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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
三章 ソラ、少女編(16歳)
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リオン大僧正暗殺計画!?




 喫茶店の店内は静まりかえっていた。外は喧噪に塗れているというのに、ソラとグリムガルデしかいない店内は静寂に支配されていた。

 グリムガルデはリオン大僧正を粛正――殺す、と言い放った。

 それは彼にとって譲れないことなのだろう。話し合うだけでも、彼が自身が『竜王の爪』であること、竜王の眷属であることを誇りを抱いているのがよくわかる。

 だからこそリオン大僧正――リオンフェルークのことが許せないのだろう。


 グリムガルデ曰く、『竜王の翼』としての責務を放棄した。

 グリムガルデ曰く、リオン大僧正は竜王に取って代わって人々を導くと。


 要するに、リオンフェルークという存在が竜王に反旗を翻したのだ。

 だがグリムガルデはどういうわけか、他ならぬ竜王の指示を仰げないでいる。

 だから直接的に行動を起こせない。竜王の爪として、リオンフェルークを討つことが出来ない。


 ソラはグリムガルデの瞳を見つめると、即座に理解する。

 グリムガルデはたとえ竜王の命が無くとも、リオンフェルークへ挑むことを。

 それはグリムガルデが誰よりも竜王の心酔し、『爪』であることを誇りとしているからだ。


「グリムガルデ……さん。あなたは本当に、リオン大僧正を――」


「殺す。たとえその結果、竜王様に我自身を否定されようとも」


 強い決意が込められた瞳を前にして、ソラはグリムガルデを否定する意見を出せない。

 グリムガルデは竜王の意志に逆らう可能性があったとしても、リオン大僧正を討つと公言している。もはやそれは責務というより、憎しみすら感じさせる。


「奴が瞑想している間、奴は堅牢な結界の中にいる。だからこそ奴は、その中では無防備だ」


「ボクに計画を話して……いいんですか?」


 ソラが聞かずともグリムガルデは自らの計画を語る。もしもソラがこの事実を『明星の天元』やリオン大僧正の周囲にいる人物に告げれば、たちまち護衛は強化されいかにグリムガルデといえど難しくなるのでは無いか。

 だがグリムガルデの中ではソラが誰かに密告する可能性はないようだ。

 ニヤリ、と口角を釣り上げて笑みを浮かべる。ぐい、とソラの顔を覗き込むように、囁いた。


「お前は話さないよ。竜王様への手掛かりを持っているのは我とリオンフェルークだけ。

 我がリオンフェルークを襲わなければ二週間もの間待たされる。

 そこでようやくジョウゲンから面会の話をされるだろう。

 だがよく考えてみろ。狡猾なリオンフェルークが“アカツキ”の名を聞いて貴様と面会すると思っているのか?」


「……それは」


 グリムガルデの言葉は、的確だった。

 もしかしたら、この件を密告したことによって面会は出来るかもしれない。

 だがそこでリオン大僧正が真実をソラに教えるのだろうか。

 裏切る竜王の娘を信頼し、竜王の居場所を伝えるだろうか。

 答えは、否、だ。


「三日後の夜、我は奴が瞑想を行っている大寺院を襲撃する。付いてきたければ付いてこい。リオンフェルークに何かを問いたいのならそこで問えばいいだけよ」


 それは悪魔の囁きだ。もしその場にソラもいれば、グリムガルデが成功しない限りソラはお尋ね者だ。成功しても、ソラは必要以上に重荷に感じてしまう。

 人の命を奪うこと。必要なこと以外で命を奪うことをしないソラにとって、グリムガルデの提案は撥ね付けなければならないものだ。

 だが、父・アキトに早く会いたいという思いが邪魔をする。


 仮に、ソラがグリムガルデに手を貸し、リオンフェルークを討ったとしたら。

 アキトは喜ぶのだろうか。悲しむのだろうか。


 だん、とソラはテーブルを強く叩き、自分を奮い立たせるために「わぅー!」と叫んだ。


「お父さんは、喜ばない! お父さんは、グリムガルデさんも、リオンフェルークさんもどっちもいなくなって欲しいなんて考えない!」


 竜王が――アキトがどうしてグリムガルデに何も伝えないかは、わからない。

 わかるのは、アキトにとってはグリムガルデもリオンフェルークも「失いたくない仲間」であること。

 だからこそ、二人を失いたくないから答えを出さないのだ。

 アキトが何処にいるのかはわからなくて、共に過ごした六年の記憶がソラにそう結論付けさせる。


「そうか」


 激情の篭もったソラの言葉をグリムガルデは冷ややかに返す。

 アキトの思いは、ソラが一番よく理解している。グリムガルデもそれはわかっているのだろう。

 だが、それでもグリムガルデは自らを律することが出来ないのだ。

 かろうじて理性で保っているが、今にも大寺院を破壊してしまいたくなる激情に襲われているのだ。

 それほどまでに。グリムガルデはリオンフェルークを許せない。


「ならば勝手にしろ。我はリオンフェルークを討つ。貴様は竜王様の手掛かりを求め、世界を彷徨うがいい」


 ソラは半ば強引に喫茶店から追い出されてしまう。閉められた扉はいくら叩いても返事は来ず、ガラス越しに見える店内にはもうグリムガルデの姿は残っていなかった。

 ソラはどうするべきなのだろうか。


「そんなの、決まってます。グリムガルデさんがリオン大僧正を狙うというなら、ボクは守ります。リオン大僧正を守って、グリムガルデさんを止めて、二人からお父さんへの手掛かりを聞き出します!」


 そうと決めたソラの行動は迅速だ。すぐにクウカイの街から階段を駆け下りる。

 目指すは麓近くの『明星の天元』。

 自分一人ではグリムガルデを止めることはかなり難しい。

 頼るのだ。幸運なことに、ソラには頼れるアルクォーツの仲間がいる。

 それはソラにとって初めての、アキトとは何の繋がりもない人たちだ。


 『明星の天元』ならば、ジョウゲンを始めとしたこの国の冒険者たちもいるだろう。

 まずはローラに相談しよう。決めたらすぐに行動しよう。

 時間は三日間しか、ないのだから。

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