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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
一章 ソラ、赤子編(0歳)
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ソラ、迷子を発見する。




 霧の森はその名にふさわしく霧に包まれていた。数メートル先も見えないほど濃い霧に閉ざされているこの森は、視界の悪さと魔物のしぶとさから冒険者たちから苦手とされ、この森での狩猟クエストは必然的に高額になるほどだ。

 もちろん高額故に挑む冒険者も多いのだが、失敗率の高さは言うまでも無い。


 霧の森に関するクエストはBランクに昇格する特別なクエストとして紹介されて冒険者も初めて訪れることが出来る。

 つまりそれだけ危険な場所であり、そこを縄張りとしているグロードウルフがどれだけ恐ろしい魔物かが理解できる。


 高い湿度に不快指数は跳ね上げられ、鬱蒼と茂った太い蔓が足を掬い、ぬかるんだ地面が訪れた冒険者の行動をより一層縛る。また森自体が複雑に入り組んでおり、自然にできた迷路としての一面も霧の森の難易度を引き揚げている。


 そんな極限状態を誘発させる霧の森を、アキトはすいすいと進んでいた。とてもストレスを感じているようには見えず、エクスカリバーで道を遮る蔓を切って奥へと進む。


「久しぶりに来たけど相変わらずだなぁ。前も見えづらいし地面も力を込めにくい」


「だー(でもおとーさん、随分簡単に進んでませんか?)」


「慣れてるからな」


 アキトは元Sランク冒険者。Bランクになって解禁される霧の森よりももっと危険な場所を探索してきた。

 霧の森にも何度も足を運び魔物を狩り、小遣いを稼いだこともある。

 住んでいた森を庭とするなら、霧の森程度であれば遊び場といったところか。


「ソラは大丈夫か? 結構蒸し暑いが」


「だー……(ちょっと辛いけど、まだ大丈夫です)」


「そうか。じゃあ休もう」


 霧の森を進んでかれこれ一時間は経過している。ソラは大丈夫だというが、赤子の体力は思った以上に少ない。疲れて寝てしまえばそれでもいいのだが、そうなったらソラは落ち込むだろう。

 だからこまめに休憩をとって体力の浪費を防ぎ、少しだけ長丁場になってもいい準備を進める。


「あうー(……ごめんなさい)」


「なに言ってるんだ。娘は親に甘えるものだろ?」


「だー(でも……)」


「足手まといとかじゃないからいいんだ。ゆっくり行こう」


 音を頼りに水辺を見つけたアキトはそこを仮の拠点と決める。苔の生えていない大きめの石を二つ選んで、一つにソラを乗せてもう一つに自分も腰掛ける。

 数年ぶりに訪れた霧の森だが、アキトには何の障害にもならないようだ。

 水筒から水を一口飲むと、ソラの番だと口元に持っていく。


「ほら、水分補給」


「あー(え、まだいいですよ?)」


「いいっていいって。グロードウルフと戦闘になれば落ち着くまで体力を使うだろうし、補給できるものはしっかり補給しておけ」


 冒険に慣れているアキトの言葉にソラは黙って従うしかない。こちらの世界での経験はアキトの方が上だし、大切な父親なのだ。

 それにお荷物となっている自分をここまで気に掛けてくれて、なのに嫌な顔一つしないアキトがソラは大好きだ。ソラ自身がコントロール出来ずに泣き喚いて迷惑を掛けてしまったと思っていたが、アキトには負担にもなっていないようだ。


「トイレは大丈夫みたいだな?」


「あいっ(大丈夫ですっ!)」


 アキトの言葉に少しばかし恨めしさを込めて返事をした。見た目は赤子でも中身は少女なのだ。でりかしーのない人ってどうなんですか、と呟こうとしたがアキトがそれを悟ってくれないと考えると黙るしかなかった。

 出会ったばかりの親子だが、お互いの気持ちはなんとなくわかる。そこにはしっかりと親子としての絆が垣間見える。


「だー!(そろそろ行きましょうよ)」


「そうだ、な――っ」


 顔を上げたアキトが水辺の遠くを睨み出す。なにかの気配を感じ取ったのか、次いでソラの耳にも狼のような鳴き声が聞こえてきた。――グロードウルフのものだろう。


「思ったより近いな」


「だー(……ちょっと、怖くなってきました)」


 クエストを受けた時にミカがグロードウルフについて説明していたのをソラは思い出す。

 百年以上生きたレアルウルフは成長しきった巨躯からグロードウルフと呼ばれるようになり、赤く血走った瞳は狙った獲物を決して逃がさないと言われている。

 レアルウルフ-グロードウルフの明確な違いとしては、非常に強い縄張り意識を持ち、多種族であっても従属を示せば支配下に置く、というところだ。

 狡猾で残忍なレアルウルフ以上に発達した知能がなせることなのだろう。

 つまりグロードウルフの縄張りに入るということは、いつどんな魔物に襲われるかもわからないということだ。


「あー!(ま、待っておとーさん!)」


「どうした?」


 鳴き声が聞こえた方角へ足を向けた瞬間暴れ出したソラがちょうど向かおうとした方角を指差す。

 ソラがアキトにも感じられない気配や魔力を感じることが出来るのはエクスカリバーの時に実感したが、今回もなにかを感じたのだろうか。


「あい!(そこから百メートルくらいのところに、だれかいます!)」


「人間? 冒険者か?」


「やー!(違います!)」


 霧の森の近くに村はあるが、そこの住人は霧の森の危険さを誰よりも理解しているから近づくはずはない。

 では別の冒険者か? 冒険者であれば魔物から気配を消すために動かないでいることも理解できる。

 だがソラは冒険者ではないと断言した。理由はわからないしソラも語らない。

 けれどアキトはソラの言葉を信じることにした。人間であっても亜人かもしれないし、最悪グロードウルフの支配に下っている――つまり、罠かもしれない。

 できるだけ足音を立てずにアキトは地面を駆ける。ぬかるんだ大地に足を取られてもアキトの速度は落ちることがない。


「だ、誰じゃ!?」


 その少女は大樹の(うろ)で身体を縮こませていた。泥がはねてしまっているが絢爛豪華なドレスを身に纏い、砂金のような美しく混じりけのない金の髪には葉っぱがくっついている。


「冒険者だ。君を保護する。誰か付き添いはいないのか?」


 冒険者の証であるカードを見せながら洞の中へ手を伸ばすと、少女はおずおずとその手を掴んだ。

 引き揚げた少女はまだ六歳ほどの幼い少女であった。豪華なドレスはところどころが切れてしまい、よく見れば腕や足にも木の枝に引っかけたような傷があった。


「じいやが……じいやがここに隠れていろって。妾が、妾が我が儘を言ってこんな森に来てしまったばっかりに!」


 泣き出してしまった少女の頭を撫で、しゃがみこんで少女と目線を合わせる。

 アイナに昔教わった、迷子をあやす最初の行動。「よほど警戒されてなければアキトのナデナデにこりでイチコロよ!」とはアイナの談だ。


「俺はアキト・アカツキ。君の名前は?」


「……妾はユリアーナ・フロン・シェンツー」


 シェンツー、という名前にアキトは聞き覚えがあった。

 霧の森を領地に含む貴族の名前がシェンツー家だったとおぼろげながら思いだす。


「ユリアか。よろしくな」


 警戒心を解くためにぎこちない笑顔をする。慣れない笑顔はどうしても微笑んだくらいになってしまうのを内心悔やむアキトであるが、それでも効果は抜群のようだ。


「……~っ!」


 顔を真っ赤に染め上げながら、ユリアーナはアキトから目を逸らした。


「あー……(なんか嫌な予感がします。具体的にはおとーさんに謎のフラグが)」

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