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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
三章 ソラ、少女編(16歳)
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誰もいない喫茶店で




「紅茶、コーヒー、緑茶、烏龍茶、水、オレンジ、ワイン、麦酒もあるが、どれにする。我のオススメはワインだが」


「水でいいです」


 なし崩し的にソラはクウカイの街角にある小さな喫茶店に連れてこられた。がらんと客一人いない喫茶店に放り込まれたソラは、グリムガルデに言われるがままにカウンターに腰掛けた。

 黒いエプロンを着けたグリムガルデの問いかけに答えると、つまらないといったばかりにグリムガルデは白けた目でソラを睨んだ。

 出された水は非常に透き通っている水だ。キンキンと冷やされており、喉を通せば思わず頭がキーン、と痛んでしまうほどだ。


「……美味しい水ですね」


 冷やしすぎだとは思っていたが、それ以上に美味しい水であった。舌で感じる柔らかさと、泥臭さもなにも感じさせない味わい。


「この霊峰の湧き水だ。この世界的にも高級な水だ」


 それを無料で提供できるのだから、きっとこのクウカイは豊かな国なのだろう――。

 と、そこまで考えてソラは頭をぶんぶんと振った。気を緩めてはいけない。

 目の前にいるのは、竜王の爪と名乗る青年なのだ。かつて聖堂教国首都・ベルファストでソラはグリムガルデと刃を交えた。

 自己強化(エンチャント)・三式を用いての戦闘でも、アカツキ、グラシアの三人で挑んでも彼には傷一つ付けることが出来なかった。

 あまりにも圧倒的だった。咆哮一つでソラの魔法は尽く弾かれ、彼がその気であればソラは命を奪われていたほどだ。

 だがグリムガルデはソラの命を奪わず、ソラにアキトの手掛かりを告げて姿を消した。

 『天を超えた領域』という単語。

 そしてグラシアとローラからもたらされた、『竜王の翼』を名乗るリオン大僧正のこと。

 その二つのキーワードを手掛かりとして、ソラはまずクウカイを訪れた。


「我がどうして此処にいるのか、といった表情(かお)をしている」


「――……っ」


 見透かされた、とソラの心臓が脈を打つ。冷静にグリムガルデの視点として考えればその結論に至るのは造作もないことだが、今のソラにそこまでの思考を割く余裕はない。


「『天を超えた領域』について調べるなら、此処しかない。リオン大僧正のことも知り得ただろう?」


「……はい」


「身構えるな。こちらに戦闘の意志はない」


 言葉が固くなってしまうのはもうどうしようもないことだ。彼が本気になればソラはすぐにでも命を奪われる。そんな相手を前にして、緊張するのは当然だ。

 ふむ、と顎に手を当ててグリムガルデが思案する。思考は一瞬で終了したのか、ソラの瞳を見つめるように肉薄してきた。


「ならば信じて貰うために、真実を告げよう。

 我はソラ・アカツキ。貴様を殺さない。アキト様の命令によってな」


「お父さん!?」


「我は竜王の爪。我は竜王の命に従うために作られた眷属にして防人。我が使命は単純明快。

 未だ動けぬ竜王様の代行者として、古龍を討つ者を見定めること」


 恐らくグリムガルデの語ることは真実なのだろう。事実彼はアカツキに倒されたリヴァイアサンより現れ、リヴァイアサンを倒したアカツキを標的としていた。アカツキと刃を交え、アカツキが真の意味で古龍を脅かす存在ではないと見定め、姿を消した。


「そのあなたが、どうしてここにいるんですか?」


「アキト様のことを聞かずに、我を気に掛けるとはな」


「っ……。誤魔化さないでください」


 ソラが抱いている不安は、この地でも古龍が討たれているかもしれないことだ。

 グリムガルデが代行者であると言うのなら、この地にいることはそのまま見定めるべき人物がいることに繋がる。

 街の様子を見れば人々に顔に不安の感情は見えなかった。だからこそ、ソラは不安を抱いたのだ。


 ソラの言葉に、幾分かの逡巡の後にグリムガルデは口を開いた。


「我はもとより此処に住んでいた人間だ。普段は人間・グリムとして生活し、使命あれば駆けつける」


「――でも、それだけじゃないですよね?」


 グリムガルデ――グリムは嘘を吐いていないのだろう。だが、明確にその裏になにか隠していることをソラは見抜いた。この地で暮らしているのは真実なのだろうが、もう一つ、グリムガルデは何かを隠している。理屈ではなく直感で、ソラはそれを感じ取っていた。

 やれやれと、グリムガルデが首を振る。


「アキト様のように鋭いな、貴様は」


「お父さんの娘ですから」


「……そうだ。竜王の爪となった我ならば本来人としての生活はもう捨てている。この地で暮らす必要もない。ただただ使命が与えられる時を待ち、静かに過ごせばよい」


 だが、とグリムガルデは続けた。


「ソラ・アカツキ。貴様はリオン大僧正のことをどこまで知っている?」


 突然出てきた人物に、ソラは首を傾げる。


「どこまでって……『竜王の翼』と名乗っている、くらいしか」


 あとは、瞑想を行っており二週間ほどしなければ会えないくらいだとソラは知っていることを全て伝える。だがグリムガルデは明確に、『竜王の翼』という単語に過剰に反応した。憎々しいとばかりに、憎悪の感情が表情に浮かんでいた。

 その迫力に思わずソラはたじろいでしまう。


「奴は裏切り者よ。竜王の翼に目覚めておきながらその使命を放棄した。

 そして竜王様に代わって人々を導くと言いだした愚か者よ。

 あまりに不敬。我は奴を、リオンフェルークを粛正するためにこの地に留まっている」

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