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蒼翼の英雄と白金の勇者  作者: ε-(´∀`; )
第一章 蒼翼の英雄
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第八話 大双剣

あの外出の日以降、訓練はより厳しいものになっていった。先日アドルフさんが言っていたのは本当だったらしく、今日から武術の訓練が始まることとなっている。基礎体力と筋力が着き、ある程度下地ができてきたというのが理由らしい。ついでにいうとあの日頼んだ武器が昨晩届いたというのもある。

白い布に包まれたそれは、召喚された当初なら間違いなく持てなかっただろう。


「ってか、でかすぎだよなあ……」


「ほんとに何が入ってるのかな?まだ開けてないんだよね?」


「ああ。ランニングから戻ってきたらクタクタでさ。リーダー会終わったらそのまま部屋に戻ってバタンキュー。今朝見ればいいかなと思ってさ。そっちは?」


三塚さんは背負っていた物を見せてくれる。ソレは一目で銃と分かるものだった。ただそれは現代のものと比べれば、かなり変わった仕様になっている。木と何かの動物の皮で作られたと思しきグリップ。砲身は虹のような光沢のある銀色の金属だ。なぜか等間隔で円環が取り付けられている。弾を込める部分は存在しておらず、アサルトライフルのような弾倉もない。有るのはスコープと頬を当てて銃を固定するストックという部分に刻まれた魔法陣だけだ。簡素なつくりだがこの文明のレベルでは簡単に作れるものじゃない。よくもまあこれだけのものを一週間で作ったものだ。


「ラモンさんに射撃の心得はないだろうし、こっちで試射することになるかな」


「へえ、まあ気をつけてな。流石に破裂したりはしないだろうけど」


「うん!頑張るね!!」


そう言って三塚さんは弓兵の練習用案山子のほうへと走って行った。相変わらず好きな事となると一直線らしい。まあそこまで長い付き合いじゃないのだが。あの日から変わったことと言えば三塚さんとの会話が増えたことだろうか。もう同じ部屋で過ごし始めて二週間にもなるが、大分仲良くなれた気がする。最近では三日前に生まれたトラディオンのことをそれはもううれしそうに話してくれるほどだ。

それは置いておくとして、こちらも確認と行きますか。


包みを解くと中から二本の大剣が姿を見せる。刀身に触れてみると金属の持つ怜悧さを感じた。だがそこであることに気が付く。


「刃がない?」


そう。大剣には刃がなく、縁は滑らかでとてもではないが切れ味があるようには思えない。不審に思って地面に置いていたそれを構えるようにして持ち上げる。するとどこか魔力がざわめくのを感じた。よく見てみると柄頭には魔法陣が刻まれた青い石がはまっている。


「そういうことか……」


呟いて魔力を表出させる。すると剣から空色の魔力が立ち昇り、やがてそれは剣全体を覆うに至った。もう一本も同じように青い魔力が刀身を覆っている。あの日、ラモンさんは他の三人には要望を聞いたが、俺の武器は任せろと言ってきかなかった。そしてこの出来か。


「魔力で作られる刃とか、ロマン分かってるなあ……!」


魔力を引っ込ませて、二つの鉄塊を一緒に包んであった鞘に刺して背中にベルトで固定する。重くて姿勢が崩れそうになるが、何とかなるレベルだ。こうしてみると適正化のすごさというものが分かるな。

そのまま何時もの訓練場に行くと、皆が剣を見てはしゃいで寄ってくる。それを抑えつつ、アルフさんのところまで行く。


「これが昨日届いた武器なんだけど、大丈夫かな?」


「ふむ。大剣……、それも二刀流か。この国では師を探すのは難しいかもしれんな。とりあえず、双剣の使い手を一人着けよう」


「悪いな」


「別に英雄殿が悪いわけではあるまい。気にしなくていい」


アルフさんはそう言って笑うとその双剣使いの騎士を呼びにいった。すると再びクラスメイト達が俺を取り囲む。


「おおお!大双剣とかロマンだなあ!」


「一回抜いて見てくれよ」


そんな言葉やリクエストに応えていくうちに今度は勇輝が寄ってきた。


「凄いなあ、僕も誘ってくれれば良かったのに」


「いや、班分け違っただろうが。ってか俺としてはこいつのほうが凄いと思うわ」


キョウを指すと、勇輝は苦笑して頷く。


「ホントにね。本当につばさみたいな子だよ」


「いや、みたいというか、読んで字のごとくだろ」


ふとみんなの視線が向けられたキョウはフルフルと震えた。空中で……。こいつ、あの日魔力を注ぎ続けていたらいきなり翼を生やして空に浮いたのだ。相当な量の魔力を注いだはずなのに中々大きくならないし、本当はカラースライムじゃないのかと思ったが、鑑定魔法ではしっかりとカラースライムと表示されている。謎の生き物だ。


「うーん、やっぱりそっくりだと思うけどなあ」


「そんなもんかねえ」


あるいはこのチート野郎には違うものが見えているのかも知れないな。

とそこでアルフさんが戻ってきた。隣には緑色の髪をたたえた女性騎士が立っている。明らかに緊張しているようでガチガチに固まっている。


「は、ハイネ=オーガスタとももも申します!宜しくお願いいたしますうっ!!」


「あー、ハイネ。少し落ち着け。英雄殿、こいつがうちの騎士団で最も強い二刀流剣士のハイネだ。とりあえずこいつに師事してもらってくれ」


ビクッとばかりに肩を震わせるオーガスタさんに苦笑する。こんなところでも英雄のネームバリューは有効なようだ。それから俺とハイネさんはペアで、他のみんなはアルフさんと合同で訓練を行うこととなった。それはそうとして、この空気は何とかならないものだろうか。

ちらりと視線を向けるとハイネさんは目に見えてその身を強張らせる。


「あの、オーガスタさん?」


「はははは、ハイネで結構であります英雄殿!!」


「じゃあハイネ、もう少し落ち着こうぜ。何も取って食おうってわけじゃないんだ。むしろ俺はハイネに剣を教わるためにここにいるわけだしな。ほら、一回深呼吸してみ」


そう言うと、ハイネは大きく息を吸って、全力で吐き出した。そのせいかは分からないが、多少は落ち着いたようで幾分かすっきりした顔をしている。


「そう、ですね。失礼いたしました。昔から英雄様に憧れていたもので、少々緊張してしまいました」


「無駄に重いよなあ、この名前……。まあいっか、それじゃあ教えてくれないか」


「はいっ!」


そこからは案外まともな訓練となった。剣の持ち方から足の動かし方、それから基本の型を行い、最後に木剣で軽い打ち合い。今まで朝練で廉太郎に教えてもらっていたものとは全然違い、何というかどこまでも戦うための剣という感じがした。型にしたって剣道とは違い双剣の基本的な扱い方を学ぶためのものであって、また意味合いが変わってくるようだ。この辺が実践的な剣術と、道場で行う剣道の差なのかもしれない。ただ、ハイネの扱う二刀流はショートソード二本によるもので、大剣二刀流とは根本的にズレがあるようだ。そこが少々問題だな。

打ち合いが終わって少し休憩をしているとハイネがタオルで汗を拭きながら近寄ってくる。


「ふむ、さすが英雄殿ですね。中々筋がいいと思いますよ」


「まあ、筋トレやランニングはこの三週間で腐るほどやったしな。身体能力で無理やり何とかしてるだけだよ」


「それでも、です。二刀流の難しいところってどこかわかりますか?」


ハイネがそう聞いてくる。……二刀流の難しいところねえ?いろいろあると思うが……。


「それはですね、左右二本の剣を同じ技量、速度、威力で振らなければならないことです。左右の腕をそれぞれ別個に完全に分離して操作しなければならない。それでいて攻守の調和を保つ必要がある。それは結構センスの必要な事なんですよ」


「別個に、ねえ?特に意識したことないが、そんなもんなのか」


手を握ったり開いたりしつつ眺める。そういえば昔から利き腕とは逆の腕、俺は右利きなので左腕で文字を書いたり、箸を使ったりしてよく遊んでいた。この分野では勇輝といい勝負ができたからだ。……とはいっても戦績は全敗だが。

だがまあ、人生どんなところでどんなことが役立つのか分からないなあ。


「熟達すれば、きっと凄い双剣使いになられると思います」


「ま、そうなるためにも訓練あるのみ!だな」


そして俺は再び木剣を握った。











訓練が終わって時は夕方。俺は外壁の上を只管にランニングしていた。新しい訓練で疲れてはいるが、ここで妥協するわけにもいかない。強くなるために毎日少しずつ走る距離や速度なども上げている。最近ではでかい石を詰めた鞄なども背負うようにしている。さすがにきついが、頑張っている。その成果はしっかりとあらわれていて、俺の身体能力は化け物じみたものになってきている。

規則正しく呼吸をしながら、すでに見慣れた光景を眼下に走り続ける。前は城壁の内側を壁に沿うようにして走っていたのだが、今では持久力も上がったためにこちらに来ている。あの初外出の時に見た光景が忘れられなかったというのもあるな。なんにしてもここは心地いい風と温かさが感じられて好きだった。


「初回討伐遠征か……」


討伐遠征。この王都を出て東にあるコロン大森林で五日後に実戦訓練を行うと、今日の訓練の終わりにアルフさんから通達があった。森にすむ下級の魔物を対象とした討伐遠征だ。それほど危険のない区域での戦闘という話だが、明確に命を奪いに行くという事実に少し緊張している。蚊や蟻とはわけが違うのだから。


「まあ何にしても来るべきものが来たってことか」


戦闘班に入った時からある程度の覚悟はしている。物語の主人公たちのように吐いたりはしないつもりだが、どうなることか。それに残留する非戦闘員の安全の事もある。今日のリーダー会これが議題に上がるのは想像に難くない。

ともあれ、そこは姫さんに任せても大丈夫だとは思う。姫さんにとっては大事な駒だしな。是が非でも護るしかないだろう。そこは心配していない。ただ、日常が崩壊する足音が近づいているのが分かる。勇輝のそばにいるとよく感じるものだ。

きっと俺たちは、岐路に立つことになる。そんな確信を抱きながら俺は城壁の上を走り続けるのだった。

次の投稿は明日の17時になります

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