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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
三章 ソラ、少女編(16歳)
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海賊との遭遇。




「ユーグレナさん、お世話になりました」


「いえいえ、こちらこそ最後に醜態を見せてしまい申し訳ありません……」


「あっはっは。マルコもアンタたちも弱いねえ!」


「姉御が強すぎるだけですぜ……あぁ、頭いてぇ」


 聖堂教国にたどり着いて早五日。アルクォーツはこなすべき仕事を全てこなし、次のクエストをギルドから受けて、荷物を積み込み出航の準備を終えた。

 積み込んだ荷物の行き先は、外の大陸であるクウカイ。海岸線沿いに巨大な山がそびえる、とてもじゃないが船で行くには厳しい国である。

 だがあらかじクウカイの冒険者ギルドと打ち合わせは済んでいるのだろう。海岸線沿いに船を停泊させれば、そこから人員を回して貰える手筈となっているようだ。


 クウカイまでの航海はおよそ二週間。十分に積んだ食料と、ソラにとっては初めての長期的な航海となる。聖堂教国に向かう時と違い、何か起きれば船を寄せれる港町もない。

 ましてや外の大陸に向かう途中までにはこれまで以上に手強い魔物も棲息しているため、気が抜けない場面も多いだろう。

 だがそれでも、ソラはクウカイに向かわなければならない。

 クウカイを纏めるリオン大僧正――竜王の翼と名乗る存在に、アキトの行方を、『天を超えた領域』に至る道を聞き出さねばならないから。

 だから、襲い来る魔物の全てを蹴散らす気持ちでソラは航海に挑む。


 二日酔いの頭痛に襲われているマルコやユーグレナが笑顔を無理に作り、握手を交わす。

 ローラを始め、マルコとミミがアルクォーツに乗り込む。最後にソラが乗り込み、タラップが外れた頃に、彼らはやってきた。


「ソラーーーーーーー!」


 大声と共に港に駆けつけたのは、すっかり元気になったアカツキとグラシアだ。息一つ乱れていないアカツキに対して荒い呼吸をしているグラシアはなんとも辛そうだが、それでも懸命に笑顔を見せた。


「オレ、頑張るから。この剣に誓って頑張るから!」


「うんっ! アカツキ、この国を頼んだよー!」


「おー! 任せて、お姉ちゃん!」


「わぅー!」


 腕が飛んでしまうくらいの勢いで手を振るアカツキに、ソラも負けじと手を振る。左手に握ったエクスカリバーを見せながら、アカツキはソラを姉と呼んだ。

 おそらくだが、グラシアがソラとの関係を話したのだろう。ソラが姉であることを喜んだアカツキは、何度も何度も手を振る。


「ソラちゃん、あなたがアキト様と再会できることを、ベルファスト四世として。グラシアという一人の女性として、祈っています。だから、無理はしないでね?」


「はいっ! 行ってきます!」


 手を振るグラシアに精一杯ソラも手を振り返す。二人のやり取りを見て口角をつり上げたローラと微笑むミミは、出航のために船内を駆ける。


 舵を握ったローラが声を張り上げ魔力を注ぐ。核となる魔石に魔力が満ち、炉心となる魔石を中心にアルクォーツの船体に魔力が流れ込んでいく。

 マルコが帆を張り、ミミが出力を調整し、ソラが天候を確認する。

 結果は、全て良好。これ以上ない出港日和である。

 ローラのいつもの掛け声と共に、アルクォーツが動き出す。


「野郎ども、此処から先が戦場(いくさば)よ。アタシに続け! いざ、出航ッ!!!」




   +




 聖堂教国・ベルファストからの出港は比較的穏やかであった。魔物の棲息しない湾を抜け、大海原に飛び出すこと二日。襲いかかる小型から中型の魔物を蹴散らしながら、順風満帆な航海が続いている。

 空は限りなく晴天。白い雲の漂う空を見上げながら、ソラは飛んでいくカモメを見上げながら甲板に寝転がる。

 あと二日ほどすると魔物のレベルが一気にあがり、少しばかし戦いが険しくなるとはローラの談であり、今はそれに合わせてゆっくりと英気を養っているところだ。


「姉御ー! 前方に船が見えますぜー!」


「帆に所属は描かれているかい!?」


「ああ……っ」


 見張り台から望遠鏡を覗いていたマルコが声を張り上げた。同時にローラが甲板に出てくると、マルコは慌てて見張り台から飛び降りた。慌てているマルコにローラは「どうしたんだい?」と声を掛ける。


「海賊だ! よりにもよってアジリー海賊団だぜ姉御!」


「はぁ? アジリー海賊団の縄張りなんてもっと西の方だろ?」


「嘘じゃねえよ! 鷹の爪がドクロを掴んでいた。間違いねえ!」


「……っち。しょうがないねえ」


 アジリー海賊団。それは聖堂教国からさらに西に存在する小島と根城とする海賊集団だ。三隻の船と百名を超えるメンバーで構成される、人攫いまでする悪名高い海賊だ。

 口頭で説明を受けたソラにも緊張が走る。この船の護衛こそがソラのクエストだが、そこに人と戦う事態を想定していなかった。

 アジリー海賊団がどれほどの戦力なのかは、未だ不明瞭だ。見えた船は一隻だけだから、そこまで人員は割かれていないかもしれない。


「ソラ、意識を奪うだけでいい。できるかい?」


 ローラの真剣な瞳がソラを見つめる。その問いかけに、ソラは不安を押し込んで答える。


「ボクは命を奪いたくありません。でも、この船を守るのがボクのクエストです!」


「いい答えだ!」


 ソラの答えに笑ったローラが舵を握る。さらに魔力を注ぎ込まれたアルクォーツは、追い風を受けてさらに加速する。波をかき分けながら、アルクォーツは海賊船目掛けてスピードを増す。


「ソラ、魔動船アルクォーツの力を見せてやるよ! アンタは、相手の船に乗り込んで制圧しな!」


「わかりました!」


 アルクォーツがさらに速度を上げる。ローラが舵を思いっきり切る。


 激しく動く船体。

 揺れる視界の中で、アルクォーツ号は海賊船の肉薄しながら、大きく弧を描くように急旋回(ドリフト)する!


「悪いね海賊ども。この船には可愛い女の子と大切な荷物が積み込まれてるんだ。お前らに渡す荷物なんかないんだよ!」


 ローラの怒声と共に、ソラは海賊船に飛び移った。

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