1.世界と天使にまつわる諸事情
まだ説明が続く感じです。
「ま、だからって24時間365日なんて戦い続けてられないから」
とある昼下がり。背が高い倉庫の様な建物が鎮座する広い敷地。その倉庫(の様な建物)の前に一台の蒼いクレーン車と、赤い自動車が停まっていた。どちらの車体にも普通の車両には見られない不思議な模様や装飾がある。
が、痛車ではない。断じてない。
「どうかしましたか?」
「いんや。 どうにも一言言ってやらなきゃいけない気がした」
車の中、建物の周辺、敷地全体、そのどこにも人の姿は見えない。
「・・・何かの病気ですか」
「いや、そうじゃない、俺のアンテナが電波をキャッチしたんだよ。 ツッコめ、というな」
「やっぱり病気じゃないですか・・・」
しかし話し声は途切れる事無く続いていて、一方の発言にもう一方が心底呆れた様な反応を返している。
「俺たちでも病気なんてかかるのかね?」
「どうでしょうか。 少なくとも記憶にある限りは病気に該当する症状を自覚したことはありませんね」
「・・・・・・・・・そーだな」
「なんですかその間は」
あ、ちなみにこの話し声ってのは俺たちの声なんだけどな。
今俺たちが何処にいるのかというと、出だしで説明した倉庫のある敷地だ。確かに人の姿は見えないが、俺たちは今ここにいる。
「少なくともお前はびょーきだろうよ」
「む、それはどういう意味ですか。 私は何も患ってなんかいませんよ」
「自覚症状が無いのが一番性質悪ぃよ」
「罹ってもいないのに自覚なんて出来るはずないじゃないですか」
「・・・最近、あそこの幼稚園も定員がいっぱいいっぱいで受け入れられないって園長先生が悩んでたな」
「なんとも悲しいことですよね。 小さき者はまさに人類の宝物だというのに! 何故人類は・・・いえ、生きとし生けるものはこの小さな奇跡を崇め愛でないのでしょうか、永遠の不思議です」
「・・・・・・そろそろ陸が帰ってくる時間だな。 そういえば最近クラスの女の子と途中まで一緒に帰ってきてるみたいだな」
「なんですってっ!? どうして陸はそのことを教えてくれないのですか!! これは今から迎えに行きその御姿をこの目に収めてこなければ―」
「黙れ変態っ!!!」
さて、もう大体お察しかとは思うがここで自己紹介といこうか。
俺の名前はザドキエル。倉庫の近くに停まっている蒼いクレーン車が俺だ。形はラフテレーンクレーンっていうタイプのクレーン車が近いかな。迫力の重厚ボディが自慢だぜ。
そして赤い変た・・・ゲフンゲフン。もとい、自動車の方がカマエル。形状はスポーツカー的な何か(いや、だって基本的な形くらいしか共通項が見当たらないし)。見た目だけならスマートでイカしてる。見た目だけなら、な。
そう、俺たちは人間じゃない。とは言っても、見た目通りの乗り物でもないぜ。
俺たちは変形合体しちゃう巨大ロボットなんだぜ。(間違いなく)名前のせいだろうが、周りからは『天使』って呼ばれてたりもする。どうだ、カッコイイだろ?・・・カッコイイよな?
・・・と、まあ。なんで俺たちみたいなのがいるかっていうと、俺たちの生みの親である人物の事も含めて説明せにゃならない。
「おい、カマエル、ザドキエル。 お主らの番じゃ、入って来い」
お、噂(?)をすれば何とやら。倉庫の扉を開きながら白い髭と後ろで括った白い長髪が特徴のガタイが良いジイさんが外に出てきた。
「はい。 今行きます」
「うぃ~」
この人こそが俺たちの生みの親、天城博。俺たちの出生を語る上でこの博士―俺たちは博士って呼んでいる―を外すことは出来ない。
俺たちの開発者なんだから当然だろって?
それはその通りなんだけど、そうじゃない。博士のとある体験が、俺たちが生まれた理由に大きく関わってくるんだ。
俺たちの核として使われている天動機関(命名博士)は永久機関と言っても過言ではない程の力を秘めている。あと、これは聞いた話だが、俺たちの意識、自我っていうのもこの天動機関から生まれたらしい。自分じゃ自覚できないから、らしいとしか言えないがな。
んで、何年か前(博士が正確に覚えていない。俺たちの開発期間にも関係あるってのに、科学者としてどうなんだ・・・)の冬に博士が夜道を歩いていると、前方から淡く光る女性が歩いてきたそうだ。・・・人が光ってる時点で怪しさ暴発してるが、博士はこの時酔っていたそうで不思議に思わなかったんだと。
そしたらこの怪しい(仲間内だと殆ど満場一致での評価)女性が博士の目の前で突然崩れた落ちた。博士は何かと突飛な発想と言動で変人に見られがちだが、一般的な良識は持ち合わせた筋肉だから放っておけなかったんだろうな。女性が倒れる寸でのところで受け止め(流石は筋肉)呼びかけても反応が無いのを見ると、既に目と鼻の先にあった当時の研究室まで担いで行った。
・・・そこは病院行けよ。とは思ったが、聞けば時間も時間だし、その時は連絡の手段もなかったしで、なら病院に連絡を入れるにもまずは研究室に行くのが早いと判断したそうだ。
研究室の仮眠用ベッドに女性を寝かせ、いざ鎌倉・・・じゃなく病院に連絡しようとしたところでそいつは目を覚ました。
女は自分が異世界の人間だと名乗り、自分のいた世界―これがどうも『革命家』が来た世界らしい―のセフィラについてを語った。それによるとこちらで『革命家』と名乗る集団は元はとある国の特殊作戦部隊だったそうなのだが、何の偶然かこの集団が自分たちの世界のセフィラを見つけ、手中に収めてしまったのだと。これによりまずこいつらの所属していた国が消滅したそうだ。これが別に国家反逆を企てて、とかではなく、単純にセフィラの力が破壊をもたらしたというのだから驚きだよ。
だが、さもありなん。セフィラが初めてこちらの世界で姿を現した・・・俺たちと『革命家』との初戦闘のときなんて、連中の戦闘員がセフィラに触れただけで地面が割れたもんな。
ここで自分たちの国が無くなったことに恐怖なりなんなりしてくれていれば良かったものを、自国の崩壊を目にした奴らはセフィラを得た自分たちこそは選ばれた者だという選民思想を爆発させ、『革命家』という組織を設立するとその力を利用して次々に周辺国家を滅ぼしていったそうだ。吸収したり支配したりでなくて滅ぼしてって辺りが奴ららしい。
挙句、力に魅入られた『革命家』は最初のセフィラに引かれる様に地上に姿を現す様になったセフィラを片っ端から狩りつくした。結果、その世界は見る間に力を失っていき、ついには荒廃してしまったと。
そういった内容を話した女は『革命家』が自分たちの世界を壊滅させただけでは飽き足らず、セフィラの力を用いて他の世界・・・この世界に渡りこちらのセフィラまでもを手中に収めようとしていることを知り、奴らが手に入れたセフィラの欠片を奪ってこの世界に警告と力を託す為にここに来た、と。
その託された力ってーのが、俺らの動力たる天動機関の一部に使われているわけだ。
長々と語ったが、要するに博士が託された異世界のセフィラの欠片が俺たちに使われていて、俺たちはいずれこの世界に来るであろう連中に対抗するべく生まれたってことよ。
さっきも言ったけど、博士にセフィラを渡した女は怪しい所がいくつもある。先の話に加え、博士にセフィラを渡した途端に体の光が一層強くなり、光が収まったときには女も消えていたというが、それも怪しい点だ。自分の言いたいことだけ言ってやりたいことだけやったらトンズラなんて、行動原理がこちらに現れた時の『革命家』と同じでいやがる。語った内容が本当かも確かめようがないしな。
それでも実際に件の『革命家』はこちらの世界に現れ、セフィロトにセフィラも出現、それが大きな力を秘めていることもある程度は証明された。付け加えれば『革命家』も結局はセフィラを手に入れる為に大暴れして、こちらの人間を巻き込みまくっている。
博士が助けた女が何者なのか知らないが、放っておくと『革命家』がセフィラを手にして禄でもないことになるのは目に見えてるんだ。少なくとも俺は俺の周りの人たちのことが大切だからな。その人たちを守るために戦い続けるつもりだ。
っていうかついさっきまで戦ってたしな。
俺とカマエルは戦闘後のボディチェックの順番待ちをしていたわけだが、博士が呼びに来たって事は前二人の整備は終わったか。
そう思いカマエルと並んで倉庫の中に入ると、入り口のすぐ右脇に俺たちの前に入っていた二台の乗り物がこちらを向いて控えているのを見つけた。
「ラファ、ルー。 早かったけど、異状は無しか?」
「うむ。 内部へはダメージも通っておらぬし、ボディパーツの交換のみで万事良好、ばっちりでござる」
「・・・」
そうして問いかけると、黄色と黒の車体からそれぞれの反応が返ってくる。
俺もカマエルと比べればデカイが、二人はそれ以上にデカイ。ま、車種を考えれば当然かね。
ござる口調の方は黄色いタンクローリーのラファエル。時代劇が好きでこんな喋り方になっちまってる。悪いやつじゃないんだが、武士に憧れているのに言動はうっかり八○衛、というちょっと残念な感じのやつだ・・・
そんで、黒い大型のトラックがルシフェル。後部の荷台には屋根が無く背の高い仕切りで囲まれてる、一見ダンプタイプに見えるかもしれないが騙されることなかれ。こいつの荷台は持ち上がらない・・・あと結構無口なやつだな。今も口では返答せずにヘッドライトを光らせることで俺の問いかけに答えていた。
「そしたらこの後は解散か。 これから何か予定でもあるのか?」
「拙者は陸殿を迎えに行ってくるでござ―」
「陸は私が迎えに行きますからラファエルはどうぞ休んでいてくださ」
バコンッ
「いがっ!」
「・・・・・・」
ラファの台詞を喰い気味でまたぞろ余計な事を言いながら急激なUターンを始めたカマエルだったが、ルーが無言でその扉を打ちつけたことによって台詞も旋回も道半ばで阻まれた。
ルーはこうして無言で淡々と実力行使をする。言動共にアクの強いメンバーの中では貴重な戦力だ。
「んじゃ、陸は任せたぜラファ」
「了解したでござる」
もう何度も繰り返されて見慣れた光景である為、俺もラファも何事も無かったかの様に会話に戻った。ちなみに、赤黒双方この程度の攻防で傷付くほどやわな造りはしていないので特に心配もしていない。
そうそう、さっきから会話に時折顔を出している陸についても触れておこうか。フルネームは天城陸といって、博士の孫だ。俺たちに自我が芽生えてからまだそう経っていない頃に生まれたんだが、この頃はまだ人間サイズの仮ボディしか出来上がっていなかったこともあって、俺たちは・・・少なくとも俺は陸を本当の弟の様に思っている。や、他のやつらも同じ様に思ってる可能性は高いが、何人か本当はどう思っているのか想像つかないとこが・・・主に目の前の赤色。
・・・ウソみたいだろ。リーダーなんだぜ、これで・・・・・・
「阿呆なことしとらんで早ぉ来んかい」
「今行くよ」
本体に傷こそ無いものの、衝撃によるダメージで気を失っているカマエルを自前のクレーンにひっかけて奥に引きずって行く。
これから俺たちの整備が始まるから、カマエルが気を失ってくれたのは丁度良かったな、こりゃ。
んじゃ、なんか小難しい話をしたが、俺はこれから一眠りさせてもらうぜ。
「ふ、フフフフフフ・・・・・・そんな、陸・・・そんなサービスを・・・フフ」
うん、マジで一刻も早く眠らせてくれ。