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勇者天聖バクテンオー  作者: 獅子糖
朝の風景
12/23

10.姉の送迎をした日のこと

 吾輩はこの日、姉を乗せて走っていた。


 姉が忘れ物を取りに戻って来たところで毎朝のイベント(カマエルのぼうそう)に巻き込まれ、気が付いたときには普通に走ったのでは間に合わない程の時間となっていた。

 普段であれば使わない手ではあるが、まさか吾輩(てんし)たちの阿呆みたいな(いさか)いが原因で遅刻だなど、目も当てられない。というか、許されない。

 というハニエルの号令(つるのひとこえ)の元、吾輩が適当な所まで姉を送り届けることとなったわけである。


「わうんっ(姉よ、今日は免許証は持っているのか?)」

「持ってる。 っていうか身分証になるからいつも持ってるよ」

「わふ(で、あれば良いが)」


 当然、吾輩は今バイクの形を取っている。

 姉の通う学校では校則でバイクでの登校を禁じられているが、吾輩は厳密にはバイクではないのでセーフである。

 異論など知らぬ。


「っていうか、何回か見たことはあるけど、カマエルはいつもあんなことしてるの?」

「わふぅ?(あんなこと、というのは?)」

「陸に付いて行こうとしてるのか、ってこと」

「わっふ…わんっ(ああ…している。 手を変え品を変え毎朝の様に)」

「マジか…いっぺんマジに(ぶつりてきに)搾っといた方が良いか……?」


 姉よ、そのやたら凄みのある声を吾輩の背に乗ったまま出さないでほしい。

 歳相応に女性らしい身体つきをした肢体にぱっちりと大きな瞳、腰まで届く長い髪の毛を編み込んだその愛らしい容姿に似合わない殺気が……怖い…

 服の趣味なんかも意外…と言っては申し訳ないが、所謂カワイイ系を好む姉(これがカマエルの影響というか尽力というかが多分に関わっているのが納得がゆかぬ)だが、今の様にその身に纏う気配が折角の視覚情報を真っ赤に塗り潰してしまう。

 …端的に言おう。


 今の姉の周囲には(オイル)気配(におい)が漂っている。


「ばうっがうっ(姉よ。 カマエルが血を見るのは吾輩は一向に構わんのだがな)」

「なにさ?」

「ぐるるるるる…!(その怒気を今放たないでくれ…吾輩の天動機関(こころ)が(物理的に)悲鳴を上げている!)」


 徐々に身体の自由が効かなくなってきて、ブレーキをかけたわけでもないのにタイヤが回転しなくなる。

 吾輩もこの殺気を纏った姉にド突き回(じゅうりん)されたことがあるせいか、この気配は、苦手だ…


「ん。 悪かったよ」

「が、がぅ…(た、助かる…)」


 そう言ってようやく姉の発するプレッシャーから解放された…生きた心地のしないというのはこういうのを言うのだろう。

 それから姉はそっと吾輩を撫でてもくれた。こういう小さな気遣いが出来るところは姉の美点だな。

 これでその気遣い(メリット)を捻り潰して余りある暴力(物理・精神)(デメリット)がなければ、な…


「そろそろ良いかな。 止めるよ、ガブリエル」

「わぅ(分かった)」


 吾輩の心が死地を彷徨っている間に良い所まで進んでいた様だ。

 姉が脇道に入り車体を止め、吾輩の背から降りるのを待ったら吾輩も変形する。


「わぉぉぉんっ(変ーーー形(チェーーーンジ)っ)」


 ―うぃんっ カシャンっ ガキッ ガキッ


「ん? 帰んないの?」

「わふん(うむ。 少し姉に付いて行こうと思ってな)」

「なんで?」

「わっふ(気にするな)」


 どうということはない。少し姉の友人に挨拶でもと思っただけなのだからな。


「ま、良いけどさ。 学校までは付いてこないでよ?」

「わふ(うむ)」


 話をしながら進んでいるとすぐに姉の学校の制服を着た集団が見えてきた。

 遅刻をしそうになって走っている輩も見えないし、送った甲斐があったな。

 …いない、のだよな?遅刻スレスレなのに皆歩いているという一種異様な光景ではないのだよな?


「おっはよー空ぁ!」

「そらちー、おはよぉさん」


 などと吾輩が謎の焦燥に駆られている間に、姉の友人たちが合流した様だ。

 背の高い方が優梨、低い方が撫子である。


「おはよ、二人とも」

「犬っころもオッス。 珍しいじゃん、どうしたん?」

「ばうっ」


 …………。


「わふぅ」


 …。

 ……何故だ!?

 何故吾輩の声が出ない!?

 いや、鳴き声は出ているが…そうではなく!

 言葉が出ていない!


「っ!」

「ひゅ~~~ぴふゅー」


 まさかと思い姉の方を見るとどことも分からない方向へ視線を飛ばして口笛を吹いていた。

 あ、姉よ!

 通信機(ヨルムンガンド)のボリュームを最小にしたのか!!?

 いつの間に!?

 そしてそのベタ過ぎる誤魔化し方はなんだ!


「がう! わふっ! わぉん!!」

「ぴゅ~~ぴーーぷぅ~~~」

「ぐ、がるるるるるるる……!」

「そらちーはなして突然口笛吹き出してんの? そしてわんちゃんはなして突然そらちーにつっかかってはんの?」

「なんだ、ケンカでもしてんのか?」

「いや。 別にケンカなんてしてないよ。 たまたま虫の居所でも悪かったんじゃない?」

「がうっ!」


 いけしゃあしゃあとよくもそんな台詞を口にできるな姉よっ。

 たった今っ、姉が自分の手で吾輩の虫を毒の沼地に追いやったのではないか!


「ほ~らほら、あんまし吠えんなよ~。 よ~しゃよしゃよしゃッ」

「がぅ…」

「ほして、なーこは何しとんの?」

「え? 動物王の真似?」

「似合わへんよ」

「ヒデぇや」

「わふ」


 や、吾輩は撫でてもらえるのはありがたいが。

 吾輩たちとて、人の温もりは分かるし、その温もりを心地良いものと思っている。

 カマエル(へんたいしんし)が同じことを口にしたら間違いなく吾輩含め方々からツッコミが入るだろうがな。


「わっふ! がう」

「どーした犬っころ?」

「わふぅ。 がう、わふ」

「む、お辞儀をされたぞ。 何の礼だ?」

「うちも?」

「わふぅ」


 姉の手により吾輩の(ことば)は封じられせめてもの悪あがきであるが、辛うじて目的は達成出来た。


 いつも姉と仲良くしてくれて感謝する。


「ほら、撫子。 早くしないと流石に遅刻するよ」

「おふぅ! もうそんな時間かっ」

「なーこが足止めて阿呆なことしとるから」

「ってことは遅刻したら撫子のせいね」

「にゃにおー! 二人だって同罪だろっ」

「「ye not guilty」」

「なんで!?」


 姉と優梨が互いに指差しあって無罪判決。仲良き(?)ことは美しき哉。

 が、このままでは折角の校則違反スレスレ(わがはいのそうげい)が無駄になってしまう。

 ここは吾輩が場の硬直を解こう。


「がう」

「っ!!!」


 吾輩は家に向かって走り出した。

 走り出した瞬間に何かレースに彩られた白い布地が見えた気がしたが、気のせいということにしておこう。


『ガブリエル……帰ったらカマエルも含めて話をしよう、な』


 通信機を伝って聞こえてきた姉の声も気のせいだな…!


 ◆



「がぅ(ただいま帰った)」

「おぅ、お疲れ」

「おかえりなさいであります、ガブリエル」

「っ! ガブリエル、貴方、誰かと会いましたか?」

「わ、わふ(あ、ああ。 姉の友人たちと会ったが)」

「それは、撫子さんと優梨さんですか?」

「わっふ(そうだな)」

「二人と何かスキンシップ的なことをしませんでしたか?」

「がう、わふぅ(そういえば撫子に身体中撫で繰り回されたな)」

「な…っ!!? なんという…貴方はなんというご褒美を!!!」

「わぅん!?(どうした、なんだというのだ!?)」

「撫子さんに体を(まさぐ)られた…つまり合法ロリとくんずほぐれつ…!!!!」

「非合法だわ大馬鹿タレが!!!」


 ドゴッ!


「かっはぁああ!?」


 ザドキエル(ろんり)ルシフェル(ぶつり)双方のツッコミにより今日もカマエルは沈んだ。

空の友人二人はガブリエルと初対面ではありませんが、これまで空が色々と策を弄していた為、話せることを知らなかったりします。

そしてここまできて初めて空の容姿について言及しましたね…

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