グラシアからのプレゼント
「ユーグレナさん、ボクに用ってなんですか?」
「用事もありますがアカツキさん、どうやって教皇様と面会されたのです!?」
「あー……あはは」
「取り次ごうとしたその日に宮殿が壊れますし、その隙を狙おうと思って教皇様にお話ししたら『もう話を終えましたよ』ですし。どういうことですか!?」
「ほ、報告が遅くなってごめんなさい」
「……まぁ、アカツキさんの目的が叶ったのならそれでいいのですが」
グリムガルデの襲撃から早三日。明後日には聖堂教国を出立することになる。
ソラのクウカイへの旅路は変わらずローラが引き受けてくれた、どうやらローラとしてもクウカイ行きの荷物を運ぶ仕事があるようで、都合が良いらしい。
渡りに船とはこのことだ。気分良く残りの日数を凄そうと決めたところで、ソラはユーグレナに呼び出されたのだ。
今日もマルコは宮殿の修復作業に駆り出されている。日銭を稼ぐには払いがいいらしく、上機嫌なマルコは毎日スキップしながら宮殿に向かっているほどだ。
……マルコの人相でスキップをしているので、通りがかった一般人に避けられているのは言うまでもないが。
「こほん。そうでしたね。実は教皇様直々のクエストを受けまして。アカツキさんを名指ししているんです」
「グラシアさんが?」
「……教皇様です」
ジロ、と睨まれてしまいソラは舌を出して笑顔で誤魔化した。ソラ自身はアカツキやグラシアと打ち解けているが、ユーグレナからすればグラシアはこの国の最高責任者であり象徴なのだ。そんな気安く名前で呼ぶことなど出来ないのだろう。
「そ、それで教皇様がボクにどんなクエストを?」
「Bランクへの昇格クエストです」
「え?」
「Bランクへの昇格クエストです! アカツキさん、あなたどんな魔法を使ったんですか! 私が知りたいくらいです。どうして教皇様が一介の冒険者に特別クエストの許可を出したんですか!?」
本来ソラはまだCランクに成り立てで、Bランクの昇格試験を受けることは出来ない。
だがその無理を通せるのがこの国のトップ。ベルファスト四世なのだ。
試験を受けるためには五十回のCランククエストのクリアが条件だが、グラシアが用意させた昇格クエストは、その試験を受けることなく、クリアするだけでBランクになれる特別なクエストなのだ。
王国でもこの特別クエストは存在する。
だがそれは有力な貴族や王族に認められなければ受けることが出来ない。
つまりソラは、グラシア――ベルファスト四世に認められた、後ろ盾となることを約束されたも同然の冒険者なのだ。
ユーグレナはソラが宮殿の襲撃者であるグリムガルデを追い返した一人だとは知るはずもなく、突然グラシアより頼まれたクエストに目を丸くするだけだった。
「あ、あはは……」
恐らくアカツキにエクスカリバーを貸したお礼かなにかなのだろう。出立する前にもう一度お礼に行かなくては、とソラは心の中で決めておく。
ジト目でソラを睨んでくるユーグレナは露骨にソラを怪しんでいる。けれどもこの特別クエストは正真正銘グラシアから受注されたものなのだ。
そこに嘘偽りは一切ない。グラシアがソラのために用意した特別なクエストだ。
ソラが受けるかどうかの意思表示は必要だが、受けない選択は有り得ないだろう。
何しろBランクへの昇格クエストなどどんな冒険者でも喉から手が出るほど欲しがるものだ。達成報酬は高額だし、Bランクにも昇格できる。断る理由がないくらいだ。
「では、教皇様に感謝して――ありがたく、そのクエストを受けさせて貰います!」
「……わかりました。経緯はどうあれ教皇様の推薦です。こちらで断ることも出来ません」
ユーグレナからは当然ながら理解が追いつかないが、それはそうとして教皇からの依頼を断るわけにもいかない。アカツキのことを知りたがっていたユーグレナだが、これで知る機会は失われてしまったというわけだ。
残念だが、次の機会を待つしかない。今は職務に忠実になろうと、意識を切り替える。
「それではこれより、Bランク昇格特別クエスト、亜種ワイバーン『ワイバーン・グロウル』の討伐について説明します」
「はいっ!」
~ワイバーン・グロウル討伐~
ランク:B(特別クエスト)
募集人数:一名
立会人を海運クラン・アルクォーツより一名派遣。
依頼人:聖堂教国教皇 グラシア・ユークレイル・ベルファスト。
報酬:10000ゴールド
『連なる山が北端。アルトニック山の頂上にワイバーンの亜種であるグロウルが観測されました。毒のブレスを吐く強力な種であり、本来ならばBランクのクエストとなります。
ですが、教皇の名においてこのクエストを特別クエストとしてソラ・アカツキに依頼します。
彼女ならば無事にこのクエストをクリア出来ると、ベルファスト四世の名に誓って約束します。
ソラちゃん、私から出来る贈り物です。Bランクになれれば余所の国でも自由が利くはずですから、頑張ってください』




