面接
夫人に連れられてカミーユは階段を登った。正面に扉があり、夫人はノックする。
「あなた、カミーユさんをお連れしました」
「うむ。入れ」
カミーユは目を落として入る。
「失礼します」
そこは毛織物の見本市だった。数々の毛織物がグラデーションを成すように部屋の壁を飾っていた。黒茶赤黄白灰青緑……。カミーユは目が回るような気がしながらも、声を絞り出す。
「おはようございます、ベルナールド様。私はカミーユと申します。本日は、わざわざお時間を取って下さりありがとうございます」
「……」
ミシェルの父親は睨め付けるばかりだ。カミーユはどうしたらいいかわからずに下を向き立っている。どれくらいの時間が経ったろうか。沈黙を破ったのは、お茶を用意してきたミシェルの母親だった。
「あなた、いつまでボーッとしてるんですか、失礼ですよ。さ、カミーユさん、お座りになって」
主人の許しがなくとも大丈夫なのか心配だったが、立っていてもしょうがないので、カミーユはソファに座った。沈み込みが深くて背を伸ばすのが大変だ。このとき初めてミシェルの父親の顔を見た。立派な口髭と禿げ上がった頭が印象的だった。ミシェルの母親も主人の横に座る。
「ボーッとなどしとらんわい。そこな小僧を見極めておるのじゃ」
「話もしないで見極めも何もないでしょ。さ、カミーユさん、お飲みになって」
「ありがとうございます」
流石に、主人が口をつける前に奉公人志望が飲むのはダメだろうと思って、カミーユは不動だった。また、沈黙が支配する……。またしても、沈黙を破ったのは、女性だった。
「あ、来てるじゃない。カミーユ? おはよう。ふーん、なかなか良い面構えじゃない」
この声はミシェルだ。ミシェルは、黄金の髪、緑の瞳で、歌声に違わぬ美しさだった。カミーユはミシェルを見てまるで太陽のようだと思った。ミシェルはカミーユを父親と同じように睨め付けるように観察している。さすが親子だと思ってカミーユは少しおかしくなった。
「おはようございます。ミシェルお嬢様」
「ぷっ、ミシェルお嬢様だって。いつもはそんな風じゃないじゃない」
ここで、なぜかミシェルの父親の顔が険しくなった。いや、驚愕に彩られた。
「き、君は、いつもミシェルと会っているのかい?」
カミーユは、やはり、この身分差で、毎日のように深夜に会うのはまずかったかと汗をかいた。
「いえ、お互いの都合が合えば、というところでございます」
「何よ、カミーユ。ほぼ毎日、愛の歌を交わし合ってるじゃない」
ミシェルは頬を染める。ここで、父親が切れた。
「な、なんて破廉恥な! ええい、貴様! 叩っ斬ってやる! 誰か、剣を、剣を持てい!」
父親は激昂、ミシェルはヤメてとすがりつく、カミーユは突然の事態にオロオロするばかり、それを止めたのは母親だった。パシッと頰を張る音が聞こえる。
「あなた、しっかりしてください。カミーユちゃんが困っているでしょう?」
「「え?」」
「カミーユちゃん、って……もしかして、女の子?」
「……はい」
2人とも大いに勘違いしていたのであった。
はい、ベタでしたね。よくあるから覚悟してください。