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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
三章 ソラ、少女編(16歳)
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肩を並べて。




「何故だ。何故私までこの船に同船しなければならないのだ!?」


「黙れリオンフェルーク。ソラ・アカツキに協力すると決めた以上、貴様も逃げることは許されない」


「だが、この私が……!」


 アルクォーツ号はグリムガルデとリオンフェルークの二人を乗せてクウカイを出立した――すでに五日前のことである。

 ローラは言葉通り、ソラを乗せてオリンポス山目指して船を出航させた。巻き込まれる形となったマルコとミミだが、二人はローラに全幅の信頼を寄せている。また、二人もソラの目的――アキトとの再会を願っているからこそ、こうして協力してくれている。

 グリムガルデとリオンフェルークもそうだ。ソラに協力すると決めた以上、彼らはそれを保護にはしない。

 それは竜王の眷属としての誇り故か否か。その真意は彼らにしかわからない。

 だが二人とも文句は言いつつもアルクォーツの手伝いに励んでいるあたり、根は真面目なのだろう。

 魔物が襲いかかればグリムガルデが蹴散らし、船の操舵はリオンフェルークが卓越した技術を見せる。噛み合わないようで、しっかり噛み合う二人だった。


「しっかしクウカイの大僧正様がソラの手伝いをするとはねぇ」


「これもソラ様の人徳、ということですねー」


「……まぁ、その襲撃犯と一緒にオリンポス山を目指す辺り、懐が深いというかガチで聖人君子なのか」


 リオンフェルークの操舵技術を眺めながら休憩するマルコがぼやくと、ミミも会話に興じてくる。二人が役割をこなすため、普段は忙しいマルコやミミも休憩が多くなる。

 休憩が増えればその分ローラの晩酌に付き合う回数も増えるのだが、マルコからすれば人手が増えることは喜ばしいしローラの指示なら何事も受け入れる所存だ。

 ミミとしてもソラとローラが信じているのならば問題ないのだろう。人とは違い彼女は、グリムガルデとリオンフェルークの『違和感』を理解しているが、敢えて口にはしない。

 言葉にしてもマルコが不安になるだけだ。その違和感は人ではない、という部分であるからソラも承知している。


「グリムガルデさん、交代しますよ」


「構うな。貴様は竜王様に会うために今はじっくり休んでおけ」


「だ、だってボクがローラさんにアルクォーツを守るって宣言しましたし!」


「それで疲れてオリンポス山を登れなければそれこそ恥だ。貴様より我の方が強いのだから素直に甘えておけ」


「わぅ。で、でもー……」


「それ以上首を突っ込もうとするのなら、竜王様が戻り次第貴様が命を投げ出したことを暴露してやる」


「休んできます!」


 ピュー、と飛ぶようにソラは自室に戻っていった。

 この五日間、ソラはほとんど戦闘を行っていない。グリムガルデがあまりにも魔物を圧倒しているのだ。

 リオンフェルークも警戒しているのだが、グリムガルデの行動が速すぎる。魔物が現れたと思えばすでに倒しており、その速さにローラは目を丸くするほどだ。


「こりゃグリムと大僧正には謝礼をたっぷり払わないとねえ」


「気にする必要はない。我はソラ・アカツキに協力しているだけよ」


「そうは言ってもねえ……」


 双眼鏡を覗いて海を眺めながらローラが苦笑する。

 正直に言ってソラが信じているからといってグリムガルデとリオンフェルークを乗せることにローラは反対していた。だがソラがあまりにも二人を連れて行くことを推してくるので仕方なく認めたが、思った以上の活躍を見せてくれている。

 護衛として雇ったわけではないが、その役目を十分に発揮している以上は護衛として扱うべきだろう。それはローラの信条であり、海運クラン・アルクォーツを取り纏める人間としての判断だ。


「まあ、その辺はアキトが戻ってから考えるとします……か!」


 突如としてアルクォーツ号が揺れ、船体を覆うように巨大な軟体の触手が伸びてくる。

 巨大な海の魔物、クラーケンだ。聖堂教国に向かう途中にも襲われたが、今度のクラーケンはさらに大きい。


「ローラさん、ボクが――」


「邪魔だ」


 すぐに駆けつけたソラが迎撃に当たろうとするが、その前にグリムガルデが爪を振るう。触手は切り裂かれ、クラーケンは悲鳴を上げながら海中に逃げ込んでいく。


「……もしかして、ボク要らないですか……?」


「そんなことない! そんなことないさ! ソラの出番はまだまだこれからさ!」


 わかってはいるけれど、あまりにも手持ち無沙汰なソラは思わず泣きそうになってしまう。急いでフォローに走るローラを、グリムガルデは遠くから眺めていた。


「なんとも緊張感のない……」


「だからこそ、だろう。気を引き締めるのは今ではない」


「そうだな。オリンポスを守る海域。頂上で待つ『竜王の瞳』に至るまでの障害の全て。果たしてソラ・アカツキが乗り越えられるのだろうか」


「乗り越えるさ。あのガキは絶対に」


 ソラを絶対的に信頼している言葉を、グリムガルデが吐く。リオンフェルークは首を傾げ、グリムガルデに問いかけた。


「随分とソラ・アカツキを買っているのだな。見定める立場である貴様が」


「ソラ・アカツキはわかりやすく単純な奴よ。奴はアキト様に会うために旅を続けている。そして――その目的を果たすためなら、命すら惜しまない」


「私を庇った時のように、か?」


「それどころではないだろうさ。ソラ・アカツキはアキト様が恋しくて恋しくて仕方がない、まだ二十にも満たない子供だからな」


 グリムガルデは空を見上げる。リオンフェルークは水性線を見つめる。

 目的地は、彼らの主が待つ地である。


「グリムガルデよ。今の我々を見たら、竜王様はどう思う?」


「笑うだろうな。あの方はどこまでもお人好しだ」


 眷属たる彼らは、肩を並べて笑みを零した。


 ――オリンポス山まで、あと、五日。

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