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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
三章 ソラ、少女編(16歳)
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到着、ベルファスト!




「あれが聖堂教国ですかー!?」


 甲板のソラが声を張り上げる。合計八日を掛けた航海は、三日目の魔物の襲撃以降大きな障害を受けずに比較的安全な航海をすることが出来た。

 五日目に巨大なクラーケンとの戦闘はあったものの、相手が単独であれば創造魔法を巧みに操るソラの前では敵にすらならない。

 雷を纏った『エルダーリアランス』の前に一撃で沈黙し、風の魔法で綺麗に切り裂かれ食料となったほどだ。


 そしてアルクォーツ号は、聖堂教国首都・ベルファストが存在する湾内に無事入ることが出来た。


「よーし、マルコ、砲塔をしまうよ! ミミ、弾丸もしまっておいてくれ!」


 船内で慌ただしく動いているマルコとミミからの返事を聞き届けたローラが甲板に降りる。

 アルクォーツ号はまだ海上にあって、ベルファストまではもう少し時間が掛かる。

 それなのにローラは武装の解除を命じた。魔物に襲われる不安はないのだろうか。


「ローラさん。まだ魔物が襲ってくるかもしれないのに、大砲をしまっちゃっていいんですか?」


「あ、そうか。ソラは知らなかったね」


 「あっちを見てみな」と指差したローラの方角を見ると、そこには湾内の入り口に立てられた灯台が見えた。巨大な炎が昇る灯台は、船乗りたちにとって目的地を象徴する大切な建造物だ。

 よく目を凝らせば、その炎の中に紫色の何かが見える。


「あの炎の中にある紫色のものはわかるかい?」


「ええ。燃えてるわけじゃなさそうですが……」


「あれは魔物を寄せ付け無くする魔法が施された特殊な魔具でね。あれが炎を纏っている間は魔物は湾内に入って来れないんだよ」


「そんなのがあるんですか!?」


 初めて知った魔具にソラは興味津々だ。先人たちの知恵であるが、魔法学院に通っていたソラが知らない魔法に、ソラは興味を抱かずにいられない。

 アルクォーツ号で旅をしてまだ八日だが、ソラの世界はガラリと変わった。襲い来る魔物、知らない国、未知の技術。そのどれもがソラの好奇心を刺激して止まない。

 アキトを探す、という目的がなければその地方の図書館に籠ってひたすら研究に励んでしまうだろう。


「そのおかげで湾内では安全に漁が出来るんだ。エリアを決めて魚の養殖もしているから、聖堂教国は他の国以上に外交で潤っている国なんだよ」


「わぅ。凄いですねー!」


 目をキラキラと輝かせながら説明を聞くソラは尻尾があれば振ってるほどの輝かせ具合だ。説明する毎にオーバーなリアクションを取るソラにローラもつい笑ってしまう。

 船を進めること小一時間。港からの明滅する光に気付くと、ローラはアルクォーツ号をゆっくりと光の明滅に合わせながら減速させる。

 港の全容が目視できるほどの距離になれば明滅は激しくなる。恐らくそこに船を止めろ、という合図だろう。


 合図に従ってローラはアルクォーツを停留させる。見事な操舵技術である。

 もっとも、アルクォーツ号は船とは言っても魔力で動く魔具だ。停留させるための動きはすでに術式として付与されており、ローラは微調整を繰り返しただけだ。


 綺麗に港に寄せたアルクォーツ号は錨を下ろし、船を固定させる。太いロープを係留用のフックに掛けて貰うと、ローラは続けて舷梯(タラップ)を取り付けた。


「『海運クラン・アルクォーツ』代表、ローラ・アルクォーツ! 依頼された品物を届けに来たよ!」


「ありがとうございます! 私は『黄昏のノクトラ』代表、ユグドーラと申します!」


 アルクォーツから降りたローラに壮年の男性が声を掛けてきた。どうやらベルファストの冒険者ギルドである『黄昏のノクトラ』で働く職員のようだ。

 ローラはクエストの書かれた紙をユグドーラに渡し、サインを貰う。


「積み荷を降ろすのは――」


「ああ、そっちの冒険者に任せていいかい? 連絡はいってるはずだが」


「ええ。二十名ほど待機させております」


「ありがとう。これがアルクォーツのメンバーリストだ。聖堂教国及びベルファストへの入国検査は何処ですればいい?」


「それでしたら港の入り口にある二階建ての建物です」


「すまないね。じゃあ頼んだよ!」


「はい!」


 慣れた手際でローラはテキパキとユグドーラと言葉を交わす。話が終わるとすぐさまローラは指定された建物へ向かい、メンバーの入国検査を済ませる。

 検査といってもアルクォーツは何度も聖堂教国を訪れている。その仕事からの信頼あってか、検査は何事も起きずに完了した。


「待たせたねお前ら! 降りてきていいよ!」


「はいっ!」


 積み荷の納品を手伝っていたソラたちもローラのかけ声に答え、降船の準備を進める。

 納品の立ち会いを務めていたミミも分担を終わらせた為、ソラと合わせて船から下りた。

 ソラわくわくとドキドキを隠しきれないまま、教国の地面を踏んだ。


「ついたーーーー!」


「あーほんっと。アルクォーツならはえーよ」


 隣で首を鳴らすマルコは疲れたように肩をほぐす。

 陸路で向かえば一ヶ月は掛かるベルファストへの道のりも、船であれば八日なのだ。

 連なる山脈を越えることに手間が掛かるから仕方ないのだが、そのためか聖堂教国には船で訪れる者が多い。


「さてソラ。目的地に到着したわけだが、まずはどうする?」


「お父さんを探します!」


「だよなっ!」


 ソラとしてもこの街の、この国の魔法技術に興味がないわけではない。入り口の灯台に備えられた魔具を初めとした、この国ならではの物を知りたい気持ちもある。

 けれどもソラの目的はあくまでアキトを探すことだ。見つからなくても、ここはアキトg訪れた場所なのだ。

 アキトならば、必ず何か足跡を残している。まずはそれを探すべきだろう。


「聞き込みとか中心になりますけどね」


「そうだね。手伝えないのは残念だが……」


「いえ、ここまで連れてきてくれただけでも助かりましたから!」


 ローラと握手を交わすと、ソラは港を抜ける。ローラに提示されたアルクォーツの滞在期間は、五日。

 その間に手がかりを見つけなければ、ローラたちは出発してしまう。

 アルクォーツのメンバーに加わった以上、ソラはその期日を厳守するつもりだ。

 ……手がかりが見つからなくても。


「よーし、まずは冒険者ギルドで聞き込みです!」


 『黄昏のノクトラ』は港を出ればすぐにある。勢いのままに、ソラは冒険者ギルドに突撃した。

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