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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
一章 ソラ、赤子編(0歳)
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ソラ、シェンツー家に招かれ……招かれた?




「ではアキトさんをシェンツー家の屋敷へ招待するのじゃ」


「竜車を待たせているんだが、事情を説明して同行してもらっていいか?」


「ならば妾たちも屋敷へ乗せてもらえばいいのじゃ。それで料金をはずめば御者も納得するはずですぞ」


 ユリアーナの提案はなかなかのものだった。じいやから話を聞く限り、シェンツー家の屋敷には徒歩で二時間ほどかかるそうだ。結構な距離になると思うのだが、二人は徒歩で霧の森までやってきたらしい。


「なにしろ馬車を頼めば父上にバレてしまうからな!」


「その所為でかなり無茶をさせられましたけどね……」


 疲れ切った表情のじいやをみればどれだけ気苦労があったかをうかがえる。

 だがユリアーナはけろっとした表情で笑っている。子供らしく愛くるしい笑顔なのだが、じいやの苦労を考えると素直に笑えない笑顔だ。


「ああ、それと今日中にはスタードットにグロードウルフの狩猟報告をしたいんだが」


「わかりました。アキト様が仕留めたグロードウルフについてはお屋敷に到着次第使いの者を出します。スタードットに戻ればそのまま報酬を貰えるように手配しておきます」


「助かるよ、じいやさん」


「いえ。この程度ではお礼にもなりませんから」


 じいやはにっこりと笑う。どうやら相当アキトに恩義を抱いているようで、アキトとしては当然のことをしただけだから少し気まずい。

 とはいえグロードウルフの処理を任せられるのは大助かりだ。あれほどの巨体の狩猟報告など、頭を持ち帰っていては日が暮れる程度では済まない。

 竜車に乗せるにしても一匹分が限度だろう。匂いもきついだろうし、それではソラに悪い影響を与えてしまうかもしれないからだ。

 だからじいやの言葉には素直に甘えることにした。


「だー……(早く帰りたいです)」


「疲れたか? 大丈夫か?」


「だー(疲れたというか。おとーさんとユリアーナさんを離しておきたいというか)」


「どういうことだ?」


 ソラが感じているヤキモチ、嫉妬の感情をアキトは察していない。元々鈍感なのだろう。

 アキトとしても貴族の家に招かれるのは正直好ましくない。冒険者と貴族は昔からいざこざが絶えず目の敵にされることが多かったからだ。

 アキト自身、貴族とは下手をすれば傭兵を巻き込んだ戦争に発展してしまうほどの問題を起こしたこともある。

 だがそれこそ冒険者たちをないがしろにした貴族に対してアキトが怒りをぶつけた結果だ。その時はなんとか仲裁されたが、アキトの貴族へのイメージは悪い方向で固まってしまった。


「でもなぁ」


 貴族は得意ではないが、ユリアーナやじいやが悪い人間でないことくらいはアキトは見抜いている。それにお礼をしたいという気持ちも本心からだろう。

 そうなると途端に断りにくい。断って相手の気分を害してしまうのをアキトはあまり好きではないのだ。

 つまり、お人好し。


「一言二言挨拶して、すぐに帰るよ。それでいいだろ?」


「……だー(それならいいんですけど……)」


 クエストは終了したのだからソラを背負っている必要もない。エクスカリバーを鞘にしまい、ソラを抱きかかえる。こうしたほうがソラの機嫌がよくなるくらいアキトだって見抜いている。


 霧の森を抜けるのは比較的簡単だった。脅威という脅威は襲ってこなかったし、道は覚えていたから来た時よりもスムーズに進めた、

 ぬかるんだ地面で滑りそうになったユリアーナを抱き留めたりしたこと数回。そのたびユリアーナが頬を緩ませたのは語るまでもない。


 竜車の御者は逃げずに約束していた地点でしっかりと待っていた。それなりな金額で契約しているし、ちゃんと届け出を出して商売している竜車を選んだだけはある。

 もしこれが質の悪い竜車であれば最初に提示した「危険な魔物が出てきたら逃げていい」を理由に仕事をエスケープされていただろう。


 御者に事情を説明し、シェンツー家が金額を上乗せして払うと告げると目の色を変えて頭を下げてきた。どうやらじいやが提示した金額は相場以上のもののようで、御者は明らかにじいやにゴマを擦っている。


「あい(所詮この世もお金なんですね……お金は人を狂わせます……)」


 まるで世の中を見てきたような発言に苦笑してしまうアキトである。彼女が転生者であることなどすっかり頭から抜けてしまっているのだろう。

 アキトの膝の上に座るソラはユリアーナに見せつけるようにアキトにしがみついている。

 ユリアーナの羨むような視線に気付いているアキトはどうしたものかと頬を掻きながら思案する。


「あぁ、お屋敷が見えてきましたね」


「おぉ!」


「うわ、でか」


 答えの出ないままじいやの声でユリアーナは窓から外へ視線を向ける。釣られてアキトも外へと視線を向ければ、少し小高い丘の上にかなり巨大な屋敷が建っていた。

 ディノレックスが丘を駆け上がると屋敷の入り口辺りに誰かが立っている。ふくよかでまんまるな体付きは裕福な暮らしをしている証拠だ。


 ユリアーナが窓から身体を迫り出して大きく手を振ると、その人物も大きく両手を振り回した。


「ユリアぢゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんどごいっでだのぉおおおおおおおおお!?!?!?!」


「うわ、お父様ひっどい」


 顔中を涙と鼻水まみれにして泣き叫んでいる男の名はバイラル・フロード・シェンツー。

 ユリアーナの父であり、霧の森を含んだ一帯を領地とする貴族である。

 ……そして、猛烈な親馬鹿であるようだ。

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