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山賊少女と魔法の杖  作者: babie
孤児時代
18/20

夢の終わり

 メッツ伯リシャールの招待から貴族の招待が殺到した。ミシェルは嬉しい悲鳴を上げていた。一方、カミーユは沈鬱としていた。歌劇で稼いでいることが貧民街深部のチンピラにバレたのだ。広場での公演を見られていたようだった。


「おう、オメー、随分と荒稼ぎしてるらしいじゃねーか」


 いつも金をたかりに来てるチンピラが4,5人も舎弟を連れて来た。オイッと声を掛けると一斉に家探しが始まる。それで土間に埋めていた壺も見つかった。チビ供を守るため、抵抗するどころではなかった。稼いでも稼いでも奪われる……。カミーユは親分が死んだ時と同じように打ちのめされる思いだった。


「カミーユ、どうしたのよ。顔が真っ青よ。何があったの?」


 ミシェルは普段は、カミーユの暮らしのことを、貧民街のことを聞かない。それは、生まれや育ちを意識させないための優しさだった。カミーユは素直に訳を話した。意地を張る気力も無かったのだ。


「ふーん。そうね、そろそろウチの劇団も本拠が必要だと思っていたのよ」


 ミシェルの解決法はカミーユの度肝を抜いた。土地を借りて劇団員の宿舎を建てようというのだ。そして貧民街とはおさらばすれば良いと。


「ま、ちょっと早いけど、どうせ必要になるものだわ。子供達は小間使いね、見込みがありそうなら劇団員に取り立ててやってもいいわ」

「お金はどうするの?」


 カミーユの勘定では、土地を借りて1棟立てるには全然足りないはずである。


「パトロンになっても良いという貴族が何人かいるわ。まぁ待ちなさい、しっかり取ってやるから」


 それからのミシェルの活躍は目を見張るものがあった。広場で稼ぎ、貴族の館で稼ぎ、脚本を書き、衣装の注文、小道具の用意、稽古も欠かさず、いつの間にか貴族との交渉を終えている。まばゆかった。こんな女傑がいるものかと驚いた。カミーユは指図に従って目まぐるしく働きミシェルを支えた。瞬く間に夏が過ぎて行った。


「さあ、まだまだこれからよ!」


 ミシェルは拓けた土地の一角に佇んで言う。カミーユも、ここがこれから自分たちの家になるのだと感慨深いものがあった。カミーユも資金の一部を提供していた。どうせ奪われるならと、ほとんどの金の運用をミシェルに任せたのだ。これから自分たちの、もしかしたら歴史に残るような活躍が始まる。そう夢みてた。そう信じてた。




 カミーユはその日も朝早く職場であるベルナールド商会へ出かけた。店の前に人だかりがありざわついている。嫌な予感に襲われて人混みを搔きわける。警吏が2人門の前を固めている。


「何があったんですか!」

「ガキが口を出すことじゃない!」

「ここで働いているんです! 従業員です!」


 警吏は訝しい顔をしながらも道を空ける。店の中はめちゃくちゃだった。商品がごっそりなくなっているが、急いでいたのか取りこぼしもあるようだった。そこかしらに散乱している。


「3階だ」


 警吏の低い声を聞き、カミーユは瞬く間に奥へと走り階段を駆け上がる。途中2階の応接間が見えたが毛織物もごっそりなくなっているようだ。3階に辿り着く。3階以上はミシェル一家の私室でカミーユも上がったことがない。手近な扉を開けると惨状が飛び込んできた。警吏が何かを検分している。それは、シルヴァン商会長とジネット奥方の死体だった。


「ミシェル! ミシェルは?!」


 検分していた警吏はアゴで横の部屋を指す。カミーユは隣の部屋に飛び込む。そこには血だまりに仰向けで横たわるミシェルがいた。駆け寄ろうとすると後ろからがっちりと肩を掴まれた。


「ミシェルが! ミシェルが!」

「もう遅い、死んでいる……」


 ミシェルは茫洋と目を見開き、首の傷から血を流し死んでいた。右手に短刀が握られている。


「辱めを受けたくなかったんだろうな。自害だ」


 カミーユはそうだろうと思った。誇り高いミシェルのことだ、蹂躙されるのを許せなかったのだろう。顔も体も血に塗れているが、どこか美しかった。暴漢への反骨の現れか、それとも人生で意志を貫き通したという勝利の宣言か、口は、その表情は、笑ってるようにも見えた。


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