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転生者の育て方~異世界子育て英雄譚~  作者: Abel
三章 ソラ、少女編(16歳)
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出航、アルクォーツ!




 スタードットの街を馬車で出発して早三日。

 ソラたちは王国の東端にある港町オルフェンに到着した。

 本来、ソラの目的地である聖堂教国を目指すのであれば向かうべきは西の国境線なのだが、ローラの「アルクォーツの仕事はこっちからなんだ」という言葉に従った。

 不思議と焦りはない。

 聖堂教国にいるかもしれない。ないし手がかりが残っているかもしれない。

 それがわかっているから、焦る必要はないのだ。


 そういえばと、ソラはローラたち『アルクォーツ』がどんなクエストを受けているのかをまったく知らなかった。

 冒険者クランとして活躍はしているらしく、それなりにクエストも貰えているとは聞いたが、実際にどのような種類のクエストをこなしているかは聞いていなかった。

 これから聖堂教国への長い旅に付き合ってくれるのだ。クランに所属する以上、ソラも知るべきだ。


「ローラさん、オルフェンがアルクォーツの本拠地なんですか?」


「ああ、違う違う。そうだね、ソラには説明してなかったね」


 『秋風の車輪』ではローラはソラに「ちゃん」を付けていたが、Cランクとなり、そしてクランの一員となったことで外したようだ。

 同時に認められた、とソラは思ってむしろ嬉しいくらいだ。

 ローラはニカ、と歯を見せながら笑みを浮かべ、そして海を――港を指差す。


「あそこが、アタシたちアルクォーツの戦場だよ」


「港……ですか?」


「っはは。行けばわかる」


 馬車から降りてオルフェンの町並を眺めながら港へ向かう。

 ソラにとっては初めて訪れる町であり、運ばれてくる磯の香りにわくわくしてしまう。

 スタードットほどではないがそれなりに栄えている町だ。

 石造りの建物が連なっており、港には一直線となっている。ほとんどの店でが露店で豊富な海の幸を焼いており、嫌でも美味しそうな香りが鼻腔をくすぐる。


 貝を使ったアクセサリーもあれば、釣り道具もある。宿屋や武器やといったオーソドックスな店舗も並んでおり、見ていて飽きない町である。


「ここにも冒険者ギルドがあるんですね」


「ええー。『海風のマリアナ』ですねー」


 港にほど近い宿屋の隣に居を構える冒険者ギルド『海風のマリアナ』。

 主に町の周囲や港での働き口、商船の募集といったクエストが中心のギルドである。

 とはいえ規模はスタードットほど大きくはない。閑古鳥が鳴いているわけではないが、繁盛もしていない、といったところか。


「スタードットのほうが手広く受けてるし、王国のいろいろな場所のクエストも扱っているからね」


 そう言うローラの横顔は少し退屈そうだ。オルフェンからスタードットへの道程を考えると難しい判断だったのだろう。


「俺はオルフェンでのんびりしようぜって提案したんだけどよぉー。姉御が稼ぎが悪いっていうからよー」


「五月蠅いよマルコ。途中の馬車でオークに襲われたくらいで怪我してるアンタがそれを言うのかい?」


「ご主人様が怪我をしなければ、もうちょっと稼げたと思うんですけどねー」


「ぐ、ぐぅ」


 ぐぅの音も出ないとはこのことか。ものは試しにとマルコが出した言葉で思わず場が白けてしまう。

 ソラとしてはマルコが怪我をして、滞在が長引いたからこそローラたちと出会えた。

 むしろマルコに感謝すべきだろう。だがしかし面と向かって「怪我してくれてありがとうございます」とは言えない。


「お、見えてきたね」


 すっかり場が白けてしまったと同時に喧噪が勢いを増す。一本道を通り過ぎ港に到着すると、思わずソラは見上げてしまう。

 港に停留している、四隻の船。そのうち三つは沖合で漁をする漁師たちのための船。水運ギルドが管轄している船だ。

 残っている一隻は、それらの船より一回りは大きい。

 五十人も百人を人を乗せ、積み荷を運ぶ――商船だ。

 船首には大きく羽を広げた鷹の木像が飾られており、その威風堂々な佇まいにソラは圧倒されてしまう。

 悪戯するような笑顔でローラがその船の前に立つ。了解したとばかりにマルコとミミがローラの左右に立ち、ローラの言葉を待つ。


「これこそが、アタシたち海運クラン・アルクォーツが誇る大型魔動船――アルクォーツ合だよ!」


「……わぅー!」


 ローラの言葉にソラも思わず鳴いてしまうほどの衝撃を受けた。

 水運ギルドは文字通り「水」上で「運」ぶ仕事を中心にしている。

 ローラが敢えて「海運」クランと名乗っているのはそこを明確に分けるためだろう。


「海こそがアタシたちの戦場よ。この広大な大海原を旅し、あらゆる大波にも負けず、あらゆるものを世界へ運ぶ。それこそがアルクォーツの在り方よ!」


 その言葉に、嫌が応でもわくわくしてしまう自分がいた。

 大海原を越え、水平線の向こう側を目指し、世界を回るアルクォーツ。

 船乗りとして、そして冒険者として活躍する自分を想像して、ソラの心が沸き立つ。


 出会えて良かった。誘って貰えて良かったと。

 思わずソラは思いっきり頭を下げる。


「ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」


 ソラの言葉を受けてローラは大きく破顔する。マルコは鼻をこすりながら、ミミは微笑みを浮かべながらソラを快く迎える。


「帆を張りな! 炉に魔力を流し込め! アルクォーツ号、聖堂教国へ向けて発進するよ!」


「「「了解っ!」」」


 マルコの、ミミの、ソラの声が重なる。

 あらかじめ準備は済ませていたのだろう。アルクォーツへ乗り込むと、そこにはすでに大量の荷が積み込まれていた。

 『海風のマリアナ』に協力して運んでおいた、とローラは語る。スタードットへはあくまでつなぎの日銭稼ぎをしていたのだと。

 巡り合わせた幸運にソラはもう一度感謝する。


「マルコ、帆は張れたかい!」


「完了ですぜ姉御!」


 マルコがその人形遣い(マリオネッター)としての手腕を発揮する。マストへ昇らずとも、魔力に良って生成された糸を伸ばして帆を張った。


「ミミ、炉心は正常かい!」


「万事問題ありませんよー」


 ミミが船室の中にある結晶体――巨大な魔石に触れ、その感覚を報告する。

 魔力で動いてるミミだからこそ判断できる、ミミでなければ困難な検査だ。


「ソラ、海の様子はどうだい!」


「――静かです。これ以上ないくらい、出航日和です!」


 眺める海上は荒れることなく静かな波を立てている。

 ソラの言葉を皮切りに、ローラが舵を握り、魔力を流し込む。


 この世界には、魔力を注いで使うことが出来るアイテムがたくさん存在する。

 ソラのエクスカリバーやリボンなども魔具であり、注いだ魔力の分だけ効力を発揮する優れものだ。

 例えば氷の魔法によって温度を保つボックス。

 例えば炎の魔法によってどこでも火をおこせる巻物。

 魔具と呼ばれる道具によって人々の生活は成り立っており、もはや日常の一部となっている。


 この魔動船アルクォーツもまた、高魔力結晶体――魔石と呼ばれる鉱石を動力として用いる巨大な魔具だ。

 ローラが注いだ魔力に魔石が反応し、船を動かす仕組みとなっている。

 それは帆を張って風を動力とする船と違い、風の影響をほとんど無視して航海が出来るということだ。


 アルクォーツの全体へローラの魔力が行き渡り、アルクォーツはゆっくりとその巨体を動かしていく。


 舵から手を離したローラが甲板に立ち、片足を前に出して水平線を睨み付けた。

 胸の前で腕を組み、羽織ったローブが風にたなびく。


「野郎ども、此処から先が戦場(いくさば)よ。アタシに続け! いざ、出航ッ!!!」

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