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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
三章 ソラ、少女編(16歳)
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アルクォーツの成り立ち。




「それでは、ソラのBランク昇格を祝って――乾杯!」


「「「乾杯!」」」


 『黄昏のノクトラ』の一角を借りて行われた、ソラのBランク昇格祝いの宴。

 ワイバーン・グロウルの肉を使った料理ばかりが並べられ、マルコとソラは肉肉しいワイバーンの肉に舌鼓を打つ。グリルで次々にワイバーンの肉が焼かれていく。

 窓を全開にしていなければすぐに『黄昏のノクトラ』は煙が充満してしまっただろう。


「でもよぉローラの姐さん、俺たちまでご馳走になってよかったのかい?」


「いいんだよ。アンタたちだってここ最近真面目に宮殿の修繕に協力してるじゃないか。今日はソラの祝いの席でもあるしね。参加者は多い方が盛り上がるよ!」


「うぅ、なんていい人なんだ……」

「子供に迫っていた自分たちが恥ずかしい……」

「少女にあしらわれて赤っ恥かいたあの過去を消し去りたい……」


 ワイバーンの肉にかぶりついているのはアカツキと因縁めいていた三節棍の三人組だ。どうやら彼らも宮殿の修繕依頼に駆り出されていたようで、そこでローラたちと打ち解けたらしい。

 ソラとしてはあまり関わりたくないのだが、彼らも心を入れ替えたのかすっかりわだかまりはなくなっていた。むしろソラのBランク昇格を魔道書を持参して祝ってくれたのだ。あまり無碍にも出来ない。


「グロウルの肉は初めてですが……えぇ、市場に回せないのがもったいないです」


 気前よく『黄昏のノクトラ』の一角を貸してくれたユーグレナもワイバーンの肉を味わっている。普段から他のギルドとの交流も多い彼にとっては、ワイバーン・グロウルの肉もただの美味しい食材ではなく商品の一種なのだろう。じっくりと吟味しながら一枚肉にかぶりついている。


「っかー! 嬉しいことがある日は酒が美味い!」


「ローラ様、明日の昼には出航だからあまり飲み過ぎないでくださいねー?」


「おうわかってるよ! さあマルコ、アンタも飲むんだよ!」


「ちょ、ちょっと待ってくれ姐さん腹が腹が割ける!?」


 グラスが空いた傍からローラは次々に麦酒(エール)を注いでいく。もちろん犠牲者はマルコを始めとした冒険者たちだ。飲み比べが始まり倒れていく冒険者たちを尻目に、頬を朱に染めながらローラは豪快に笑う。


「ローラ様ー。飲み過ぎですよー?」


「いいんだよ。ソラの目的地も決まった。ソラも昇格した。ワイバーンの肉も美味いし、宮殿の修繕で商売用に運んできた石材も売れた。いいことずくめじゃないか!」


「まあ、そうなんですけどねー」


「こんだけ売り上げが伸びたのは独立して初めてだしな! よしユーグナレ、次はお前だ!」


「か、勘弁してください……」


 ローラの口にした「独立」という言葉がソラには引っかかった。アルクォーツに所属してまだ二週間も立っていないが、ソラはアルクォーツのことを何も知らなかった。

 当然ソラの興味はそこに向けられる。目をキラキラと輝かせながら、酔っ払ったローラに詰め寄る。


「アルクォーツってどういう経緯で出来上がったクランなんですか?」


「んーあー。あーそうだなー。ソラには話してなかったなー」


 すっかり酒気を帯びた息を吐くローラは呂律こそまだまともだが思考はすっかりできあがってしまっている。いざ話そうとしても、そのうち呂律が回らなくなってしまうだろう。

 ワイバーンの肉を焼き終えたミミがローラの額を小突くと、こくん、とローラは意識を失った。元から限界だったのだろうか。


「では、これよりミミが説明させていただきますー」


「お、お願いします」


 どこからか取り出された紙芝居にソラは目を丸くしながら聞き入る。


「アルクォーツの始まり。それは『トライ・アルカディア』という冒険者クランから始まります」


 ミミの説明は、非常にわかりやすいものだった。

 『トライ・アルカディア』という冒険者クランは百人以上が所属する大規模なクランである。

 その設立には三人のSランク冒険者が関わっており、その三人が中心だからこそ『トライ』と名付けられたと。

 ローラやマルコもそこに所属していた冒険者だが、ローラは元々海の冒険がしたいとのことで、ローラのAランク昇格と同時に独立した、らしい。

 そこでミミが語ったのは、『アルクォーツ』という名前だった。ローラの名前だとソラは考えていたが、それは実際には正しくなく、ローラの夫の名前らしい。


 グラン・アルクォーツ。

 海で生きる商人だったグランと、その護衛を任されたローラ。旅を続ける内に惹かれ合った二人はほどなくして結ばれ、ローラは冒険者として生きながらグランを支えていた。

 だがそこで転機が訪れる。

 グランが病死してしまったのだ。無理をして働き続けたグランは病の進行を防ぐことも出来ず、ローラが気付いた時にはすでに手遅れになってしまっていた。

 当然愛する夫を失ったローラの悲しみは酷いものだった。


 だが、ローラは誰の手を借りることもなく立ち上がった。気丈に振る舞うローラを見たマルコは、元々彼女を慕っていたこともあり、ローラを支えることを決意する。


 それからのローラの行動は早かった。Aランクの昇格を目指し、リーダーに独立の話を持ちかける。見事に昇格したローラは、祝宴と同時に独立し、アルクォーツを立ち上げた。

 夫――グランの夢であった世界の全てを見届ける為に。


「それがアルクォーツの簡単な成り立ちですねー。アルカディアの皆様にはご迷惑を掛けましたが、ローラ様は夢を叶えるために独立したのですー」


「……そうなんですか」


 悲しい過去を告げられたが、ミミが言うにはローラはもう乗り越えた、とのことだ。

 少し気に掛かるの、ソラはまだまだローラを支えるには幼すぎる。自分の父を探す旅に付き合ってくれているローラに、なにかを返すことは出来ないのだろうか。

 きっとそれは、まず「父を見つける」ことが最優先だろう。ローラはクランリーダーとして、一人の大人としてソラを守り、支えてくれている。


「ローラさんもお母さんみたいな人ですよね。面倒見もいいですし」


「そうですねー。ご主人様もローラ様には子供扱いされてますし、みんなのお母さん、みたいですよねー」


 ソラとミミは二人で笑い合う。すっかり眠ってしまったローラやマルコ、冒険者たちを一瞥し、二人してまた笑うのであった。


 ――クウカイへの出発まで、あと、一日。

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