貰えるのは情報だけ(イヤリングは要りません…)
目を覚ますと視線の先には見覚えの無い如何にも石造りと思われる高い天井…
最近のラノベとかで引用される新世紀な少年の台詞が一瞬、頭をよぎる…
お約束とか考えながら一言、呟く…
「ぶっちゃけ、ありえない」
そう、全くもってありえない…
自分が知らない天井なんて呟かないといけない、そんな状況におかれる理由が無いのだ。
普通そういう類いのモノは、若干の例外はあるが、何故か異常に身体能力が高かったり政治・経済やら物造りの知識を持ち合わせた【中高生】や謙遜してはいるが、そこそこ知識や経験のあるエリート気味な【青年】が選ばれておかれる状況である。
夢を持って上京し運に恵まれず…
いや才能は並み以上はあったと思うんだけど…
おぉっと…話が横道に反れかけた。
まあ、そんなこんなで落ちぶれて夢を追うあまり就職のタイミングも逃しアルバイトで食い繋ぐ40歳を過ぎた中年のオジサンが現在進行形で直面しなきゃいけない状況では無いのだ…
とりあえず、こんな状況だが意外と自分が冷静なので一番最期の記憶を思い出しながら天井を見つめていると突然、数人のじいさんが上から覗き込んでくる…
「??????」
何言ってるのか全く解らない…
こういった状況なら既にチートで言葉が判るとか前もって女神様が色々と世話を焼いて能力をくれたり召喚の儀式をしたお姫様とかが祝福してくれる筈なんだけど…
そんな様子も無い。
全く無い…見えるのはじいさん'sだけ…
そう考えながら体を起こすと目の角にうつったのは今、正に部屋から追い払われんばかりにじいさん'sの一人に連れ出される女性の後ろ姿だった…
それを見送っていると、じいさん'sの一人が無造作に何かを渡して来た。
見るとイヤリングの様だが、これをつけろと言うのか…
まあ、これを食べろとかは無いとは思うが、デザインに大きな問題があると言うか…
「これは無いわ~…」
思わず呟く…
じいさん'sが怪訝な表情で見ている。
だがしかし、これを受け入れるにはかなりの度胸が必要だと思われる。
何故ってピンク色の大粒な宝石が填まったハート形のイヤリングだからだ…
状況的につけたら会話が出来る魔法とかが掛かってるアイテムだと思うが何でハート形なんだ?
40過ぎの小肥りしたオジサンにこれは無いだろ。
しかも悪目立ちするくらい大粒の宝石…
それでもつけなきゃ事態は変わらないので仕方なしに、この罰ゲームを遂行する…
「これでやっと話ができますな」
一番偉そうなじいさん'sの一人が話しかけてくるが視線が冷たい、他のじいさん'sも取って付けた笑顔で目だけが笑っていない…
待ちに待った勇者様に魔王とか敵対国の王を討ち取ってくれとかって雰囲気にも感じられない…
流石に脇役ポジションな自分でも、これは完全にアウトなルートに行ってるのは間違いなく判る…
「お主を喚んだのは他でもない…」
あぁ…こっちの事なんてお構い無しに話を続けてる…
「かつて勇者によって倒された魔王が死の間際に復活を予言してから500年…つまりは今年がその復活の年なのじゃ」
はっきり言って、だから何だって感じなのだが、とりあえず言いたい事は全部言わせてやろう…
だいたい流れからして魔王を倒してこいとか言い出すパターンだけど、どう安く見積もっても向こうに居た時と何も身体的に変わった様子も無い自分では魔王どころかスライムにも勝てそうに無い…って言うか下手したら、その辺を歩いてる農夫Aやら村人Bにだって撲殺される可能性が濃厚なのに強制イベント発生中なのは頂けない…
「儂らは先手を打って魔王が完全に復活する前に魔王を討ち滅ぼそうと勇…騎士団を派遣したのだが力及ばず討伐は叶わなかった…そこで、新たに召喚された、お主に我が教会に納められておる秘宝【封印の結晶球】を持って魔王を封印してきてほしいのじゃ」
「あ~…だいたい事情は飲み込めましたが、幾つか質問しても良いですか?」
これで質問は無しでさっさと行けとか言われたら面倒なんだけど必要な情報はなるべく貰いたい…
「何じゃ?」
とりあえず自分の演説が上手くいったと思っているのか問答無用で放り出される事は無かった。
「まず何故討伐が失敗だと判ったんですか?」
「簡単な事じゃよ魔王の居城までは、この国から数ヶ月で行ける距離、多少もたついても半年あれば到着出来るのじゃ、しかし討伐に向かってから2年経った今でも魔王の討伐成功の報が、もたらされないからじゃ」
あぁ…魔王城まで結構近いんだ…
「では次に私より前に何人、勇者を派遣したのですか?」
「ふ…いや1人じゃ…」
あら?騎士団って言い直さなかったよ他のじいさん'sも気がついて無いみたいだ…それに『ふ』とか『いや』とか言ってるし…
「最後に何で最初の討伐の時に秘宝とやらは持たせなかったんですか?それがあればもう終わってませんでしたかね?」
「それは…あぁ!!そうじゃ、あれじゃよ秘宝は召喚された勇者しか使えんのじゃよ」
あぁ…じいさん'sは基本的に嘘が下手なのは、良く判った…
とりあえず理解できたのは、予言された復活する魔王とやらに先走って勇者様を送り込んだは良いが音沙汰も無いと…
しかも1人目か2人目かは判らないがどちらかは、たぶんバックレたんだろう…流石に召喚した勇者が言うことを聞かずに何処かに行ってしまったとか世間体が悪くて言える訳が無い。
そうなると次は自分達の失敗は棚上げにして秘宝とやらを使って封印してお茶を濁そうとなった訳か…
「さて、隣の部屋にお主の旅に同行する者達を集めておるので、挨拶をしてくるが良い」
じいさん'sの行動は、所々粗がある。
いきなり妙なオジサンが入って来て今回召喚された勇者です、とか言っても唖然とされた後に爆笑されるか、怒られるに決まってるでしょ?そんな事も判らんのか!?
「いきなり一人で入って、こんにちは勇者です。って言っても誰も信じないでしょ?常識的に考えて、どなたか一人に間に立って貰わないと」
「常識的…そ、そうじゃな…ならばワシが一緒に行こう、他の者は後の準備を頼む」
結局、申し出たのは1番偉そうなじいさんだった…
って言うか他のじいさん's一言も喋って無いし…
まぁ良いか喋られても役にたつか判らんし、さっさと此処から出ていきたいし…
そう考えながらじいさん'sに示されたドアに向かって行く