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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
三章 ソラ、少女編(16歳)
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襲撃に備えて。




 翌日。ソラたちアルクォーツの一行はジョウゲンに大寺院まで案内されていた。

 目的はリオン大僧正を守るための配置決めである。ジョウゲンはソラからもたらされたグリムガルデを最重要案件として判断したようで、アルクォーツだけではなく近隣で活動してる冒険者たちにまで声が掛けられていた。


「アルクォーツにはここ――大僧正様が瞑想をされている刻限の間に繋がる廊下を守って頂きたい」


「随分な要所を任せてくれるんだね」


「ええ、ソラ・アカツキの実力を考慮しての配置となります」


「わぅ?」


 ジョウゲンは『明星の天元』の経営にも関わっている人間だ。だからギルドに提出されたソラの情報にも目を通し、アルクォーツの戦力として認識したのだろう。

 さらにソラは今回の件の情報提供者でもある。ソラの目的は知らずとも、提供者としての優遇も兼ねているのだろう。


 ソラとしては願ったり叶ったりな配置である。もとよりソラはグリムガルデとリオン大僧正、どちらとも協力してもらおうと考えている。だからグリムガルデと直接相対することが出来る配置を望んでいたのだ。


「……でも、そこまで広くないんですね」


「もとよりこの大寺院は祈りを捧げるためだけの場所です。敵の襲撃など考慮された作りにはなっておりません」


 それはクウカイの立地もあるからこその造りだ。

 そびえ立つ霊峰エル・クウイによって敵は山登りを強いられる。こちらは山頂で待ち伏せするだけでいい。上からの攻撃に登らなければならない敵兵は蜘蛛の子を散らすように散り散りになるだろう。

 クウカイは天然の城塞となっている。だからこそ、大寺院の守りも薄いのだ。


「敵がもうこの街に潜伏しているというのなら、この大寺院で待ち構えるのが得策と判断しました。周囲には冒険者たちを配置し、この通路に至るまでも我ら僧兵が待機しています」


 まさに万全の構えといったところだろう。集められた冒険者もそれなりに有名どころが抑えられている。


 が、ソラは正直冒険者をあてにはしていなかった。そもそも相手はあのグリムガルデである。ソラですら敵わない相手に、Sランクでもない冒険者が足止めを出来るのだろうか。

 いや、グリムガルデは正面から来るのだろうか。何処から来るのかもソラは知らない。


 上空を見上げる。まさか空からは来ないだろうと思いつつも、ソラは嫌な予感を隠しきれない。

 冷や汗を拭いながら、窓からもう一度空を見上げる。雲一つない青空から差し込んでくる陽の光に目を細めながら、まさか、と自嘲する。

 いくらグリムガルデが空を飛べるかもしれないからといって、空からの奇襲は有り得ない、はずだ。


「……いや、でも、ううん……」


 だからといって空からの奇襲にどう対応すればいいのだろうか。

 人員を配置する? 空から落下してくるものへ防御の魔法を使う? それを準備した結果、無駄になった場合を想定するととてもじゃないが言葉にできない。


「……ローラさん、お願いがあります」


「どうしたいんだい?」


「当日の夜、ボクだけこっそり抜け出させて貰えませんか? ここじゃなくて、この大寺院の屋根で周囲を警戒したいんです」


 当日はより警備も強化される。だがソラはそれでもグリムガルデが現れたらすぐに対応に入りたいのだ。万が一、空から来たとしても対応できるように。

 ソラの言葉にローラも頷いた。もとより相手が規格外の存在だとは聞かされている。

 ソラの懸念を感じ取ったのだろう。ローラは力強くソラの背中を押す。


「ああ、ここはアタシとマルコ、ミミに任せな。ソラはすべきと思ったことをやりな!」


「ありがとうございます!」


 窓から身を乗り出せば、屋根の上にはすぐ飛び移れそうだ。屋根の傾斜もそこまで激しくなく、最悪屋根の上での戦闘も可能だろう。

 もし屋根で戦闘が行われるとしたら被害はより甚大になる。なにしろ足場は不安定、逃げる場所も少なく足下を壊されれば落下してしまう。

 今のうちに、グリムガルデを足止めする方法を考えておくべきだ。

 グリムガルデの圧倒的な膂力は聖堂教国が誇るベルファスト・ケージすら力任せに引きちぎるほどだった。

 つまり、対策を用意するならそれ以上のもので無ければならない。


「普通の拘束じゃ足りない。じゃあ、搦め手? でもグリムガルデさんに弱味とか無さそうだし……」


 ぶつぶつと対策を練りだしたソラは完全に自分の世界に閉じこもってしまう。思いつく限りのシュミレーションを繰り返し、失敗する要素が少しでもあれば即座に廃棄して思考を巡らせる。

 とにもかくにも、グリムガルデの情報が少ないのが最も厄介だ。聖堂教国で戦った時も、当然ながらグリムガルデは本気ではなかった。


「……あれ?」


 そういえばふと、グリムガルデが去る瞬間のことを思い出した。アキトの居場所を伝えられたことですっかり動揺してしまったが、あの時、グリムガルデは確かに「時間が来た」と言っていた。そして次の瞬間には姿を消して――いや、その前にもアカツキの攻撃をすり抜けていた。


「グリムガルデさんには、時間制限がある。それは多分、グリムガルデさんの言う竜王の爪の責務に関係している……はず


 で、あるならば。グリムガルデの力は古龍に関わった人間を見定めるためにある、と仮定する。

 一定時間の間に見定め、判断を下す。脅威となる場合はどうなるかわからないが、アカツキの場合は時間の経過と共に消えていった。

 振るえる力に制限があるのではないか。

 そういえば、クウカイで出会ったグリムガルデ――グリムは人の姿形をしていた。半人半竜の姿ではなかった。


「……勝てないけど、時間だったら稼げる。稼いでみせます」


 グリムガルデが力を振るえなくなるまで耐えることなら、ソラの創造魔法の得意分野と言える。膨大な魔力と、言葉を紡ぐだけで防御の魔法を発動できるソラだからこそ選べる選択肢だ。

 勝てなくても、負けなければいい。そうしてグリムガルデをどうにか抑え込んで、リオン大僧正と引き合わせることが出来れば。

 二人から、アキトの情報を引き出すことが出来るかもしれない。


 穴だらけのシュミレーションだ。けれども、ここに至るまでに浮かんだどの案よりも現実的で、ソラ自身納得できるものだった。


「うん、それでいこう」


 そうと決まれば、使うべき魔法を用意しなければ。咄嗟に使える魔法を見繕い、万全の準備を整えよう。


 そして、三日が経過した。グリムガルデの指定した日は、奇しくも満月の日だった。

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