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蒼翼の英雄と白金の勇者  作者: ε-(´∀`; )
第一章 蒼翼の英雄
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第五話 種族と魔法の応用

それぞれの訓練が終わり、皆が部屋へと戻ってくる。皆顔に濃い疲労の色を見せているが、なんとかグループミーティングが始まる。


「ほい、じゃあ今日のことで何かあるやつ?」


「お前って今日、訓練終わってからどこいってたんだ?」


「おお、いきなりそこか」


能登の鋭い指摘に苦笑いしつつ、正直に答える。


「いやな、魔法が気になって魔法研究班の方に行ってた。時間はかかったけど何とか魔法の発動までこぎ着けたぞ」


「ええっ!?つばさ君そんなことしてたんですか?ズルイです!!」


「いや、春ちゃん走り過ぎて動けなくなってたじゃん」


「だってぇ!」


魔法使い志望の真中さんが羨ましそうな声を上げるも、直ぐに名瀬に突っ込まれていた。


「まあまあ、後で少し教えるからさ。真中さんも魔力量は緑色だったし直ぐに出来るようになるって!」


「それはいいですけど、八坂君は身体大丈夫なんですか?」


「ん?全然余裕だぞ。あれくらいならよく勇輝とやってたからな。勝てたためしがないけど」


ああ、と皆が頷く。あのチート野郎に誰かが勝つ所を想像出来ないのは、クラス全体どころか学校中の共通認識だ。あいつ、いいとこまで追い詰められると必ず急成長して逆転するんだよなぁ……。相手に夢を見させるだけ始末が悪い。


「んで、こっちからの報告は……」


適正化のこと、注意した方がいい爺さんのことなど、今日あったことを報告して行く。それが終わると、皆は眠る準備を始め、俺はリーダー会だ。A班の部屋に向かう。部屋の中には昨日と同じく俺以外の全リーダーが集まっていた。


「じゃあ、第二回リーダー会を始めようか!僕の所からの報告は適正化の魔法かな」


そう言って勇輝が立ち上がり、適正化のことを話してゆく。それに何人かが質問し、勇輝が更に補足を入れてゆく。そうしてその場の全員が適正化について理解できた。

次に俺が立ち上がり、あの爺さんについてグループミーティングの時と同様の説明をして行く。ここは何の質問もなくスムーズに終わった。


「うし、次は俺だな。うちの班である程度のことを調べて見た。回してくれ」


弥生が回して来たプリントにはこの世界に置ける種族と国家群、そして魔族についてが書かれていた。

このプリントによると、世界には四つの種族が存在する。まず、世界の大多数を占める猿人族。次に多い獣人族。獣人族は獣の特徴をその身に持つ一族である。基本的に同じ動物の特徴を持つもの同士で作られたコロニーで生きている。勿論普通の街で暮らしているものたちも多い。

獣人族と猿人族はそもそも同じ種族であるが、猿人族が増えすぎたために区別されて呼ばれるようになった。小説の中でありがちな差別は全くもって存在していないそうだ。

次に耳の長い、ファンタジーの代表格であるエルフ。エルフは風の精霊王と獣人族の間に産まれた者たちの子孫であるらしい。そのため、風の精霊との親和性が高く、風の魔法を好んで使う。因みに、風の精霊の因子が強く出ているため、獣の特徴は出ていない。

最後はこれまた有名どころのドワーフ。ドワーフは地の精霊王と獣人族の間に産まれたものたちの子孫。金属の扱いに優れ、大きな町の地下に更に街を作って暮らしている。その街には光と酸素を多量に生み出す苔が多く生えており、とても美しいそうだ。こちらも地の精霊の因子により獣の特徴は打ち消されているそうだ。

この世界には差別は存在していない。何故なら、全ての種族の源流が獣人族であると分かっているからだ。エルフやドワーフも、精霊王の子孫と言うからには傲岸不遜な振る舞いをしそうなものだが、そんなことはないらしい。エルフやドワーフは特別な力も持たずに生き残って来た獣人族を対等な存在として認めているのだとか。


次に国家群だが、こちらはかなり面倒なことになっている。何故なら、旧〜領となっている地域が無数に存在するからだ。そして、その一体全てが紫色に塗られ、黒い文字で魔族領と記されている。

その範囲は大陸中の半分近くを占めていて、人類がどれほど追い詰められているのかがわかる。そして、人類領と魔族領、その境目にある国こそがここ、オーリンズ騎士国。所有する領土の大半が魔族領に呑まれ、今や小国と言っても過言ではないほどに小さい。

とはいえ、そんな状況下でも異世界召喚なんてことをやらかせる程には力がある国なのは確かなのだろう。どちらにせよ、今の俺たちに状況の選択権はない。


最後に魔族だが、これは殆ど情報が乗せられていなかった。魔物から進化した第五の種族だと言われているが、詳細は不明。魔王と呼ばれる存在は、黒の衣に真紅の髪を携え、金色の魔力を操る凄絶なまでの美女だそうだ。

その魔力量は少なくとも先代騎士王を超えると言われ、たった一発の魔法で人類連合軍の半数を焼き払ったことさえあるという。これが本当ならば、瞬間放出量も莫大なものになるのだろう。まさしく魔法の王、魔王だな。


「こんな化け物と戦うことになるの……?」


長野がぼそりと漏らしたが、俺はまずもって想像が追いついていなかった。軍の規模がどれほどのものだったのかは分からないが、それをたった一度の魔法で吹き飛ばすなんて、そんなものは既に神の域だろう。勝てるとしたらそれこそ勇輝みたいな主人公チート野郎が死ぬ間際まで力を尽くしてようやっとだろう。

それにしたってまともなビジョンが湧かない。アニメや漫画でファンタジーに馴染んでいると言っても、所詮は架空の物語だ。実際に現実でどういう光景が広がるのかは、全くもって分からない。

だがまあ、自分たちの力がどこまで行けるのかも分かっていないのだ。行けるとこまで行くしかないだろう。さっきも言ったが俺たちに選択権はない。召喚にかかる経費や代償がまだ分からないのだ。もし軽いものなら全員殺され、なかったことにされてもう一度別の奴を召喚、なんてことにもなりかねない。


「じゃあ皆、俺から少しいいか?」


皆が頷く。


「とりあえず、だ。今悩んでも仕方が無い。皆が各々やれることを全力でやればいい。今の俺たちには圧倒的に攻撃力が足りていない。

戦闘力的なこともそうだが、この世界の人々に対して切れるカードが明らかに足りてない。だから今は雌伏の時だ。武器を用意し、仲間を引き入れ、力をつけよう」


「そうだね。まだ二日目なんだ!僕達がどんどん力をつければ、きっと魔王だって倒せるさ!」


俺の言葉に勇気が賛成し、皆が続々と声を上げる。


「よし!じゃあ明日に備えて今日はぐっすり休もう!」


今日もラストは勇輝が締め、リーダー会が終わり、異世界生活二日目も終わりを告げた。







3日目の朝。俺は廉太郎と一緒に竹刀を振るっていた。剣筋は完全に素人そのもので、ちょこちょこと廉太郎にアドバイスを貰いながら汗を流す。

廉太郎の真似をして素振りをすること一時間程たっただろうか。既に太陽が顔を出し、地上に朝の日差しを浴びせていた。


「ああ、限界っ!」


そう叫んで芝生の上に寝転がる。ここは寝室から直ぐの中庭で、辺りには俺と廉太郎しかいない。廉太郎は俺の様子を見て腕を止めると、素振り前に汲んで来た井戸水を飲む。それから不思議そうにこっちを眺めてきた。


「どういう風の吹き回しだ?」


「んー?スタミナアップと魔法に慣れようかと思ってな」


腕が疲労でピリピリするのを感じつつそう返す。適正化の魔法は、肉体を酷使すればするほどその効果を表す。ならば、使わない手は無いだろう。さらに回復魔法を使って訓練すれば魔法と筋力の両方に効果があるからな。

昨日、魔法の発動を習得したものの、その精度はかなり悪い。言霊の詠唱には声に魔力を載せることが絶対条件であり、それが途切れてはならないし、込める魔力にブレがあっても魔法は失敗してしまう。魔力を正確にコントロールしなければ、魔力の浪費でしかなくなってしまう。

俺は体内の魔力に意識を向ける。すると直ぐに身体の中心、鳩尾の辺りに強い熱を感じた。それを全身に巡らせ、声へと載せる。


『水よ、我が肉体を癒せ』


水を表すアルファベットのWに近い記号が表れ、その周囲を真円が囲む。スクリプトと全体を囲う円も出現し、魔法陣が完成する。円に歪みはなく、詠唱がしっかりと出来ていたことが分かる。魔力の供給を切ると魔法陣が輝き、その効果を発現する。

すうっと身体が冷えて行くような感覚とともに疲労が消え失せて行く。その代わり、体全体が怠く虚脱感に包まれる。魔法により行われた治癒で体内の栄養分が急激に使われたことによる弊害だ。回復魔法は大小あれど、このような副作用が存在するらしい。それでも充分すごい技術だと思うが。


「うし、回復っと。どんどん行こうぜ!」


「……凄いな、魔法とやらは」


「ファンタジーだよなぁ。一瞬で動けるようになったし」


そんな軽口を交えつつ、再び竹刀を手に取る。心なしか先程までより竹刀が軽い気がした。試しに竹刀を振って見ると、明らかに上達した軌跡を描く。重心や身体の軸として意外と酷使する足腰も、さっきより余程力が入る。体感としては、酷使していた場所ほど伸び代が大きい感じがする。

適正化……、ここまでのものとは思いもしなかったな。筋トレの効果が少し上がる程度かと思ったが、いい意味で期待を裏切ってくれた。

剣を振るにせよ何にせよ、身体が出来ていた方が遥かに良いパフォーマンスができる。漫画などでは力だけ得ても、技術が伴わなければ意味が無いと言う。しかし、力をつければ技術を強引に取得できるもんだな。勿論、初歩の初歩だからってのは有るんだろうけど。


「腰がさっきより入ってるな。そのおかげで腕の振りが安定している」


「やっぱり?廉太郎がそう言うなら間違いないよな」


そう言って更に素振りを重ねて行くが、数分も経たないうちに体力が底をついてしまった。


「ゼェ、ハァ……。あれ、な、なんでだ?」


明らかに体力が落ちている。適正化で基礎体力も上昇しているはずじゃ……、あ!さっき回復魔法で体内の栄養を使ったからか!運動に見合うだけのエネルギーが無くなって、その結果あっという間にバテたのか。

よく考えて見たら朝食前だし、そもそも蓄え自体も少なかった訳だ。こりゃ今度からはパンとかもらって来ないといけないな。

そんなことをぼんやり考えていると、足がふらついてその場にへたり込んでしまう。


「つばさ、大丈夫か?」


「あ、ああ。それよりお前、なんか食べ物持ってないか?」


「粉末のスポーツドリンクがある。直ぐに作る」


廉太郎は自分の水筒に素早く水と粉を入れ、蓋を締めてよく振った。そして完成したそれを俺の手に握らせた。

手の中のそれをゆっくり嚥下して行くと、甘みと若干の塩分が身体に染み渡って行くかのように感じた。一気に中身全部を飲み干すと、廉太郎が苦笑する。


「相変わらず肝心なところで抜けているな」


「まあ、次からはもっと上手くやるさ。ただ、今日はもう素振りは辞めとくわ」


素振りは、な。魔法の実験はさせてもらうが。


「よし、面白いもん見せてやるよ。つっても初挑戦なんだが」


再び魔力を表出させながら、手で廉太郎に下がるように指示する。


『土よ、人型の岩を作れ』


土の魔法を表す長方形二個を重ねた十字を持つ魔法陣が出来上がる。込められた魔法に従って魔法陣はその役目を果たす。高さ一mくらいの人形が十数メートル先に出来上がる。


『風よ、筒状の膜を作れ』


『土よ、底が平面、先が楕円形の弾丸を作り出せ』


風を表すターンエーの記号が現出し、長さ50cm程の筒が空中にできる。その中に弾丸を入れ、魔法によって筒の底を閉じる。弾丸と筒の穴の大きさはほぼ同じぐらいである。そして、仕上げに幾つかの魔法を唱える。


『魔力よ、風の膜の強度を上げよ』


『魔力よ、風の膜の位置を固定しよ』


これで一通り完成だ。そして、筒の底と弾丸の底面のごくわずかな隙間に最後の魔法陣を生み出す。


『炎よ、炸裂せよ』


パアアンッと弾けるような音とともに、空気の筒の先から岩の弾丸が発射される。小さいながらも強烈な爆発によって発射されたそれは、かなりの威力で持って人形を穿つ。轟音と共に、人形の頭部がバラバラに吹き飛んだ。


「どんなもんよ?」


唖然とした顔でこちらを見る廉太郎に不敵に笑みで答える。


「おい、あれって」


「そ、簡易的な銃。こんなけやっても普通の魔法の三分の一程度の魔力消費で済む。後は詠唱時間の短縮と、より強度のある弾丸の作成が課題だな」


そうとだけ言って、仰向けに寝転がる。

実験結果は上々。ともあれ、この程度じゃあ全然足りない。口径も、威力も、連射性も、何もかもが足りていない。しかしその分、改良の仕方は幾らでも考えられる。

そう、全てはここからだ。

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