていた。


「どうしたんだアイナ?」


『どうしたもこうしたもクエストクリアの連絡も無いしアキトにしては時間掛かってるし誰か女の子でも助けてお礼に食事でもしててちょっと囲まれてるんじゃないかと思って《コール》したのよ。べ、別にアキトのためじゃなくてソラちゃんのご飯とかアキトを心配してるミカのためなんだからねっ!?』


「だー!(神様ありがとうございます!)」


 別に神様を信奉しているわけではないがソラはこの時ばかりは神に感謝した。

 しかし冒険者であることを示すカードが電話のように使えるとは知らなかった。冒険者は奥が深いんだなーとソラはにこにこと笑顔で何度も頷くのであった。

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