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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
一章 ソラ、赤子編(0歳)
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ソラ、親馬鹿を見る。




「心配してたんだよユリアちゃん!?」


「あはは……ごめんなさい」


「無事ならいいんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


 一連のバイラルの行動を説明すると、抱きつき→抱擁→頬ずりによる連続コンボである。

 ユリアーナは逃げもせずバイラルに捕まり、されるがままに撫でられ続ける。


「旦那様、申し訳ありません」


 頭を下げるじいやをバイラルは睨め付けるが、胸の中のユリアーナを気遣って敢えて何も言葉にはしない。おそらく後でなんらかの処罰を下すのだろう。


「ぷはっ。苦しいのじゃお父様~」


「ああっ。ごめんねユリアちゃん。大丈夫?」


「大丈夫なのじゃ!」


 元気よく跳ねるユリアーナを見ていると、父であるバイラルをしっかり思っているのが感じられる。そうでなければ危険を冒してまでミルトニアムの花を採取しにいかない。

 そんなユリアーナの前髪に付けられている髪留めに気付いたバイラルは、そっとその髪留めに触れた。


「これはもしかして、私が探していたミルトニアムの……?」


「えへへ。そうなのじゃ。明日はお父様の誕生日ですしな!」


「ん~~~~~~ユリアちゃん大好きだよぉ~~~~~~っ!」


「くすぐったいのじゃ!」


 「あはは!」と親子揃って大声ではしゃいでいる光景は実に仲睦まじい。

 仲睦まじいが少々暑苦しい。

 なにしろバイラルは贅を蓄えた豊かな腹をぶるんぶるんと揺らしている。額には大粒の汗を掻いており、見ている分には非常に暑苦しい。

 とはいえそこまで不快に思うほどではない。それなりに綺麗な身だしなみをしている。


「……あれ、君は?」


「どうも。アキト・アカツキです。この子は娘のソラ」


「だー(よろしくお願いします)」


 なるべく警戒されないように最低限の挨拶で済ませ、愛くるしいソラで誤魔化そうと試みるアキト。

 だがバイラルの行動はアキトの予想の斜め上をいくものであった。


「ユリアちゃんこの男の人は誰悪い虫!? ユリアちゃんは渡さないぞ!!!!」


「……は、はぁ」


 毒気が抜かれるというか拍子抜けというか、バイラルの行動は貴族というより子煩悩な父親、つまり親馬鹿そのものである。

 ユリアーナは渡さないと言われてもアキトには何を言われているのか理解していない。

 アキトからしてみれば誘拐犯でもなんでもないのだ。ただ一時的に護衛を務めただけ。

 難癖を付けられては気分が悪いが、アキトも昔よりは成長している。すぐに食ってかかることはない。


「俺は霧の森で彼女を護衛しただけだ」


「……何? 君はもしかして、冒険者なのかね?」


「旦那様。アキト様には私もお嬢様も命を助けて頂いたのです。ですからお礼をするために招待したのです」


 すかさずじいやがフォローに入る。バイラルもじいやには全幅の信頼を置いているのか、その言葉に少し考え込んでいる。


「冒険者か。ううむ。……アカツキ?」


 ぶつぶつと呟くバイラルがアキトの名前に気付き表情を一変させる。

 目を見開いてアキトに詰め寄ったバイラルは肩を掴んで必死の表情となる。


「アキト・アカツキ! Sランク冒険者のアキト・アカツキなのかね!? 古龍ファフニールを退けたという伝説の!?」


「あ、まあ……そうだが」


「おおおおおおお!? これは失礼をした! 私はかつてファフニール撃退のクエストを出したのだよ!」


「あなたが?」


「ああ!」


 予想外の偶然に一番驚いているのはアキトだ。アキトの冒険者としての人生を一度は終わらせたクエストであるファフニールとの戦い。

 まさかそれを依頼したのがバイラルだとは思っても見なかった。思えば依頼人の名前が伏せられていたが、まさか貴族からの依頼であったとは気付きもしなかった。


「ありがとう。君のおかげでファフニールは退いた。君のおかげで被害も最小限にとどめることが出来た。ありがとう。ありがとう……っ」


「いえ。俺は受けたクエストをこなしただけですから。報酬はしっかりと頂きましたし」


「し、しかしだなぁ……」


 アキトとしてはファフニールの件は忘れてしまいたい過去なのだ。自分が冒険者を辞めたクエストであり、今もなおアキトに恐怖を残す恐ろしいクエストであったのだから。

 だがバイラルはその事情を知らない。バイラルだけではない。アキト以外の誰も、あの時の真実を知らない。


「お父様、アキトさんに感謝のパーティーをしてあげたいのですじゃ」


「おおお! それはナイスアイデアだ。どうだアキト君、せめて私にもてなさせてくれないか?」


「ま、まぁそれくらいなら」


 ここで丁重に断ることもできたのだが、ここまで頭を下げられてはアキトも断ることが出来ない。

 貴族には嫌なイメージが付きまとっていたが、バイラルからはあまり嫌味のようなイメージがついてこない。きっと貴族としての側面より父親としての面を先に見たからだろう。


「よし、では盛大なパーティーにしよう。ちょうど七十年もののワインもある! シェフを呼べっ! 今振る舞える最高の品を用意させるのだ!」


「お父様お父様。妾もアキトさんをもてなすために煌びやかに飾りたいのですが!」


「いいともユリアちゃん! アキト君が見とれちゃうくらい素敵なものでよろしく! じいや、任せるぞ!」


「かしこまりました」


 一礼するじいやとぴょんぴょんと跳ね出すユリアーナを見てアキトとソラは顔を見合わせる。

 主賓で招かれるような口ぶりなのに、どうにも置いていかれているようでアキトはつい苦々しい表情をしてしまう。

 感情を抑えきれずに歩くバイラルの後をユリアーナとじいやが追い、アキトはソラを抱えながらついていく。


「どうしてこうなった」


「だー(早く帰れなさそうですね……)」


「ああ、そうだな……」


「だー(でもおとーさん、よかったですね)」


 ソラの言葉にアキトは思わず「は?」と素っ頓狂な声を上げてしまう。

 いったい何がよかったのだろう。貴族であるバイラルに強引に招かれて正直そこまでアキトの心証はよくないのだが。


「だー(おとーさんが戦ったおかげで、助かった人がいる。その人に出会えて感謝して貰えてる。それってすっごくいいことじゃないですか?)」


「……そうだな」


 思えばファフニールを退けてからのアキトの生活は色を失っていた。恐怖から冒険者を辞め、アイナやコハクの言葉も無視して森に住みずっと一人で暮らしてきた。

 ソラと出会って、大切な娘を育てていくために半ば強引に冒険者に戻ったが――まさか、自分の冒険者としての人生を止めたクエストで、誰かに感謝されるとは思ってもいなかったのだろう。


「ああ、嬉しいな。嬉しいよ」


 初めてクエストをこなして依頼者から報酬と共に受け取った感謝の言葉を思い出す。

 その言葉がどの報酬よりも嬉しかったあの頃の自分を思い出して、アキトの表情から苦々しさが抜けていった。

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