名取の子
名取は十三歳で恋に落ちた。そしてそのまま帰って来なかった。
名取は十六歳で母親になった。抱えていたのは元気な男の子だった。
名取は二十歳で家を建てた。廃材を利用したものだったが、息子は大変喜んだ。
名取は二十三歳で息子をミチセと名づけた。
ミチセには七年間名前がなかったのだ。
ミチセは九つで奉公に出た。奉公先は読売の版元だった。
ミチセは十二で世間を知った。情報が集う奉公先故のことだった。
ミチセは十五で記事を書いた。しかし空いた紙面を埋めるためであったし、そもそも情報は移ろいやすものだと知っていたので、何の感慨も湧かなかった。
名取が死んだ。
産声すら上げなかったミチセは初めて泣いた。
ミチセは十八になった。十六で母になった名取と自分を比べ、なんだか情けなくなった。
ミチセは二十歳になった。奉公先の主人一家が盛大に祝ってくれたが喜べなかった。
そしてミチセは翌年死んだ。ミチセはミチセとしては十三年生きた。
そしてそれは名取がミチセを授かる相手と恋に落ちた年齢と同じ年月だった。
ミチセがこの世に残せたものは、三文記事だけであった。