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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
三章 ソラ、少女編(16歳)
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空からの強襲。




 月の明るい夜だった。リオン大僧正が今もなお瞑想を続ける大寺院はネズミ一匹通さないほど厳重な警備が敷かれている。

 大寺院の周辺を囲む名のある冒険者たち。大寺院を守るジョウゲン率いる僧兵たち。

 そして瞑想の間に繋がる廊下を守る、アルクォーツの面々。その中でソラは一人、大寺院の屋根の上から空を見上げていた。


 ソラの予感が正しければ、グリムガルデは――。


「――来た!」


 天を覆う満ちた月に黒点が一つ。考えるまでもない。黒点は次第に大きくなってきて――落下してきている。間違いない、グリムガルデだ。


「マジックコピー・プロテクション!」


 急降下してくるグリムガルデを止めるために、ソラはプロテクションの魔法を発動させる。コピーの魔法で複製されたプロテクションは合計五つ。一つが破られようとも、五つを持って衝撃を緩和させる。


 落下してくるグリムガルデもまた、ソラが発動させたプロテクションに気付いた。頭から大寺院へ突撃しようとしていた体勢を強引に起こし、つま先からプロテクションに激突する。


「――!」


「わ、う……!」


 激突による衝撃が余波となり屋根を破壊していく。吹き飛んだ屋根瓦が地面へと落下していき、周囲の冒険者たちに襲撃を告げていく。

 鳴り響く警報。

 ばたばたと寺院の外に出てきて屋根を見上げる冒険者と僧兵たち。

 向かい合うソラとグリムガルデはとうの昔に冒険者も僧兵たちも意識の外に追い出していた。


 気を抜いたら、やられる。

 言葉を交わさずとも、グリムガルデの気迫にソラは追い込まれている。


 邪魔をするなと、グリムガルデは無言でソラを睨む。

 言葉は必要ないとばかりに、グリムガルデは拳をソラに向ける。


「……」


「……貴様がリオンフェルークを守るとは――いや、貴様は竜王様の子だったな」


 にやり、とグリムガルデは口元を釣り上げる。

 アキトと重ねられることは、ソラにとっても喜ばしい。

 グリムガルデが一歩を詰め寄ると、ソラは一歩退く。距離と詰められてはならないと、意識的に後退る。

 一歩、また一歩と詰められていく。じりじりと後退り、次第には屋根際まで追い詰められてしまう。


「邪魔をする気がないなら、退け」


「いや、です」


「ならば何故退く?」


「あなたに接近戦は不利だと考えているからです」


 ソラはグリムガルデの一挙手一投足に注視しながら、すぐに魔法を使えるように身構える。とはいえソラの創造魔法は魔法名を紡ぐワンアクションだけで発動できる優れ物だ。グリムガルデがなにを繰り出そうとも、対応は間に合う。


 グリムガルデがゆっくりとした動作で、胸の前で両手を組んだ。拳をソラに向けるようにし、その体躯に力を込める。

 膨れ上がるグリムガルデの魔力。ソラは咄嗟に魔法を発動させる。


「グレイルアローゼ!」


「プロテクション!」


 突進してくるグリムガルデを、間一髪のところでプロテクションの魔法が弾いた。

 念には念にとこれでもかと魔力を込めた特別な魔法だ。そう連発は出来ないが、強度は保証される。

 弾き飛ばされたグリムガルデが再び笑う。中空で身を翻し、翼から抜かれた羽が刃となる。


「マジカル・コンダクター――バスターソード・デュオ!」


 その刃の脅威を身に染みているソラはすぐさま魔法の剣を二振り作り上げ、指揮棒を振るかのように指を振るう。ソラの指の軌道に従うように空中を踊る二振りの剣は、ソラが指を振り下ろすと同時に一斉にグリムガルデへと襲いかかる。


 けれどもグリムガルデはバスターソード・デュオをものともせず、刃を振るい弾き飛ばしてしまう。弾かれようとも、ソラは何度もバスターソードを操り、グリムガルデへ突貫させる。


「……無駄だと感じないのか?」


「まだです。エルダーリアランス!」


「ほう?」


 空いている手をグリムガルデに向け、ソラはさらに魔法を発動させる。五つの属性を込めた矢を六セット。合計三十の魔法の矢が一斉にグリムガルデに放たれる。なだれ込むエルダーリアランス。

 だがそれでも、グリムガルデは止まらない。刃を振るうまでもないと判断したのか、竜の体躯でエルダーリアランスを全て受け止める。竜の皮膚は全てを弾き、グリムガルデに傷一つ負わせることが出来ずに消え去ってしまう。


「ま、だ!」


 悠然と前進してくるグリムガルデ目掛けて、ソラはさらにエルダーリアランスを放つ。その数は三十を超え、四十、五十を超えてもなおさらに数を増す。

 次第にグリムガルデの姿すらエルダーリアランスの中に隠れてしまう。だがそれでもソラは追撃を止めない。

 こんな程度で、グリムガルデが止まるとは思っていないからだ。


(……想像以上にあの竜の皮膚が硬すぎて、時間をろくに稼げません。どうしよう、どうしよう!)


 焦るソラの事などお構いなしに、グリムガルデはソラに詰め寄る。

 グリムガルデはソラに危害を加えるつもりはないのか、攻撃を続けるソラを一瞥し、足下を睨んだ。


「覚えておけソラ・アカツキ」


「ま、待――」


「我ら眷属を相手にしたければ、殺す覚悟を持て。貴様の魔法はその程度ではないだろう」


 振り上げた足が、振り下ろされる。ソラがプロテクションを発動させるよりも早く、グリムガルデの足が屋根を踏み抜く。屋根だけではない。衝撃の余波が屋根を貫き階下を貫いた。舞い上がる瓦礫の中で、グリムガルデは大寺院へと侵攻する。


「待ってください、グリムガルデさん!」


「この場に立ったことは認めてやろう。ソラ・アカツキ。リオンフェルークを殺さねば竜王様の命が狙われるのだ。ならば貴様は我に手を貸すべきだろう?」


 グリムガルデが見つけたとばかりに大寺院に降り立つ。そこはローラたちが守っている廊下の最奥。瞑想の間と呼ばれている、リオン大僧正が瞑想をしている場所。


「……え?」


「よく見てみろソラ・アカツキ。これが竜王様を裏切った男の真実だ」


 そこは、ソラの想像よりも広大な空間だった。ソラが知っている寺院の見取り図よりも、さらに広くて深い空間だった。静寂の世界であるはずの瞑想の間に、リオン大僧正――ではない存在が、いた。


「久しぶりだなリオンフェルーク――いや、ファフニール」


「これ、は――」


 空間が魔法によって広がっていることに気付いた時にはもう遅かった。瞑想の間に鎮座するその竜は、あまりにも巨大な体躯を持っていた。

 岩のように隆起した肌色の竜鱗と、閉じられた瞳は空に向けられている。


 折りたたまれた羽が広げられれば、それだけでこのクウカイの街を覆ってしまうだろう。

 その巨体が動き出せば、クウカイの地は瞬く間に壊滅するだろう。

 あまりにも巨大。その存在は、いるだけで国を滅ぼしかねない存在だ。

 その頭部に、極めて不自然な違和感。その盛り上がった頭皮の一部は、まるで人間のようで。


「人が、竜と融合してる!?」


「これがリオンフェルークの目的よ。古龍と融合し、その力をもって『天を超えた領域』を目指し――竜王様を殺す。ああ、決して許してはならぬ大罪よ!」


 羽を広げたグリムガルデがファフニール――リオンフェルークを睨む。ファフニールと下半身を融合させたリオンフェルークの瞳がゆっくりと開かれ、その表情を恍惚に歪める。


「おお、我が友グリムガルデではないか。少し早いのではないか?」


「当たり前だ。我は貴様を謀反人として粛正するために来たのだから」


「ふむ? ふむ。ほう。相変わらず貴様は間違った意見を口にする。私が謀反? 馬鹿を言え。私はこれ以上ないほどに世界のために生きているというのに!」


「ごちゃごちゃとやかましい。今すぐその気味悪い笑みを引き裂いてやる……っ!」


 リオンフェルークが招くように両手を広げる。その動作はまるで全てを受け入れるような、まるで――その行いが正しいと断言しているような。


 ゆっくりと落下していく中で、ソラは眼下の古龍に目を奪われている。

 古龍ファフニール。


 その存在は、かつてアキトが撃退した古龍なのだ。アキトが英雄として語られる最初の要因となった、王国を滅ぼしかけた古龍である。


(お父さんは、こんなにも巨大な竜を倒したの!?)


「……おや? 君は――」


 リオンフェルークの瞳が、ソラを捉えた。

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