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勇者天聖バクテンオー  作者: 獅子糖
とある一日
8/23

6.小さな天使

 吾輩は天使である。名前はもうある。

 ガブリエル、という。

 吾輩は人の手によって作られた、偽りの天使だ。

 吾輩たち天使はレヴォルドとの闘争(なわばりあらそい)の為にある。

 しかし吾輩は直接その戦いに参加することはほぼ、ない。

 吾輩は――


「あれ、ガブ? だよね? さっき帰らなかったっけ」


 (りく)の声が聞こえた。どうやら休み時間に入った様だ。

 声がした方を確認すれば、人気のない廊下の窓から身を乗り出してきている。

 弟は家の外では吾輩の事をガブと呼ぶ。

 吾輩は弟の声に返答した。


「わふっ(吾輩だ)」

「やっぱりガブだ。 バイクの格好のままで何してるの?」


 吾輩は今、陸の学校の裏手にある小さな雑木林に生える木の一つに寄りかかっている。

 吾輩は普段バイクという乗り物の形を取っている。今もそうだ。

 吾輩がここにいるのは弟の護衛をする為だ。仲間(てんし)たちは先ほどレヴォルドとの戦闘があり、今は順に身体の整備(けづくろい)をしている為、身動きが取れない。だから吾輩が弟の身辺を固めている。

 (そら)の方は・・・・・・ルシフェルの師匠とやらがいるので吾輩が出るまでも無い。


「ゎう(弟の護衛の為に戻ってきただけだ)」

「ん~ーー・・・。 ねえ、ガブ?」

「わふ?(なんだ?)」

「空姉ちゃんかハニエル辺りに何か言われたの?」

「っ!? ゎ、うぉん。 ばうっ!(な、何も言われてなどいないっ。 そんなことよりも、何も変わりはないかっ?)」

「え~・・・何か誤魔化してない? 怪しいよぉ~?」


 なんという勘繰りをするのだ弟っ。吾輩は吾輩に与えられた役目に忠実であろうとしているだけ―


「ま、言いたくないなら言わなくても良いけどさ」

「わぅぅ・・・(そもそもが、何も無いと言って・・・)」

「きっとボクなんかには話したくなんだよね、ガブは。 頼りない家族でごめんね・・・?」

「わ?!(なっ!?)」


 弟よ、そんな泣きそうな顔をするな!何故そうなるっ?

 弟が頼りないとかではない!だから泣くなっ!!


「わうっ、わ゛っふわう!(弟が気に病むことではない! 吾輩が姉にもう必要とされていないだけで!)」

「あ~。 原因は空姉ちゃんだったんだ」

「わ・・・(あ・・・)」


 先程までいつ涙がこぼれ落ちるか分からぬ程の悲しみの雰囲気を纏っていたというのに、今目の前にいる弟は難しそうな表情で「ん~?」だの「でもなあ・・・」だの(のたま)っている。

 は、謀られたのか・・・なんと狡猾な手を・・・!

 弟よ、弟はその様な手を使う人ではなかったはず!いったい何があったのだ!?

 吾輩のことよりこちらの方が優先順位が高い問題なのではないか!?


「ばふっ! わぅ、わぉ~~~ん!(弟よ、答えろ! いったい誰に習ったのだその姑息な手口を!)」

「ねえ、ガブ。 本当に空姉ちゃんがガブのこといらないって言ったの?」

「わぉ・・・(む、無視された・・・)」


 これは『家族会議メモ帳』に書いておかなくてはならない案件であろう・・・

 『発案:ガブリエル、議題:弟に泣き落とされた』

 よし。


「ほら、どうでも良いから薄情するのっ」

「わぅん・・・わふっ、わう(どうでも良くないぞっ・・・だが、泣かないでくれて本当に良かった)」


 ここでもし弟を泣かせでもしたら、カマエルや姉がどうなるか恐ろしい・・・もう吾輩のことなど不要である姉は吾輩を鉄くず(スクラップ)にするかもしれぬ・・・いや、そこは例え吾輩でなくても鉄くずか・・・。ぶるり。


「わぅ。 くぅ~ん(・・・仕方がないから話すがな、できれば他言無用で頼みたい)」


 天使たちはどうにも弟や姉に甘いというか、頼まれると断りきれない。

 吾輩もその例に漏れず、というのは自覚しているのだが・・・小さい頃から二人の事を知っているが故の身内贔屓というものなのだろうか。

 ・・・何か違う様な気もするが。


「良いけど、なんで?」

「わっふ、わう、うぉん(吾輩が役立たずなのは分かり切ったことだ。 他の天使の様に体が大きくも無ければ、戦う為の手段も殆ど持たない)」


 吾輩が戦いに参加しない理由が、これだ。

 他の仲間たちは大きな体と、戦う為の力をその身に宿している。

 これは吾輩が持つセフィラの欠片が他に比べて酷く小さいことに起因するのだが、吾輩は今のこの身体が本体である。変形しても他の者の仮ボディより僅かばかり大きいだけの、それも喰らい付き噛み砕く為の顎も牙も、切り裂く為の爪も持たぬ狼の形にしかならない。

 いったい吾輩が存在するのは何故なのか・・・これまでもよくよく考えることがあった。

 しかし・・・しかし何の解決策も見出せないまま今日という日を迎えてしまった。

 聞いてしまったのだ。姉が吾輩を不要だと言っていたのを。 

 だからと言って、このことを他の天使たちに知らせたいのかと言えば、それはない。

 姉にとって吾輩が不要でも、吾輩にとって姉がかけがえのない存在ということに変わりはない。


「くぅ~ん・・・(だから、な。 吾輩はもうあまり姉の前に姿を見せぬ方が良いと思った)」

「うん。 ガブが何を聞いてどう思ったかは分かったけど、本当に空姉ちゃんがそんなこと言ったの?」

「ゎうんっ。 わぅ~、くぅ~(ああ。 バイク雑誌を見ながら、今の吾輩がいらなくなったから新しいものを購入すると・・・)」

「うん? ちょっとそこ詳しく。 できれば空姉ちゃんが言ったままを教えてよ」


 姉が言ったまま?できれば吾輩もあまり思い出したくないのだが・・・


「わっふ(一度しか言わないぞ?)」

「うん、良いよ」

「わぅ・・・わふんっ。 ばう(『うん、今のバイクはいらない。 新しいバイクだけで良いでしょ。 え? そこまでは知らないよ。 自分で考えなさい』、と・・・)」

「・・・それ、さ。 空姉ちゃん一人でそんなこと言ってないよね? 他に誰かいなかった? 一人でその台詞を喋ってたんだったら、ボクはちょっと空姉ちゃんをお医者さんに連れて行く必要性も感じるんだけど・・・」

「わふっ(いや、いつもの二人もその場にいたが)」

「あ~・・・何か分かってきた・・・」


 何がだ?弟が腕を組んで何やらしきりに頷いているのだが、何が分かったのだ。

 一人で納得していないで吾輩にも教えて欲しい。


 と、そう訴えようとしたところで――


 リーンゴーン リーンゴーン・・・


「あ」

「わ(あ)」


 チャイムが鳴ってしまった。

 くっ、マズイ・・・このままでは弟が授業に遅れて怒られてしまうっ。


「わぉ~~~~ん!(変ーーーーー形(チェーーーーーンジ)!)」


 吾輩はバイクの身体を変形させていく。


 ―うぃんっ カシャンっ ガキッ ガキッ


「ばぅ! わぉんっ!?(弟よ、乗れ! どこに向かえば良い!?)」

「うん。 よいしょ。 え・・・と、理科室」

「ぅわん!(分かった!)」


 牙持たぬ偽りの狼へと変貌した吾輩は、弟が覗く窓際の横に着くとその背に陸を乗せ理科室の窓の元へ急ぐ。


「ね、ガブ。 授業が終わったらまたさっきのところで会える?」

「わぅ?(構わないが・・・何故だ?)」

「それはまた後で教える」

「わふん(分かった、また先ほどの場所で待っていよう)」


 それだけ話したところで理科室の窓の前に到着したが、途中で先生を追い越しているので吾輩も落ち着いて弟を降ろした。


「わふぅ(ではな、弟。 先程の場所で待っている)」

「うん、また後で」


 弟を降ろした吾輩は、もう少し安心ポイントを得ることにした。

 戻り際に先ほど追い越した先生(まだ理科室には着いていない)のすぐ側でわざと木を蹴り、大きな音を立てて離脱した。案の定何事かと窓を開けて確認し出した先生を後方に確認しつつ、弟と約束した場所へと戻った。

 安心ポイントは一気に10Pほど稼げただろう。


 ◆


 リーンゴーン リーンゴーン・・・


 バイクの形に戻って待つことしばしば。

 チャイムが鳴ったとほぼ同時に、弟がやってきた。

 ・・・む?行きと違う方向から来てないか?


「良かった。 ちゃんと待っててくれた」

「わふんっ(待つも何も、吾輩は弟の護衛の為にここにいるのだ)」

「まだ言う。 ま、良いけどさ」


 何か、弟から少し嫌な気配がする・・・

 弟は笑っているのだが、その目はまるで姉を想起させる様なイタズラを思いついた様な雰囲気が見え隠れしている。

 ・・・弟よ。本当に今日はどうしたというのだ?


「フッフ~。 さっき、空姉ちゃんに聞いてきたよ。 バイクの話」


 思わず、身体が跳ねた。

 どうやって、とか。何故とか。そういう疑問が浮かんではいるのだが、吾輩に先んじて弟は答えてくれた。


「さっきの授業、途中でお腹が痛いって言って保健室に行ってたんだ。 それで空姉ちゃんの休み時間に合わせてヨルムンガンド(つうしんき)でちょっと聞いてみた」

「わ・・・(な・・・)」


 ヨルムンガンドが巻かれた腕を構えてこともなげに言ってのける弟に、吾輩は絶句した。

 弟はわざわざ時間を見て姉の授業が終わるタイミングで教室を抜け出して姉に連絡を取り、先ほど吾輩が語ったことの確認を取ったということだ。


「やっぱり思った通りだったよ。 単なるガブの早とちりっ」

「ゎ、わぅ?(そ、それはいったい・・・?)」

「あれ、優梨さんのバイクの話だったんだって。 今までお下がりでもらったバイクに乗ってたらしいんだけど、あちこちにガタがきてるから修理にお金かけるくらいなら新しいの買おうかな、って話してたらしいよ? それで古いの直そうかどうしようか、って話になってたみたいで。 ガブが聞いたのは丁度その話をしてるところだったみたい」


 なんという・・・普段であれば授業をサボるなど考え付かぬ程に真面目な弟が、吾輩の為に授業を抜け出してまで真偽を確かめてきてくれたのだという。


「ほら、固まってないで。 良かったよね、勘違いで?」

「わぅ・・・わんっ(礼を言う・・・ありがとう)」


 そんな風に笑いかけながら吾輩を撫でてくれる弟を、こんなだから吾輩たちは弟たちに甘くなっていくのだと思いながら見る。

 ありがとう、弟よ。吾輩は弟たちと家族になれて良かっ


「あ、そうそう。 空姉ちゃんから伝言なんだけど」

「?」

「『陸の授業のことでちょっと話がある。 帰ったら”二人でお話し”をしよう』だって」


 あ、吾輩、鉄くず・・・

姉と弟の持っている通信機は同じものです。

ちょっとまじめな話?になっていますけど、基本はギャグ路線のつもりです。

※ガブリエルの()内の言葉は陸が腕に付けている通信機から音が出ているイメージです。って書くのをすっかり忘れてた・・・

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