7.白光
間が空いてしまいましたが、忘れられてなければ良いなって思ってます。
これまでと比べるとちょっと長いです。
△月〇日 晴れ
今日は午前中から『革命家』が暴れてた。
しかもしかも!あっちこっちに出て来て大変だったんだから。
でもでも大丈夫っ。僕たちが皆で協力してぜ~んぶやっつけたよ!
あ、それでね?今日出動した先である女の子と出会ったんだけど――
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「ねえ、君。 ここにいると危ないよっ?」
僕たちは今レヴォルドのソルジャーと戦っているんだけど、僕の戦闘区域に突然生体反応が出現したんだ。
今日の相手はあんまり強くなかったけど結構あっちこっちに現れてて、手分けして倒していってたから、僕と同く人の反応に気が付いてた他の皆と相談してから、僕が反応があった場所に向かうことになったの。丁度今いる場所の相手を倒し終わったところだったしね。(感知も動き出しも一番離れていたカマエルさんが一番早かったみたいなんだけど、組み合ってたソルジャーを文字通り放り投げて飛び出そうとした所をその先にいたハニエルさんに抑え込まれてたみたい・・・)
「・・・」
「ねえったら、早く離れないと!」
白いヘリコプター(前と後ろにプロペラがあるんだよ、格好良いでしょ?)に変形して向かった先には小さな女の子がいたんだ。陸くんよりもちょっと小さいくらいかな?白いワンピースの裾や肩口より少し短い髪の毛が僕のプロペラが起こす風ではためくままにしてる。(この子を見た時点でカマエルさんの積んでるセンサーの性能にちょっと何てコメントして良いか分からなくなったのは秘密・・・)
でもこの女の子、空から降りてくる僕に気が付いて目を向けて来てるのに僕の喋ってることに全く反応してくれないの。
もしかしてプロペラが回る音が大きくて聞こえないのかな?
「それだったら。 変形ー!」
――グルンッ ガション ウィン ガシャ!!!
ドォンッ
「・・・」
「ねぇ、ここは危ないから離れようっ? 僕が安全な所まで連れて行ってあげるから」
「?」
ロボットモードに戻ってから下に降りてもう一度話しかけたけど、それでもじーっとこっちを見るだけ・・・名前を呼ばれたらちゃんとお返事しないとダメってお姉ちゃんも陸くんも言ってたよっ。
って、そういえば僕まだこの女の子の名前知らないや。
これじゃ名前を呼べなくて返事もしてもらえないよ。
「あ・・・なあ・・・な、まぇ?」
「え。 あ、そうっ、そうそう! もしかして声に出ちゃってた・・・? ま、いっか。 じゃあじゃあ、早速君の名前を教えて! あ、僕はメタトロン。 見ての通りのロボットだよ」
僕が困っていたら、考えてたことが口から出ちゃってたみたいで女の子が自分を指差しながら僕が聞きたかったことを尋ね返してくれた。
だからちゃんと僕も自己紹介してから(ちょっと嘘付いちゃった)名前を聞いた―
「・・・?」
ん、だけど。
こてん、って首をかしげてて。このジェスチャーは、えっと。
「もしかして日本語分からないの?」
「?」
確かに「なまえ」って言ったみたいだったのに何故かまた頭にハテナマークを浮かべてる。
でも発音は怪しかったし『名前』っていう言葉を知ってたんじゃなくて単に僕が言ったことを頑張って復唱しただけに見えた。それによく見れば日本人にしてはハッキリとした顔立ちだよね、うん。
それならそれで良いんだけど、日本語も通じないし何か翻訳する為の道具みたいなのも持ってないみたいだし一人だけで日本に来てるってことはないよね?周りにはこの子の他の人の反応なんてないし・・・なんでこんなところに一人でいるのかな。
とにかく、意思疎通出来ないと困っちゃうしここは外国語でも話しかけてみよう。
「にーはぉ?」
「・・・」
「はぅあーゆぅ?」
「?」
「ぼん、じゅ~る?」
「??」
「・・・ぐーてんたくっ?」
「・・・?」
「ず、ずどらーすとう゛ぃちぇ?」
「・・・・・・」
「おんどぅるるらぎったんでぃーすか!?」
「???」
うぅ・・・色々試してみたけどどれも伝わっているとは思えないよ。
もっと他のとこから来たのかな?異世界語も通じなかったし、どうしよう・・・
「め、とととろん」
「っ?」
そんな風にどうしたら良いか分からなくてちょっとパニックになってたら、女の子がおもむろに手を上げて急に謎の単語を発したからちょっとだけびくっとした。
めとととろん?
え、ト〇ロ?
「えと、とろん・・・め?」
最初は僕の知らない言葉かなって思ったけど、これってもしかして僕の名前を言おうとしてるの?
「めが・・・とろん」
うん、凄く惜しいんだ。僕も変形するけど破壊大帝じゃないよ?
「めた・・・」
そこまではあってるよっ。あと半分、あと半分だよ!
「・・・るす?」
もう少し!お願いだからもう少しだけセイ〇ートロン星から離れて地球に戻ってきて!
「め、た・・・・・・」
そう、そこまでは良いの、そこからなの!
「びー」
地球には降りて来たしロボットだし人(?)格を司る核があるところまでは一致してるよ!
でも違うよ!
「めろん?」
離れたよ!地球から飛び出してないのに最初より離れちゃった気がするよ!?
「め・・・めたと、ろん」
「そうだよっ。 僕はメタトロンだよ! ちゃんと言えたね、えらいよっ」
とっても感動的なシーンだよねっ。
やっと正しい着地点に辿り着いたんだ。辺り一面に墜落して這いずり回った跡が散見してるけどそこは全力で目をつむることにするよ、うん。
女の子も間違えないで言えたことが嬉しいのかさっきまでの無表情から一転して良い笑顔になってる。
君が嬉しいと僕もうれし――
「って、そうじゃないよ! 違うよ僕の名前じゃなくて君の名前を聞きたいんだよっ?」
「?」
こ、これだけやってスタート地点から一歩も進めてないなんて・・・
仕方がないけど、無理やりにでも安全な所まで連れて行かなくちゃ。いつまでもこんな所で1~6マス目が『ふりだしにもどる』な双六で遊んでる場合じゃないからね。
「ごめんね、僕の言ってること分からないかもしれないけど、一緒に来てっ」
「・・・?」
分かっていないことを承知で手を差し出したら、女の子はさっきまでと同じ様に首をかしげながらもその小さな身体全体で抱かかえる様に僕の指に掴まってきた。
よし、チャンスだ!
「ちょっとだけ我慢しててね?」
「っ」
僕は女の子をもう片方の手も使ってそっと持ち上げると、急いでその場から離れる為に飛び上がる。飛んですぐに周りの景色の変化に気が付いたみたいで僕の手から「よいしょ」って顔を覗かせてた。(実際には言ってなかったけど、そっとアテレコしたらとってもしっくりきたんだもん)
「~~~っ」
上から見える景色が珍しいのか女の子は下を見てキャッキャッとはしゃいでたけど、ちょっとだけ遠くに目を向けると建物と建物のスキマから皆が戦っている様子が見えるんだよね・・・肉眼だったら見えない距離ではあるんだけど、そのまま下だけ見ててね?
そんなことを考えながらもう少し速度を上げようとしたんだけど――
ズドンッ
「ぐうっ!!?」
「っ!?」
突然背中に強い衝撃を受けて下に落ちた。
何とか女の子にはケガがない様に不時着することは出来たけど。
ま、マズイよ。これって・・・
「グルルルルルルルルルルルルル!」
「やっぱり・・・レヴォルドのソルジャー・・・!」
後ろを振り返ると後方に新手のソルジャーが出現していて、僕たちの方を睨んでいるみたいだった。
なんで「みたい」かって言うと、相手の目に当たる部分が完全に装甲で覆われてて見えないから。それでも睨まれてるっていうのが分かるくらいにズビシズビシと嫌な視線を感じるんだ。
人型のソルジャーで背中に砲塔みたいな2本の筒を担いでる。今のはこれで撃たれたんだと思う。今日会った中ではサイズが一番大きくて、僕の大きさだと相手の半分もない。
僕一人だと多分、勝てない。
「・・・」
そっと下を見れば、掌の中にいる女の子はさっきまでの笑顔が消えていて不安そうにじっと僕の目を見ていた。なんとか大型ビークルを呼んで合神出来れば良いんだけど、そこまでの隙は無さそう・・・うん、今はとにかくこの子の安全を考えなくちゃ。
「驚かせちゃってごめんね。 僕は後ろの恐~いおじさんとお話(肉体言語)してくるからここに隠、れて、て・・・・・・き、君もまさか脳筋語が通じたりしないよね・・・?」
「?」
既にダメージを受けてる上に少し不利な戦況に気合いを入れる為のちょっとした冗談のつもりだったんだけど、その中でこれまで思い付かなかった可能性に戦慄しちゃった・・・でも当の女の子は不安がナリをひそめて、今度はキョトンとしてまた首を傾けてた。
これ、「え、何言ってるの?」って幻聴すら聞こえてきそうなほどに分かりやすいリアクションだよね・・・本当に僕の言ってること分からないのかな?
え~い!それも後、後!
「すぐに迎えに来るから待っててね。 じゃあ、行ってきますっ」
「・・・」
小さくいってらっしゃいって聞こえた気もしたけど、気のせいかな。
「や~~~~~~~~っ!!」
女の子を建物の陰に降ろして、僕はこっちに向かって歩いて来てるソルジャーに体当たりを敢行した。
僕と相手とじゃ体格に大分差があるけど、それでも余裕を晒して構えも何も取ってない相手に全力で当たれば押し戻せるくらいの力はあるんだからっ。
「ぎぃいぃぃいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「ふふんっ・・・これでちょっとは距離を稼げたか・・・なっ!!?」
そう思って女の子がいる辺りを振り返ったんだけど・・・女の子がいた辺りにセフィロトが出現してた。
なんでこんなタイミングで、しかもあんな間の悪い所に出現してるのさ!!!
「しかも、あ・・・あの子の反応が消えた!?」
センサーを確認してももう誰も周辺に映ってない!
思わず名前を呼ぼうとしたけど、そういえば結局名前聞けなかったんだ・・・
僕のバカっ!!どうしてちゃんと名前を聞いておかなかったんだよ!
「グゥルルルルルルルルル!」
「っ! ま、どっちにしてもこのおじさんをセフィロトに近づけさせるわけにはいかないよねっ。 いっつもいっつもだけど今日は本当にタイミングも場所もセフィロトのバカヤロー! って感じだけど、守るものが同じ所にあるっていうのはある意味助かったと思わなきゃ、だね」
そう思わないとちょっと凹んじゃいそうだよ・・・いきなり守る対象が増えたんだもん。
しかもおじさん、セフィロトが出現した途端にそっちに意識を持って行って僕は無視する心積もりみたい。自分の方が上だって向こうも分かってるよね、これ。
でもそう、あの子の安全にセフィロトの出現そのものはあんまり関係ないのが幸いだよ、僕らやレヴォルド以外の人や物を透過しちゃうから。セフィロトの樹に生ってるセフィラも同じ。だから例えあの子が立っているその場所にセフィロトが出現していたとしても、薄いビニールで覆われた様に透過された周辺が見えるだけで。
もしかしたら突然そんなことになって混乱したり怯えちゃってる可能性もあるけど、中では普通に歩くことも出来るし、セフィロトの中を通り抜けることも出来る。
どうしてセンサーから女の子の反応が消えちゃったのかが分からないけど、早く目の前のおじさんを倒しちゃって迎えに行けば良いだけだよね!
「っていうわけだからおじさん、悪いけどここから先は通せんぼだよ。 ブレードカッター!」
両肩の裏側にあるプロペラ。そこから1枚ずつを両の手で抜き去り僕の特性『光』を纏わせる。
見た目はビームサー〇ルとかラ〇トセーバーみたいな二本の得物を構えてソルジャーの足元に狙いを定めたら、打つべし!
「せいやっ! はっ! とりゃー!!」
僕が勝つ為の条件は天使の誰かが駆けつけてくれること。そうすれば足止めしてもらっている間に僕が合神することも出来るし、逆に僕が足止めしている間に合神してもらうっていう手も使えるし。
そして負ける条件はソルジャーがセフィロトに辿り着いてしまうこと。元々この人(?)たちの目的はセフィラだし、もしあの子がセフィロトの近くにいたら巻き込まれるのは避けられない。
だからまずは相手の進行を止める為に、身長差を利用して足に攻撃を集中するの!
「はあっ!」
打つ!
「ぃやーー!」
打つ!!
「たぁああああっ!!!」
とにかく打ち続ける!!!
「ギャウゥゥゥウウウウウゥゥウウ!」
「ぅわっとっ」
ここまでしてやっとおじさんは僕の方に意識を戻してくれた。なんとか不意の一撃を避けたけど、今の鋭い爪は当たってたらちょっと危なかったよ。
対して相手側は大ダメージっていうには程遠いけど、ノーダメージではないってくらいにしか効いてない。
でもここで止まるわけにはいかないから。
「やあっ!!」
またひたすらに相手の下半身への攻撃を再開する。
合間合間におじさんの爪や脚が飛んでくるのはギリギリで回避して、攻撃の手を緩めない様にしながらひたすらに打つ、打つ、打つ!
カッターってくらいだから本当は切る為の武器なんだけど、切るってほど深く入らないから、そこは謙虚に。
打つ、打つ、避ける、打つ!掠める、打つ、打つ、打つ、打つ、避ける、打つ打つ打つ!!!
避ける、避ける、避ける打つ打つ!打つ!打つ!!打つ打つ掠める!打つ打つ避ける打つ!!!
打つ!打つ!打つ!打つ!!打つ!打つ!打つ!打つ!打つ!打つ!!!打つ!打つ!打つ!打つ!打つ!打つ!打つ!打つ!打つ!打つ!!!!打つ!避ける!打――
「つっ!」
「グルルルルルルルルルルっ!」
「かはっ・・・しまった!?」
爪を避けた後に僅かに狙いが高くなった打ち込みが、当たる寸前の所で相手の爪に絡め取られた。
しかも別のブレードカッターに持ち替えようとしてすぐに手を放したけど、もう片手で身体を抑え込まれちゃったし・・・!
「ギャギャギャギャギャギャギャギャっ!」
「ぐ、うあーーーーーーっ!!」
ちょ、ちょっとピンチ、かな・・・おじさん、握力も強いね。体中から軋む音が聞こえてくる・・・!
「く、ぬっ・・・ぐぐぐっ、ふんっ」
抜け出す為に体を動かそうとしてもまるでビクともしないっていうね・・・むしろ動かそうとする度に軋む音が酷くなってくる。
両肩に残ったブレードカッターが運良く掌に収まっていなかったから回転させてみたけど、相手の拳につっかえてまともに動かないし。これ、僕が持って振るってた方も爪じゃなくても止められてたよね・・・?
とか、ちょっと余計なことを考えていられる余裕はあったりして。だって、ピンチはピンチだけど。
「ググ、グッググググググググ・・・」
「ふふんっ。 だ、大分足に来てるんじゃない、おじさん? 歩くの、辛そうだ、よ・・・っ」
僕も負けないくらいに辛いけど、掴まるまでの乱打は確実におじさんの足にダメージを蓄積させてた。
その証拠に、僕の相手をする為に止めていた歩みを再開はしても、足を引きずってたから。
「これ、で・・・ちょっとは時間稼ぎになったよね・・・?」
って、油断してたのが神様にでもバレたのかな。
おじさんが足を止めるのと同時に何かを無理やり動かす様な音が聞こえてきた。
ガ、ガガガガガガガガガガガ
「え、何? 何の音!?」
「グルゥ・・・」
嫌な予感がして足元に向けていた目をおじさんの上半身の方に向けると・・・
「待て! 待って! やめて、何してるの!!!?」
「グルルルルルルルっ!」
最初に僕に向けて放たれたと思う砲塔がセフィロトに向いてた!
なんでっ!レヴォルドはセフィラが欲しいんじゃなかったの!?
どうしてそのセフィラが生るセフィロトを攻撃しようとしてるの!!?
ダメ、ダメダメダメ!まだそっちにはあの子がっ!!!
「グガアァァァアアアァァァアアアアアアっっっ!」
「やめ・・・お願い待ってやめろバカバカバカっバカや、めろバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカやめろやめろやめろバカやめろやめろやめろやめろやめろやめろーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
ゴオォォッ!!
目の前で、酷く耳障りな轟音がして・・・・・・・・・・・・
ドオオオォォォォォン!!!!
訪れた衝撃に、
攻撃が放たれてからいつ終わるとも知れない数瞬に囚われて、
ほんのちょっと会話とも言えない様な会話をしただけの、
女の子の、
感情が伺えない無表情とか、
僕の名前を言えて嬉しそうにしてた笑顔とか、
別れる寸前の首を傾げたトボケた顔とかが、
頭の中でぐるぐるしてて、
迎えに行くからって言ったのに、
僕は頭がおかしくなりそうで、
考えることを放棄して、
だけど
それでも
置いてきた女の子の姿が、
そこにあってと祈り願う様に、
振り向いて
「・・・・・・・・・・・・?」
そこで何か違和感を覚えた。
頭の中で何かが、おかしいって叫んでる。
酷く曖昧なのに、確かな感覚がして。
「グガ、グルルルルルルルル・・・」
ソルジャーのおじさんも何か警戒してる・・・?
背後には砲撃が命中した時に発生したであろう煙が立ち込めてるんだけど、それが少しずつ晴れていく。
すると煙の中から徐々に黒い物体が見えてきた。
それは大きな逆三角形で。
・・・って!
「あれはっ!」
風が吹いて、隠れていた逆三角形・・・じゃなくて、大きなカイトシールドとその後ろに控えている大きな黒い姿が露わになる。
「ルシフェルさ――」
「ツッコミが・・・・・・・・・・・・温い」
「――ん」
えー・・・
僕そのツッコミで撃ち落とされてるんですけどぉ・・・
しかも今の攻撃、僕が撃ち落とされた時より明らかに威力が上なんだけど・・・
「がはははははは! 遅くなってスマンかったの、メタ公っ!」
そうやって心の中で遣る瀬無さに打ちひしがれてたら、今度はすぐ左手から盛大な笑い声が聞こえてきた。
釣られてそちらを見ると、灰色の厳ついロボットが角張った長い得物を振り被ってて。
「え、ラジエルさんそれハ」
「ふんぬっ!!」
ドガンッッッ!!!
「ニぃえい!?」
僕がもしやと思ったことを聞き終えるその前に。
得物をソルジャーの腕に対して振り抜いてた。弾かれた衝撃でおじさんの手から零れた僕は当然お空に放り出されたワケで・・・って、僕砲撃のダメージのせいで上手く飛べないよ!?
思考も体も何も妨げるものなく頂点まで達したら後は無情にも重力に囚われるのみ――
「キャッチ、であります」
とはならなかった。
「ハニエルさん・・・」
「オーライ、オーライでありますよ」
ハニエルさんが操る『風』が中空で僕の身体を捉えてそっと降ろしてくれた。
無事、犬〇家回避。
「大丈夫でありますか、メタトロン?」
「う、うん。 ありがとう、僕は大丈夫・・・・・・なんだけどあれ、あの、ラジエルさんが棍棒みたいに振り回してるのって、ハニエルさんのゲイルシューターだよね? 良いの・・・?」
「・・・・・・既にここに来るまでに発射機構が潰されていたでありますから、用途のない無用の長物にしておくよりはマシであります」
そう、さっき僕がラジエルさんに聞こうとしてたのが、これ。
僕を解放してからも棍棒だかハンマーだかみたいにして相手をシバキ倒してる棒状の武器がハニエルさんの主武装によく似てるな~、って思って聞いてみたらまさかというかやっぱりというか、そのものだった。
ハニエルさん口ではギリギリ許容してる風に言ってるけど、絶対に納得してないよね?
声も体も震えてるよぉ・・・あ、でもそんなことより!
「そ、そんなこと・・・」
「あの! さっき見付けた女の子がセフィロトの樹の根元にいるんだっ。 どうしてか突然センサーから反応が消えちゃったんだけど・・・とにかく迎えに行ってあげないと!」
「それは反応が消えた事実も含めてこちらでも確認しているでありますよ。 レヴォルドの攻撃などを受けて生命が途絶してたのでもなければ、本来考えられないタイミングで消えているでありますからな。 あちらはラファエルが状況を確認しているでありますが、まだ見つかってはいない様であります」
「そっか・・・って、今なんか聞き流しちゃいけないレベルの暴言がなかった?」
「気のせいでありましょう? 自分は何もおかしなことは言っていないでありますよ」
「えー・・・でもぉ」
「まぁまぁ。 メタトロンもケガをしているのでありますし、今はラファエルに任せて待つであります」
「ほら、今言った! 絶対言ったよ!?」
しかもラファエルさんを差しているであろう箇所だけ酷い憎しみが籠ってたよ!?
ラファエルさんはいったい何をしたの!?
「あのラファエルが、何かに足を引っ掛けて転んだ時に自分やゲイルシューターを巻き込んで潰したのであります・・・。 しかもそれで合神時に結合部分となるパーツを奴自身の身体も含めて変な形に歪ませたせいで、自分とラジエルもザドキエルたちも合神出来ないのでありますよ!? あの大馬鹿者のせいでっ!!!」
「う、うん。 分かったから落ち着いてハニエルさん・・・」
何があったかは大変良く分かりました。
それでハニエルさんの逆鱗に触れたラファエルさんがハぶ・・・戦力外通告されて女の子を探す方に回ってくれてるってことだよね。
「だったら、僕はダメージは受けてるけど合神は出来るよっ。 任せてよ!」
「いや、その必要はないであります」
「え?」
「だぁりゃああああああああああああっ!!」
大きな声がした方を見るといつの間にかザドキエルさんも参戦して、肩に担いだクレーンをおじさんに巻きつけてグルグル振り回してた。
それ、どうするの?
「おっしゃ。 ワシの念動力で力ぁ貸しちゃるからカッ飛ばしたるんじゃ、ザーの字っ!」
「言われなくて、っも!」
気合いの入った「も」に合わせて振り上げられたクレーンのワイヤーがキレイにほどけて、ソルジャーのおじさんが高く空へと放り投げられた・・・って、だからどうするのそれ!?
「後は任せたぜっ!」
何を?って。
僕がそう聞く前に今度は空から声が響いてきて、
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
ソルジャーよりも更に高くに視線を上げれば。
「バクテンオー!」
真紅に染まった炎を身に纏う姿が見えて。
「天っ」
その炎が一ヶ所に収束していき。
「空っ」
やがて長く尾を引いた赤色が空へと放られたソルジャーと交錯する。
「拳えぇーーーーーーーーんっっっっ!!!!!」
その瞬間、
ゴオォォォォォォォォォォォンッ!
という激しい爆発音と共に、ソルジャーの身体は粉々に吹き飛んだ。
◆
「すみません、遅くなりました」
「ま、ギリギリセーフなんじゃねぇの?」
燃え盛る拳の一撃で敵を倒したのは、カマエルさんが巨大戦闘機と天空合神した鋼の巨人。
バクテンオー。
バクテンオーはカマエルさんの特性である『炎』をその身に纏って戦うんだ。
たまに炎の出力が高すぎて自分の身体まで壊しちゃって博士が涙目なのはご愛嬌・・・かな?多分。
「では、用事が済んだので私はこれで」
「ちょっと止まれコラ」
と、一言だけ言ってさっさと飛んで行こうとするバクテンオーに、ザドキエルさんがソルジャー相手にしたのと同じ様にクレーンを巻きつけて待ったをかけた。
ソルジャーが粉砕された後、無事にセフィロトもその姿を隠してたし、敵ももう出て来ないみたい。これで確かに用事は済んだかもしれないんだけど、そんなに急いでどこに行くの?
「何をするんですか放して下さい引き千切るか引きずりますよ」
「まぁ、マテ。 行くなとは言わないが、せめてメタトロンも運んでやれ。 飛翔機能の制御系にダメージ受けてるだろ、お前?」
「え、うん。 確かにそのせいで安全には飛べないけど・・・」
実は最初にソルジャーに飛びついた時も真っ直ぐ飛べたのに運の要素が無かったとは言わないよ?
もちろん僕だって真っ直ぐ飛ぶ様に頑張ったけど、失敗したら身体が相手から反れて僕だけさぁ、無限の彼方へっしてたかもしれない。
一か八かの賭けだったのは認めるよ。でも絶対に失敗なんてさせなかったし、例え反れたとしてもすぐに着地して走ってでも相手に跳びかかるつもりだったんだから。
「カマエルさんはバクテンオーのままでどこに行くつもりなの?」
「決まっているじゃないですか、そんなこと。 先ほどメタトロンが発見した女の子を探しに行きますっ」
あ、それなら僕も一緒に運んで欲しいな。
今の一幕が無ければ、そのまま走って行こうとしてたし。
女の子は皆が戦っている最中からずっとラファエルさんが探してくれてるし、ソルジャーの砲撃を受け止めた後はそれにルシフェルさんも加わってた。
今思えば、ソルジャーの砲撃の後に感じてた違和感の正体ってルシフェルさんの識別信号だったみたいなんだ・・・そんなことも分からないくらいに取り乱してたんだ、僕・・・
そのルシフェルさんは、ラファエルさんも一度調べてるはずのセフィロトの出現地点とその周囲を、ラファエルさんはそこからあのくらいの女の子の足で移動出来そうな範囲を。
目視や各種センサー、レーダーも駆使して探しているけど、まだ女の子の行方の足掛かりになりそうなものですら発見出来ていない。
・・・。
いや、別に僕は誰かが役立たずとは思ってないからね!?
だからハニエルさんは「その通り」って雄弁に語ってる視線を向けないでっ。
何がその通りなのか僕は分からないから!
よし。早くバクテンオーに連れて行ってもらおうそうしよう。
「それなら僕も一緒に連れて行って、お願いっ」
「分かりました。 共に少女の明日を守りましょうっ!」
「お、おー・・・」
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
――結局。
名前も分からないまま別れたあの女の子は見つからなかったんだ。
戦ってる最中に逃げてた人たちの誘導をザドキエルさんたちに任せて僕とバクテンオーも探したんだけど、メンテナンスもあったから死傷者がいないことだけは確認してから一旦倉庫に戻って。
どうしても諦め切れなかったから、戻った時に博士やラジエルさん、ハニエルさんにお願いして僕のメンテナンスを最初にしてもらってまた探しに行ったんだよ。
僕の身体に仮ボディを積んで戦闘区域まで戻ったら、仮ボディを降ろして地道に自分の足でも探したんだけどやっぱり見つからなかった。
この日から僕は、気が付くと視線をあちこちに飛ばして女の子を探してることが増えたと思うんだ。
って言うと、なんかカマエルさんが二人になったって言う人もいるんだけど、そうじゃなくって。
僕はあの時の女の子を探してるのっ。
いつかちゃんと名前を聞かなくちゃいけないから。
だって、今度は僕が名前を呼んであげる番なんだからっ!
◆
ちなみになんだけど。
不思議な出会いをしたその日。
女の子を見つける為に、皆に協力してもらうのと状況の整理が必要だって思って『家族会議メモ帳』を開いたら、そこには既にこんな内容が書き込まれてたんだけど・・・
『発案:カマエル、議題:レヴォルドとの戦闘中に不意に現れ、忽然と消えた少女について。似顔絵はメタトロンのメモリーから現像すれば良いですから不要ですよね。後はこれを使ってポスターを作りましょう。あ、そうしたら役割分担が必要ですよね。ここはまずポスター組と捜査組とに分けましょうか。ポスター組は当然メタトロンを中心にしてザドキエル、ルシフェルが妥当でしょうか。捜査組は私が中心になりますので残りのメンバーは協力して下さい。まずは捜査範囲と捜査方法を決めてしまいましょう。まずラジエルですが動物たちに少女の特徴を伝えて捜査に協力してもrrt(以下延々と件の少女の特徴とそこから感じられる魅力というものを事細かに記述』
今の僕、これと同じに見られてるってこと・・・?
ちょ、ちょっとだけ・・・
ほんのちょっとだけ探すの控えようかなって思っちゃうくらいは許して、欲しいんだ・・・
あんな半端に戦闘シーンなんて入れるつもりなかったのに・・・
そして例えシリアスっぽくなっても絶対に突き落とします(キリッ