15話 馬さんと出会った
「とりあえずこいつを倒さないと、考えるのはそれからだ!」
目の前のゴブリンに集中しなければ、まずは『サンダーボール』を打ち込む。雷魔法は麻痺を付与する事がある、今回も麻痺が発生しゴブリンの動きが一瞬止まる。スノーがゴブリンの顔めがけ『つつく』で突っ込む、その隙に『身体強化』を使い素早く接近し上段からの一撃を叩き込む。今の俺の力では敵を両断という訳にはいかないが、それでも致命傷を与えゴブリンを倒した。
「ちくしょう、なんだっていうんだ。」
近くで戦闘中のゴブリン達を観察すると、どうやら馬を囲んで攻撃を仕掛けているようだ。馬の足や身体にはいくつかの切り傷があり血が流れている、しかし馬は雷魔法が使えるようで激しい雷が辺りに発生する。
どうやら先ほどの音は馬の魔法だったようだ。かなりの威力だがやはり数の上でゴブリンが有利なのか、雷が当たれば一撃で死ぬが、その隙を疲れて片手剣で切りつけられている。
「どうするべきか、このままだとあの馬はやられてしまうぞ。」
俺は迷っていた、目の前で馬が死ぬのをただ見ているだけでいいのか、モンスター同士の争いだとそのまま見捨てるのか。俺は気が付けばゴブリンに向けてサンダーボルトを打ち込んでいた。
「ちくしょう、見て見ぬふりなんて出来る訳ないだろうが。」
なにより、その馬の美しい姿とモフモフへの渇望が俺を突き動かす。
残るゴブリンはあと5匹、これならギリギリいけるはずだ。『身体強化』を使い全力で馬に近寄る、一瞬警戒するような仕草を見せたがすぐにゴブリンへと体当たりを放つ。勢いのままに吹き飛ばされたゴブリンを切り捨て、振り向きざまに一番近くにいたゴブリンへ『サンダーアロー』を放つ。アロー系の方がボール系よりも速度と貫通力が高い、そこへスノーが『ウィンドアロー』で攻撃する。
あっという間に2匹を倒すと残った3匹は逃げて行った。馬は追おうとはしない、どうやら思ったよりも重症のようだ。
ウォーホースLv6
HP3/36
MP2/24
<スキル>
『体当たり』『踏みつけ』『身体強化』『雷魔法』
状態:野生
戦闘向きに進化したホース種。環境によって様々な力を持つ。
「待ってろ、すぐに回復してやる、だから噛むんじゃないぞ。」
鑑定すると瀕死の状態だった。一言声を掛けて近寄る、ジッとこちらを見ているが攻撃する気はないようだ。俺はまだ光魔法がLv5なのでヒールしか使えない。
「くそ、こんな事ならもっと光魔法のLvを上げておくんだった。」
光魔法Lv6になると『ハイヒール』という上位の回復魔法を覚える、そちらの方がより強い回復効果をもたらすのだ。とにかく目の前の馬を助ける為に全力で魔力を流していく、少しずつ傷が塞がっている。
どうにか最悪の事態は回避出来たようだ。『無限収納』からパンと水を取り出し、与えて見る。どうやら警戒は完全に解いてくれたみたいだ、おいしそうに食べている。
「お前がよければ俺と契約してくれないか?契約してくれれば安全な寝床とゴハンは保障するぞ、その代わり俺を乗せたり、モンスターと戦って貰うかもしれないけど、どうだい?」
俺は馬の首筋を優しく撫でながら問いかけた。一目見た時から真っ白な美しい姿に見惚れていたのだ、その手触りは素晴らしいの一言に尽きる。一瞬の間を置いて馬と感覚が繋がった事が理解出来た、これで契約は成立したみたいだ。
(人間よ、助けてくれた礼を言わせてくれ「ありがとう」。私の誇りに掛けて受けた恩は返す。よろしく頼む。)
「よろしくな、お前の名前はイクスだ、俺の名前はジン。これからよろしくな。」
(ジンか、うまいメシに期待しているぞ。とにかく今は休ませてくれ。)
「分かった。これから『帰還』を使うが驚かないでくれよ。今はゆっくり休んでくれ、また後で呼び出すよ。」
これでよし、帰還すると徐々に状態は回復していくはずだ。とにかく俺も疲れた、今日は家に帰ろう。暗くなる前にすこし急がないといけないな。
「スノー疲れてる所悪いんだが家に帰るまでもう少し頑張ってくれ。」
(大丈夫だよ~、家に帰ったらゴハン食べたい~。)
スノーは本当にかわいい、家に着いたらとっておきを出してやろう。帰る前にゴブリンの死体だけ収納して行くか、解体は今度にしよう。