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勇者天聖バクテンオー  作者: 獅子糖
とある一日
3/23

2.天城家の侍かぶれ

語り部はその時々で移っていきます。

※2015/09/25 人の容姿について描写追加。どんな見た目かまったく情報がなかったでござる・・・。+逃走劇(笑)の描写もちょっとだけ追加。

 はてさて拙者はカマエル殿、ザドキエル殿と別れて陸殿を迎えに行くでござる。

 迎えに行くとは申してもこのまま向かったのでは拙者の身体が邪魔になって陸殿やそのご学友に迷惑をかけてしまうでござるから、昔から使っている仮ボディにて赴くでござるよ。


 申し遅れたでござる。拙者の名はラファエル、今は黄色いタンクローリーの姿をしているでござるが変形してロボットになるでござる。趣味は時代劇を見ることで、好きなものは侍でござる。日夜異世界からの侵略者、『革命家』と戦っているでござる。


「ルシフェル殿はどうされるでござるか?」

「・・・・・・・・・師匠の所へ」

「そうでござるか、相も変わらず熱心でござるな。 陸殿の方は拙者に任せ存分に頑張ってくだされ」

「・・・」


 ライトの点灯で返事を返されるルシフェル殿は相変わらず言葉少なでござる。

 ところで陸殿のお迎えはその時々で手が空いている者が行くでござるが、基本は別の仲間―大体は緑でござる―が行くことが多いのでござるよ。が、今日はその者が別の用事を申し付かっている故拙者が代わりに、といういうわけなのでござる。

 代打は多くの場合が拙者かザドキエル殿でござるよ。

 そういう事情もあり、あまりお迎えに出向かないルシフェル殿も偶には如何かと誘ってはみたものの先約があった様でござる。


 ルシフェル殿のお師匠となると我が家(この倉庫ではござらんよ?)のお隣さんたる、海藤光留(かいどうひかる)殿の所にござるな。

 この方もルシフェル殿に負けず劣らず無口な方なのでござるが・・・信じ難いことにレヴォルドのソルジャーと戦闘経験があるでござる。しかも決定打こそ与えられなくとも、相手を圧倒していたでござるよ・・・ソルジャーのサイズは往々にして拙者たちが単体で変形した時よりも大きな巨体と言えばその異常さが分かろうもの・・・どうやって戦っていたのか未だに謎でござる・・・

 しかしそんな些事など知ったことか言わんばかりに、ルシフェル殿は別の面で光留殿の才能に感銘を受け、師事しているでござる。

 先ほどカマエル殿に見舞った「ツッコミ」。あれこそが光留殿の下へ通いルシフェル殿が会得した特殊特技(スキル)の一端なのでござる。ルシフェル殿は己の技能(ツッコミ)はまだまだ師に及ばぬと、日々精進を重ねている最中なのでござる。

 うむ。勤勉でござるな。


「ユニット:サムライ、起動でござる」

「・・・ユニット:ゴウケン。 起動」


 拙者たちからの要請に応じて、我が家の方に安置されている仮ボディ(ずっとそう呼んでござるから、他の呼び方だとしっくり来ぬでござる)の入った格納箱(ケース)に光が灯り、蓋が開いていくでござる。

 当然ながらルシフェル殿もこの格好(ほんたい)のままでは光留殿の家には入れぬでござるから、共に仮ボディを起動してそちらにて赴くでござる。


「ボディチェック・・・・・・破損無し、各駆動系問題無し、でござる」


 各種確認をしている間に徐々に格納箱が持ち上がっていき、最終的に起立の状態までになるでござる。


「メインカメラ・・・オーケイ。 ・・・・・・稼働、開始」


 最後に格好良く(ここ、重要でござる)目が輝き出したら準備は完了、本体から意識のみを仮ボディに飛ばし、こちらを自身の身体として動かすのでござる。


「それでは、また後程にござるよ」

「・・・(こくり)」


 仮ボディの起動が終わった拙者たちは倉庫で別れ、それぞれの目的地に向かって歩き出したのでござる。



 あ、戸締りしないとでござる。


  ◆


「やはり袴は良いものでござるな。 こう、気持ちが引き締まるようでござる。 本体にも付けてはもらえぬでござろうか・・・」


 家の前でルシフェル殿と別れた拙者は一路、陸殿の通う学校へと歩を進めているでござるが、今動かしているこの仮ボディ―名称を「サムライ」と申す―は稼働当初より様々な改造がされてきたのでござる。

 拙者たちの仮ボディのベースとなっているのは皆一般的なお手伝い用のロボットなのでござるが、それぞれが求めるものを追及してしまったが故に原型とも本体とも差が激しいのでござる。

 かく言う拙者も、本体の変形後の形は普通にロボットロボットした見た目でござるが、このサムライはその名に恥じぬよう、マゲも袴も完備しているでござる!どうでござる?格好良いでござろう!?

 この様な感じでほぼ全員が拙者と同じ様に好き勝手にその容姿をいじっているせいで、姿形から仮ボディと本体とが結びつくのは一人くらいではないかと思うでござる。実際に拙者もそれぞれの中身(せいかく)を知らなければ一人以外結び付けられなかったでござる。

 あ、原型が想像できるものなど一人もおらぬでござるよ?ルシフェル殿など腕部が大きい上に異常なまでに攻撃力高そうな見た目をしているのでござるが・・・いったい何を目的としてその様な容姿にしたのでござろうか。本体の変形後は巨大なカイトシールドを持って防御重視にござろう?その暴力的とさえ見える攻撃偏重の巨腕は陸殿たちをお守りする為でござるよね?決してツッコミの威力向上の為などではござらぬよね・・・?


「うむ! ここは博士殿にもう一度直談判して袴をつけ―」

「あれ、ラファ・・・じゃないや。 サムライ?」


 拙者が思いの丈をぶつける(やぼうをかなえる)決心を付けたところで目の前から不意に声がかかったでござる。


「おぉ、陸殿。 おかえりなさいでござる」

「ただいま・・・って言うにはちょっと早い気もするけど。 うん、ただいま」

「こんにちは」


 思ったより歩いていたでござるね。いつのまにやら陸殿の学校のすぐ近くまで来ていたみたいでござる。

 目の前には仮ボディ―サムライは192cmでござるよ―から見ても小さい(本体と比べれば尚小さい)男の子と女の子がいたでござる。

 男の子の方は短い髪の毛で、大きな目(博士から遺伝でつり上がり気味でござるが)、この肌寒さもなんのそのと言わんばかりの短パンルックにござる。こちらが陸殿でござるよ。元気で素直な良い子でござる。

 ・・・・・・あの環境でよく真っ直ぐに育ったでござるな・・・拙者、こうして家庭環境を顧みる度に陸殿の素直さに感無量でござるよ・・・!

 物心ついたころには両親はあちらこちらを飛び回って不在、保護者の祖父は頭のおかしなマッドサイエンティスト(周りから見て)、我が家を牛耳る姉に謎のロボット軍団((ロリコン)(どくでんぱ)(せっしゃ)(むくち)(なちゅらりすと?)(ぐんじん)(いぬ)(ボクっこ))・・・改めて言葉にすると中々に混沌とした環境にござるな・・・


「こんにちはでござる、莉愛(りあ)殿」


 そしてもう一人、女の子の方は長い髪の毛を頭の高い位置で二つに括っており、少しタレ目の優しい雰囲気の目元には小さな泣きボクロ、ちょっとしたドレスのようなワンピースを着ているでござる。こちらは神戸(かんど)莉愛殿。少し前に引っ越してきた陸殿のクラスメイトの子でござるよ。

 帰り道が途中まで同じだそうで、よく陸殿と帰っていて拙者も何度か会っているでござる。

 ・・・余談でござるが、カマエル殿が整備を放り出そうとして発生した接触事故(ツッコミ)はこの子を見たいが故だったと思うでござる。いや、間違いないでござる。揺るぎない信頼と実績(ロリコン)でござるね。


「今日はアームズはどうしたの?」


 アームズというのがいつも陸殿を迎えに来る緑の仮ボディの名称にござる。


「どうやら空殿が忘れ物をしたようなので、急いで届けに行っているでござる。 珍しいこともあるものでござるね」

「珍しいかなあ? 空姉ちゃん結構、おっちょこちょいだよ」

「お、おっちょこちょいってあんまり聞かないね・・・」


 陸殿の語彙は主に博士と陸殿の姉である天城空殿、そして拙者たちから培われたもの(コミニュケーション能力というか言語能力というかが崩壊していても不思議でござらんな・・・)でござるが、こういう今日ではあまり耳にしない言葉を遣うのは博士の影響が大きいのでござろう。

 まさに博士がそういう喋り方をするのでござるよ。意味が通じるのであれば良いでござるが、もしこれを理由に陸殿がいじめられでもしたら大問題でござる!

 これは次の家族会議の議題に取り上げた方が良いかもしれぬでござるな。早速皆で共有している『家族会議メモ帳』に書き込んでおくでござるよ。


『発案:ラファエル、議題:昨今の若者言葉について』


 うむうむ。これで良し、でござる。


「あ、そ・・・それでね、陸く」

「サムライ? 何で一人でそんな大きく頷いてるの・・・?」

「気にしなくて良いでござる。 陸殿は大船に乗った気でいればそれで良いのでござる」

「だからどういう」

「ジョリーロジャーの掲げられたおっきな木造船を用意するでござるからな」

「いや明らかに海賊船だし・・・」

「む? 海賊が来ても平気でござる。 拙者が船ごと切って捨てるでござるよ!」

「「それ自分の船切っちゃってるから!?」」


 ふむ?陸殿に莉愛殿まで何をそんなに声を大にしてまで訴えているのでござろう?

 海賊など拙者らが居ればそんなに心配する必要はないでござるよ、二人とも。当然、自分の船は切っちゃったりしないでござるよ。


「というわけで二人とも安心するでござる」

「「何が『というわけ』なの!?」」

「はっはっは、二人とも仲が良いでござるな。 仲良きことは美しきかな、でござるよ」

「「・・・」」


 むむ、二人とも顔色が優れない様でござるな。陸殿はどこかどんよりしているでござるし、莉愛殿は・・・莉愛殿は何故その様に苦虫を噛み潰してもまだ噛み足りぬ、みたいな顔をしているのでござるか?

 これは相当に体調が良くないのではなかろうか・・・・・・はっ!こ、こここれは所謂!あの女の子特有の、その、口にするのは憚られる月周期で訪れる『アレ』というものではござらぬか!?


「り、りりりりっり莉愛殿ぉ!!!」

「え、ひゃい!?」

「こ、ここおおこおーーーー! これは拙者の口からは酷く申し上げにくいのでござるが!」

「な、ななな何か?」


 莉愛殿も徐々に顔色が悪くなっている様でござる。さっきまでの顔はやせ我慢をしているが故の苦み走った表情だったのでは・・・とするとそれすらも超えてしまった今の状況は早急に医者か薬が必要なのでは!?


「少し耳をお貸し頂きたいのでござるが・・・っ」

「・・・い、良いですよ」

「では失礼して・・・ごにょごにょごにょにょにょにょごにょご(非常にデリカシーに関わる案件となる為、要割愛)」

「なっ!? ~~~~~っ!!!」

「え、ど、どうしたの莉愛ちゃん?」

「ぉ」

「「お?」」

「覚えてなさいよ、この変態ロボットぉ~~~~~~!!!」


 拙者の言葉で今度は真っ赤になって走り去ってしまったでござる。やはり異性(少なくとも同性ではござらんよね?)からこういった話題に触れられるのは恥ずかしいものなのでござるね。でもその称号は残念ながらカマエル殿のものにござる。拙者は寿んで辞退させてもらうでござるよ。

 でもあんなに走って、体調は大丈夫でござろうか?物凄い速度で走って行ってるでござるよ。ワンピースの裾がまくれているでござるが・・・ちゃんと下にショートパンツを着ていられるでござるね。安心でご、今スクーターを抜かしたでござる・・・あ、赤信号危ないでござっ・・・おぉ見事に車の屋根を伝って向こう岸に着地したでござるよ。

 そんな姿が見えなくなるまで見送っていると、下から何やら強い視線を感じたでござる。


「じ~~~~」


 ・・・陸殿が拙者をもの申した気に半眼で見つめていたでござる。


「・・・ラファエル、莉愛ちゃんに何言ったの?」


 実際にもの申されたでござるっ。


「そ、それは・・・」

「それは?」

「乙女の秘密でござる!」

「何さそれ!? ラファエルは女の子じゃないでしょ!」


 う、嘘は申してござらん!莉愛殿(おとめ)の秘密でござる!

 それにこれは・・・これは拙者の口からは陸殿には聞かせらぬでござるよっ。もしやすれば学校で習っている可能性もあるにはあるでござるが。でも本人がいる前で・・・いや、いなくてもそれを直接伝えるには、拙者の子育て経験(レベル)は不足も良いところでござる!


「て、撤退にござるぅ~~~~!」

「あ、逃げた!? 待てーーっ」


 援軍は!? どうしてこういう時にこそいて欲しい緑がいないのでござるか~~~!?

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