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「そ、そんな目で見ないでよ!わ、私だって結構恥ずかしいんだからね!」
舞が叫んだ。表情には照れのようなものが見える。
「兄さんのような人の方が珍しいんだからね!なんであんまり変わってないのよ!?」
そう言えば。自分の容姿がどうなったのか、確認していなかった。確認したのは服装だけである。
「俺、変わってないのか?」
「……うん。ちっとも」
自分の髪や顔を手で触ってみる。若干の違和感があるものの、いつもの自分のように思えた。
「まあ、でも、私はちょっと安心したかな」
「え?」
「なんでもない!それよりさ、冒険しようよ!」
そうだ。これはゲームなのだ。キャラクターの容姿など二の次だ。剣と魔法のファンタジーのはずなのだ。冒険をしなければ損だ。
「そうだな!冒険だ!」
「それでさ、どこに行けばいいのかな」
アールは東に行けと言っていた。敢えて西に行くのもおもしろいかもしれないが、ここは素直に助言に従うべきだろう。
「東、に行こうか。初心者だし」
「うん。賛成。えーと、東は……あっちかな?」
太陽の傾きから二人は東の方向を判断し、歩を進めた。
「久しぶりだね。兄さんと並んで歩くの」
「……そうだな。ゲームだけど」
「うん。近い内、実家に帰ってきなよ」
「わかってるよ」
妹は寂しかったのだ。シンはここで漸くそのことに気付けた。
「ごめんな、舞。寂しい想いさせたな」
「あ、謝らないでよ!そ、そんなんじゃないから!」
舞は兄の胸を小突いた。
ゲームに誘って良かったと思った。そして、今度、現実で会ったらもっと会話をしようと決めた。