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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
一章 ソラ、赤子編(0歳)
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ソラ、父の無双にみとれちゃう?




 その個体は他の個体よりも長い時を生きた。二百で寿命を迎えるとされるグロードウルフが貪欲に高純度の魔力を含んだ生物を食らい続けた結果、その身体を変質させたのだ。

 並のグロードウルフではないことを象徴するかのように純白に染まった毛並みは白露が濃霧の中にかすかに届く陽光で照らされる。

 その個体はおよそ三百の年月を生き、誰よりも慎重に霧の森の奥深くで力を蓄え続けた。


 縄張りを奪いに来たグロードウルフすら頭を垂れるほどの存在。それはもはやグロードウルフに非ず。


「エフィントウルフって名付けたらどうだ?」


「だー!?(おとーさんのんきすぎじゃないですか!?)」


 ユリアーナをじいやと呼ばれた青年の傍に降ろし、二人を守るように立ち塞がったアキトは肉薄するグロードウルフたちを無視して奥の個体を睨み付けていた。

 いや、睨むというのは正しくない。

 アキトは喜んでいる。未知なる個体に出会えたことに興奮している。

 わくわく(・・・・)している。

 それはきっと、冒険者としての性なのだろう。


「グオォ――!?」


 至近距離にまで迫ったグロードウルフにも目もくれず、アキトは引き抜いたエクスカリバーを一閃した。


「なんだ。リハビリにもならないじゃないか」


 自身に掛けた自己強化(エンチャント)のおかげでもあるが、それ以上に三年間森の中で暮らし続けた経験がアキトの中で活きている。揺れる葉っぱしなる枝震える森全てがアキトに周囲の情報を与える。

 そしてソラのおかげで手に入れたエクスカリバーだ。

 その力は所有者の力を底上げし、今アキトは自分が思っている以上に肉体が機敏に動く。


 一閃したエクスカリバーの一撃にグロードウルフの首が飛んだ。何が起きたか理解できずとも、仲間が一瞬でやられたことは理解した。

 奥で小さくエフィントウルフが喉を鳴らす。

 怯むな。襲えと。出なければグロードウルフはエフィントウルフに殺される。


 グロードウルフたちを突き動かすのはひとえに死への恐怖であり生への執着だ。

 死にたくないからエフィントウルフに従う。

 本来誰にも従うはずのないグロードウルフですら恐怖を抱かせるエフィントウルフは、静かにその巨躯を持ち上げた。


 二度、三度とエクスカリバーを振るい、その一撃ごとにグロードウルフが地に倒れていく。首が飛んだのは最初の個体だけであるが、そのほかの個体全ても一撃で急所を突かれ絶命してる。


「だー……(おとーさん、すごい……)」


 背中のソラは倒れていくグロードウルフしか見えないが、それでもアキトがどれほどの力で戦っているかはわかっているつもりだ。

 いや、アキトが呟いたように戦いにすら――リハビリにすらなっていない。

 それほどまでにグロードウルフを簡単にあしらっている。


「五! 六! 七!」


「だー!(八と九と十です!)」


 そのあまりの速さにエフィントウルフは表情を忌々しげに歪めていた。従えていた十匹のグロードウルフによってほぼ霧の森での安全は確保できたはずなのに、たった今一瞬で瓦解してしまったのだ。

 全てのグロードウルフが地に伏したところで静寂が訪れる。エフィントウルフは戦うつもりがないのだろうか、そっと一歩退いた。


「あー?(逃げるん……ですか?)」


「相当賢い個体のようだな。普通なら本能任せに襲ってくるが、こっちとの実力差を理解してるんだろう」


「だー(魔物なのに人並みの知恵があるんですか?)」


「ああ。魔物だからこそとも言える。凶暴で残忍で狡猾で、だからこそ種族は多々あれど魔族としてカテゴライズされている」


 狼の魔物であるグロードウルフや、二足歩行の豚であるオーク。小鬼のゴブリンといったソラが知る魔物と遜色はないのだろう。言葉こそ通じないが、本能的に戦う相手を選ぶのであれば、それはもう知性を持った生物だ。


「あい(魔物って奥が深いんですね)」


「まあ結局は人の害になるから駆除されるけどな」


 少しだけ苦々しく笑ったソラは改めてアキトの強さに痺れていた。

 チート能力をもらってこの世界に転生したソラは、素敵な父親と出会いたいという願いでアキトと出会った。

 その願いを優先することは当たり前なのだが、どこか心の中で得た力がどれほど強いかも期待していた。

 けれどそんな思いはもう吹き飛んでしまった。予想よりもずっと強い存在が、自分を守ってくれるのだから。自分を拾ってくれた素敵な父親がどれだけまばゆく見えたか。


「だー(おとーさんは、ボクを守ってくれますか?)」


「当たり前だろ? ソラは大事な娘なんだから」


「だー!(……えへへ。おとーさん大好きですっ)」


 自分が無理に力を使う必要はない。自分が求めた愛情はこの人がくれる。

 ああ、この世界にきてよかった――ソラは心の底から思ったのであった。


 エフィントウルフは濃霧の中に消えていった。純白の毛並みは自然と濃霧と混ざり合い保護色となってその身を完全に隠してしまう。もとより追うつもりのなかったアキトはそこでエクスカリバーを収めた。

 目標はグロードウルフであったし、十匹も狩ればかなりの報酬を上乗せできるだろう。

 ならばこれでクエストは終了だ。


「大丈夫か?」


「息はあるようじゃが、頭を打ってるようで意識がないのじゃ」


 ユリアーナが何度も木に寄りかかったままの青年に声をかけるが、青年は一向に意識を取り戻さない。頭を強く打っているのであれば脳しんとうを起こしてるかもしれないし、安静にしなくてはならないだろう。


「だー(おとーさん、ボクが治します)」


「出来るか?」


「あいっ(任せてください)」


 先ほどユリアーナを治したことで感覚を掴んだのか、ソラが青年を治すと宣言する。先ほどの光景を見ているアキトはすぐにソラを抱きかかえ、ソラの手が青年の頭に届く当りにまで持ち上げる。

 そっと青年の頭にソラは手をかざし、治癒魔法の名前を念話で呟く。


「だー(ヒール!)」


 ユリアーナに施したようにヒールの魔法を使うソラ。溢れた光は青年の頭に集まり、光が消えると青年がゆっくりと意識を取り戻す。


「う……私、は」


「じいやっ!」


 がばっ、と抱きつくユリアーナを青年は咄嗟に受け止める。状況を理解できずにいるようだが、主人であるユリアーナのことはすぐに判別できたようだ。


「私は確か、グロードウルフの群れに遭遇して」


「戦って頭を打ったんだろう。意識を失っていた」


「……あなたは?」


 立ち上がった青年がアキトを足の先からじっくりと見渡す。状況を考えればアキトこそ彼にとっての命の恩人であるはずなのだが、ユリアーナの警護も兼ねている青年にとっては見知らぬアキトこそ警戒すべき対象なのだろう。


「冒険者のアキト・アカツキだ」


 カードを提示すると青年は表情を和らげる。冒険者に渡されるカードはそれだけで身分証となり、また金色――Aランク以上を示す色合いなのも、青年から警戒を解くのに十分だったのだろう。


「ありがとうございます、アカツキ様」


「じいやっ! アキトさんは凄いのじゃよ? グロードウルフをばんばん倒していったのじゃ!」


「グロードウルフを……?」


 そこでようやく周囲の状況に気付いた青年。絶命している十匹のグロードウルフと、衣服の乱れすらないアキトを見比べて、「は、はぁ」と表情が思わず歪んでしまっていた。


「アキトさんにお礼がしたいのじゃ。じいや、二人を招いて感謝のパーティーをしようなのじゃ!」

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