親分
3話連続投稿の2話目です。
「何?」
カミーユは光と大きな音がした方向を見る。家の方だ。子供たちは? 不安だ。カミーユはすぐさま屋根の上を走り始めた。
現場到着。幸いにも自宅ではなかった。家屋と家屋の隙間に両手両足をついて降りる。そこは建物が倒壊し、道端にも崩落に巻き込まれただろうスラムの住人が呻いている。カミーユは自宅でなくて良かったと思ってしまったことを心の中で戒めた。崩れ落ち黒く煤ける木材と独特の匂いに、これは魔法だと理解した。
ここはスラムの浅部を治めている親分のねぐらだ。カミーユたちも庇護を受けている。嫌な予感がしながらも、今はそれどころじゃないと思い、遠巻きに見つめるまばらな人々をかわし抜け、カミーユは叫ぶ。
「柱をどけるんだ! 女は怪我人の手当てを!」
やるべきことに気づいた群衆が動く。倒壊した家屋から全ての死傷者を運び出した頃には、陽は沈んでいた。
結局救い出せたのは、18人中3人。昼飯に集まっていたところをやられたらしい。親分は死亡していた。4人ほど外回りをしていた子分がいて、合計7人は無事だったわけだが、3分の1以下。組織の壊滅は明らかだった。誰が、なぜ、といった疑問は誰からも出なかった。深部の組織がやったのであろう。カミーユは、親分の名前を知らない。親分たちが深部の荒くれとどう渡り合ってたかも知らない。だが、自分たちもこのままじゃ済まないということははっきりわかった。
その夜、親分と子分たちの葬儀が行われた。聖職者を呼ぶ正式なものではない。暗い中、撤去された建物を囲み、花を捧げ、祈るのみだった。カミーユは、一旦家に戻り子供たちに夕食を取らせてから、葬儀の列に並び悼むのだった。
親分は周りの住民から慕われていた。国にあたっては、スラムの浅部を一括で集金するのと合わせて人数を過少に申告し、人頭税の減免を勝ち取った。深部のマフィアを、恐らくは荒っぽい方法で対抗して、近づけなかった。
カミーユたちも恩恵を受けた一部だった。今住んでる部屋は、親分に用意してもらったものだ。人数が増えればより広い部屋を、ジャンが料理人になりたいといえば、1階のかまどのついてる部屋に換えてくれたものだった。カミーユとジャンが昼間出かけている間も、留守番してる子供たちが難儀してないか時折子分を様子見に使わしてくれた。クロエの内職も親分たちが用意してくれたものだ。ちょっとどころじゃなく怖いけど、実は優しいおじさん、それがカミーユたちにとっての親分だった。