母
3話連続更新の3話目です。
カミーユは夢を見ていた。昔の幼児の頃の夢だ。なぜだか、いや、間違いなくあの老婆のおかげで、記憶の彼方に置き忘れた物事も鮮明な夢だった。
カミーユは、1人の娼婦の元で生まれた。母の名はルイーズ、歳は定かではない。細く綺麗な人だった。酒場で給仕をし、酔客の求めに応じて体を貸す、酒場娼婦だった。父はどこの誰とも知れない。たくさんいる客の1人だろう。カミーユは物心ついた時には酒場にいて、客にちょっかいを出して過ごすのが常だった。
「ねーねー、マルタンさん、旅の話聞かせて」
「仕方ないなぁ。カミーユちゃんは」
カミーユは可愛がられた。カミーユの愛嬌の故か、母への印象をよくするためか、酒場の客は大いに語ってくれたものだった。父はいなくとも幸せだった。母が酒場の上階の宿部屋へお客さんと共に入っていくときは不満だったが、酒場の女将さんが優しく相手してくれたので、我慢できた。
母は教育に厳しくなかったが、口を酸っぱくして言うことがあった。
「カミーユ、お客さんの顔と名前と前の会話を覚えておくのよ。それで男なんてイチコロなんだから」
カミーユは何がイチコロなのかわからなかったが、母の教えを守り、顔と名前と会話を覚えるように努めた。その努力は実り、客にますます可愛がられるようになった。
カミーユが7歳になった頃、母が倒れた。娼婦がよくかかる病だった。熱が続き、関節が痛いらしかった。手の平と足の裏に赤い班が出た。騙し騙し働いていたが、カミーユが8歳になる頃には、身体中に発疹が出て、給仕も娼婦も辞めざるを得なくなった。顔もボコボコに腫れ上がり、見るも無惨な有様だった。
この頃にはカミーユは母が宿で客と何をしているか知っていた。自分もそうなると思っていた。しかし、この母のかかった病気に恐れを抱き、どうすればいいかはわからないが、絶対に娼婦にはならないと決めた。
カミーユは母を看病した。酒場の女将さんの温情により、給仕の真似事をして働いた。少ない給金で薬は買えない。代わりに、精のつくものを買い、母に食べさせた。しかし、献身も虚しく、母は死んだ。
カミーユは孤児になったのだった。
うう、文才……