合否
「おほん。改めて、シルヴァン・ベルナールド、このベルナールド商会を仕切っておる」
「私はジネットよ」
ミシェルの父、シルヴァンは、気を取り直して自己紹介する。
「先ほどは失礼した。なんでも職を探しておるとか」
「はい」
カミーユも気を引き締めて答える。
「文字も読み書きできるし、計算もできるとミシェルから聞いておる。しかし、女の子か……」
カミーユはそこがやはりネックになるかと気落ちした。
「他に何か特技はあるかね?」
「強いて言えば、人の話をよく聞いて覚えておくことができるってことですかね……」
「記憶力か。本当だとすればかなり得難い能力だが、果たして……」
「あら、お父様、本当のことよ。歌詞なんか一発で覚えちゃうんだから」
「ふーむ、では試させてもらうとしよう。次に唱える文句を一字一句間違わずに言ってみなさい」
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デタラメである。古代の哲学者の古代語の文章が元だが、適当に飛ばし飛ばし言ってみただけだ。覚えられるなどとは毛ほども思っていない。
だが、すぐさまカミーユは全て一字一句違わずに暗唱してみせた。これにはシルヴァンも驚いた。自分自身でも正確に覚えていないが、時折混ぜた意味のある言葉の流れが一致していた。
「ミシェル、いくつか本を見繕って持ってきてくれないかい」
「ええ、わかったわ、お父様」
ミシェルが持ってきた本に基づいて、今度は詩、今度は散文と次々に試す。その全てにカミーユは答えて見せた。
「本物だ……」
シルヴァンは驚きを隠せない。ミシェルはなぜかドヤ顔だ。ジネットはニコニコと微笑んでいる。カミーユはじっと成り行きを見守っている。
「合格!」
シルヴァンは採用を決めたのだった。
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