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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
三章 ソラ、少女編(16歳)
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交戦、アジリー海賊団!




 アジリー海賊団幹部、ゲルニア・オッズマンは思わず腰を抜かし呆然としてしまった。

 見張りから届いた商船の情報と共に乗組員に号令を掛け、襲撃の算段を整えている最中に、突如として商船が加速した。さらには激突するのではないかと感じるほどの速度で迫られ、慌てふためく船員たちに怒号を飛ばしていると、商船は目の前で急旋回し、自分たちの船に横付けしてきたのだ。

 見えた砲塔に怯みつつも、乗り込む絶好のチャンスだとゲルニアは瞬時に判断した。その判断ができたのは、ひとえに彼が海賊として生きる中で培ってきた経験だ。

 迅速に、手早く、圧倒する。恐怖で支配するよりも、奪うモノを奪い、ターゲットにこちらの隙を一切与えないことこそが、アジリー海賊団が畏れられている手法なのだ。


 商船であるからには食料も交易品も、さらには金貨も積んでいる。ゲルニアの推測はアルクォーツにも当てはまる。

 クウカイを目指して航海していたアルクォーツには大量の食料や交易品、さらには海上で得た魔物の素材も積み込まれていた。その大半を奪うことができれば、その手柄は全てゲルニアのものになるはずだった。

 その実績があれば、アジリー海賊団の中でも突出することができる。

 ついでに商船の乗組員を奴隷として売りさばければ、副収入としても申し分ない。

 まさに完璧な計画であるはずだった。ゲルニア自身、Aランクの冒険者に近い実力を持っている。護衛で雇われる程度の冒険者であれば圧倒できる自信があった。


 アジリー海賊団の中でもゲルニアが選りすぐったメンバーは血気盛んで女に飢えている野獣のような荒くれ者たちだ。汚らしい風貌、鋭すぎる目つき。下卑た笑いと女子供に恐怖を与えるには十分な要素を備えている。


 上質な女が手に入れば最高。積み荷を奪えればそれで上出来。

 ゲルニアにとっても簡単な仕事である。簡単な仕事である、はずだった。


「……なんだぁ、お前?」


 横付けされた商船から飛び移ってきた少女に、海賊たちの視線が一斉に向けられる。ツインテールの空色の髪の少女は、ライトイエローの瞳を真っ直ぐにゲルニアに向けた。

 年齢はまだ二十にも満たない少女だろう。だが非常に可愛らしい少女だ。

 大人びたわけではなく、まだ幼さを残す顔つきと、まだ成長途上の身体はなだからな曲線を描いている。

 出ているところが出ているわけではないが、しっかりと引き締まった美しく整った肢体だ。

 当然、海賊どもの目は粗くなる。久々の少女。瑞々しく、傷一つない白い肌を見て男どもが興奮しないわけがない。

 そんな美少女が、自ら海賊船に乗り込んできたのだ。

 飛んで火に入る夏の虫。一斉に少女を取り囲んだ海賊たちは、涎を垂らしながらそれぞれの得物を構えた。


「こんにちは! 早速ですが――アルクォーツには、傷一つ付けさせません!」


 勇ましい少女だ、と男たちはケラケラと笑っている。まさかこんな小さな少女が商船を護衛している冒険者だとは夢にも思わない。冒険者であるといっても、こんな矮躯の少女など、誰か一人が捕まえてそれでおしまいだ。

 舌なめずりをして、髭を伸ばした男が一人前に出る。少女をさっさと押さえ込み、味見(・・)をするつもりなのだろう。


「おいおいゲイザー、お前本当にロリコンだなぁ」


「へっへっへ。こんな上玉な少女、頂かないわけにはいかないぜ」


「さっさと決めちまえよ。次は俺たちに回してくれよ?」


 慢心しているのか、海賊たちはすっかり油断しきっている。元気な声をあげた少女を見ても自分たちに脅威にならないと思い込んでいるのだろう。


 ――結果として、海賊たちは後悔することとなる。


 まさ自分たちが、一回りは小さい少女に圧倒されるなど思ってもみなかっただろう。

 少女が言葉を呟く。「マジカル・コンダクター」と。

 そして続けざまに「スプラッシュ・リング」と指を掲げた。


 そして一瞬。ゲルニアの思考が追いつく前に三十はいた男たちの内、十人ほどが水のリングに身体を拘束されていた。誰かが魔法だと叫ぶと同時に、海賊たちも気を引き締めソラに襲いかかった。


 だが、自己強化(エンチャント)・三式を使用したソラを誰が止められるものか。いくらソラが命を奪わないように手加減をしているとはいえ、その実力はすでにAランクに肉薄するほどだ。

 顎を蹴飛ばされ、一撃で昏倒する海賊。

 上段蹴りを見舞われ、一撃で昏倒する海賊。

 魔法の槍に肩を貫かれたと思ったら、それが瞬時に鎖に変わり拘束される海賊。

 魔法の剣に武器を弾かれ、拾おうとしている間に鳩尾を殴られ昏倒する。


 誰もが意識を奪われるだけだ。命を奪われるわけでも、ましてや怪我すら負わされていない。

 その惨状を目の当たりにしながら、ゲルニアは少女に自分たちのリーダーの影を重ねてていた。

 あまりにも圧倒的で、それでいて美しさを感じさせる少女に。


「あなたがリーダーですね?」


「っち。待て待て待て。俺は――」


「問答無用、ですっ!」


「がっ……!?」


 必死に時間を稼いで逃げようと考えたゲルニアだがそれも許されなかった。目の前にいた少女がいつの間にか姿を消し、腹部に重い痛みが走る。少女の肘がゲルニアの鳩尾に見事に入り、ゲルニアは勢いを殺しきれず吹き飛ばされてしまう。

 霞がかっていく意識の中で、ゲルニアはぽつりと呟いた。


「畜生。俺は巨乳派なん、だ……っ」


「せいっ!」


「がふっ!?」


 意識を失いかけていたゲルニアに少女が追撃のかかと落としを決め、ゲルニアは意識を手放してしまう。


「ボクはまだ成長途中ですから! それにお父さんならどんなサイズでも受け止めてくれますから!!!」


 思わず出してしまったかかと落としを少しだけ後悔しつつも、少女――ソラはなにごともなく海賊船を制圧して見せた。

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