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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
一章 ソラ、赤子編(0歳)
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ソラ、クエストに同行する。




「ほんとにソラちゃんを連れて行くの?」


 身軽な軽装。腰にはエクスカリバー。そして背中にソラを背負ったアキトは心配するアイナの言葉に「大丈夫だ」と返事をする。


「だー!(おとーさんと一緒がいいんです!)」


「だからって……ああもうほら。グロードウルフは危険な魔物なのよ?」


 ソラを心配するアイナの気持ちをアキトはわかっているし、連れて行きたくないのもアキトの本心だ。だがそれでもソラはアキトに同行したいと我が儘を言う。


「ほら、私と一緒に部屋で待ってよう?」


「あ」


「え?」


 ひょい、とソラを繋ぎ止めていた紐を緩めてアイナがソラを預かろうと抱き上げる。

 途端にソラは大声で泣き喚く。あんなに落ち着いていたアイナの腕の中で大暴れする。


「だー! だー! やーやー!(やーだー! おとーさんといっしょー! いっしょじゃなきゃやーだー!)」


 わんわんと泣き叫ぶソラはこれまでに見たことがないほど泣き叫んでいる。アイナの腕の中からアキトの背に戻ろうと腕を伸ばして暴れている。


「ああもうほら。よしよし、落ち着けって」


「だー!(おとーさん!)」


 口をぱくぱくさせて呆然とするアイナからソラを受け取ったアキトがソラをあやす。

 するとすぐさまソラは泣き止みアキトにしがみつき、アイナを睨む。


「そ、ソラちゃん大丈夫? どこか痛いの?」


「あー!(アイナさん、きらいっ)」


「嫌われたっ!?」


 不安げにおどおどするアイナを見たことがないアキトは面食らう。

 普段から世話焼きのアイナがソラに拒絶されたくらいで狼狽えるのを見て思わず吹き出してしまった。


「わ、笑うなぁっ!」


「すまんすまん。お前がそこまで子供好きとは想ってなくてな」


「……ソラちゃんだからよ」


 ぷい、と拗ねて顔を逸らしてしまうアイナを見てからかいすぎたと反省するアキト。

 けれどこうなった時の対応策も長年の付き合いからわかっている。アイナもアキトが何をしてくれるかわかっているからこそ、ちらちらと横目にアキトを見ている。


「帰ってきたら甘いものでも奢るよ。それでいいだろ?」


「ええいいわよ。『無事に』帰ってきてね」


 約束事のように二人して笑い合い、ソラはそれが面白くないのかアキトの腕の中で頬を膨らませている。


「むー」


「ほら。もっかい背中に乗りな」


「あい!(はい!)」


 再びアキトの背中にしがみついたソラを、今度はアイナが紐を緩まないように縛っていく。ソラが苦しくならないように気を配りながらしっかりと縛り、終えるとアキトの肩をぽん、と叩いた。


「竜車は呼んであるの?」


「ああ。街の入り口で待機してもらってる」


「じゃ、気を付けていってきなさいな」


「行ってきます」


「行ってらっしゃい」


 言葉を交わし、アキトはソラを連れてクエストに向かう。



 スタードットの入り口に待機していた壮年の男性はアキトの到着に頭を下げるとすぐに客車(キャビン)の扉を開いた。冒険者ギルドが手配した御者はとにかく下手に出る男だった。


「だー?(馬車じゃないんですか?)」


「馬でもいいが、馬だと魔物が近づくと怯えてな」


 この世界には馬車以外にも様々な生物に客車を引かせている。

 ゆったりとした旅をしたいのなら鈍足なゾウ。速さを追求した猫型のクァールなどがあげられる。

 今回アキトが頼んだのは、ディノレックスという小型二足歩行の恐竜に客車を引かせる竜車だ。

 馬や牛より獰猛な魔物ではある。

 だがきちんと躾ければ魔物が多い地帯でもしっかり仕事を果たしてくれる、地竜と呼ばれる竜種に属する魔物だ。

 御者である男性がディノレックスにまたがり、手綱を引くとディノレックスが走り出す。

 馬より早く、度胸があるディノレックスは馬車よりも値が嵩むのは当然だが背に腹は代えられない。

 これからアキトが向かうのはグロードウルフが現れたと報告を受けた霧の森と呼ばれる一帯だ。普通の馬車では近づくことすら出来ない森なのだ。


「だー(おとーさんになにかあったらボクが魔法でどーん! ってしますね!)」


「そうだな。そうしてもらえると助かるよ」


 張り切るソラだがアキトとしては守ってもらうつもりは毛頭無い。連れて行くのもエクスカリバーとアキト自身の身体能力があればグロードウルフに引けを取らない自覚があるからだ。

 油断も慢心もせず、これまでに培ってきた記憶と経験を頼りにグロードウルフとの戦闘を頭の中でイメージする。


「だー?(霧の森って遠いんですか?)」


「竜車だったら二時間くらいだな。途中休憩を挟むから、三時間はかからないだろう」


「あー(じゃあその間おしゃべりしましょ!)」


「ははは。そうするか」


 無邪気に話しかけてくるソラを膝の上に乗せる。どうやら道中は暇な時間はなさそうだ。

 やや荒れた街道を駆けながらディノレックスは霧の森を目指して速度を上げる。

 窓から空を見上げれば、少しだけ雲は浮いているがしっかりと陽の光が差し込んでくる。 クエストをこなすには良い陽気だ。竜車に揺られながら、あれもこれもと話しかけてくるソラにしっかりと答えるアキトだった。


 途中で休憩を挟んで合計にして二時間半ほどを掛けて竜車は霧の森付近にまで到着した。森に近づけば凶暴な魔物が飛び出してくることもあるため、御者には少し離れた場所で待機を命じる。

 近くの街で暇を潰してもらおうかとも考えたが、帰りの時間のことを考えるとそんなに長居をするつもりはないのだろう。


「ここで待っていてくれ。ディノレックスで勝てないような魔物が来たら逃げて良いが、その場合払いはないからな?」


「へへ。わかってますぜ旦那」


 ニヒルに笑う男性と笑みを交わし、アキトは霧の森に向かって一歩を踏み出した。

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