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「新規メールを取得しました」
パソコンが音声を発した。画面の中ではスーツを着た悩ましいスタイルの女性がニコニコと笑っている。
「ああ、ありがとう。開いてくれ」
と、少年は返した。少年の名は真太郎。親しい人からは『シン』と呼ばれている。年齢は19歳。大学生である。
「はい、こちらです。あ、妹さんからですね」
ちなみに、先ほどからパソコンの中で少年に話しかけているのは、電動人〈デンドウビト〉の『メイク』。電動人とは、電気の力で動く人では無く、電子の世界で動く人の意味であり、簡単に言ってしまえば、パソコンの後付けソフトだ。
パソコンのフォルダを整理してくれたり、ウィルスから守ってくれたり、こうしてメールの送受信を手伝ってくれたり、あると何かと便利な代物だ。
メールが開かれ、メイクが読み上げる。
「兄さん、永遠世界やろうよ!」
メールはその一文のみ。真太郎とメイクは思わず目を見合わせた。
「どういうことでしょう?一度、妹さんに電話をして確認した方がよろしいのではないでしょうか?」
「そうだな。そうしてみる」
真太郎は、妹の、舞に電話をかける。2コールで舞は電話に出た。
「あ、兄さん!メール見てくれた?」
「見たけど、さっぱり意味がわからん」
「ああ、ええとね、永遠世界って言う、オンラインゲームがあるんだけど、わかる?」
「ああ、聞いた ことあるような、無いような」
「まあ、あるのよ!そのゲームがすっごくおもしろいらしいの!だから、兄さんと一緒にやりたいなって思って!」
「そんなこと言われても、俺はそのゲームを持ってないぞ?」
「え?この間、兄さんに宅配便で送ったんだけど、まだ着いてない?」
「ああ、あれか」
真太郎は、押し入れの中をまさぐった。確かに昨日、妹から自分宛に荷物が届いていた。どうせまた、ろくでもないものだろうと思って、押し入れの中に無造作に突っ込んでいたのだ。
大学生になって一人暮らしを始めてから、舞は自分が嵌まったアイドルの写真だのゲームだのマンガなどを真太郎に送りつけてくるようになったのだ。いつしか真太郎は、中身を確認せずに押し入れに突っ込むようになってしまっていた。