第二話 行動開始
三話目です。
案内された部屋は城のかなり上の方の階だった。しかも当然のように一人部屋だったが、俺たちは無理を言って低い階のの大部屋を五つもらう事にした。これに関しては国の面子もあるのか、かなり渋られたが何とか許可をもらった。
基本的に男女混合で、やりたいことに合わせて部屋割りを決めている。
A、B、C班は戦闘を担当する班。D班は情報収集を目的とする班。E班は魔法やそれに付随する技術の研究をする班。因みに勇輝はA班で、俺はB班だ。人数は上から5、6、5、7、11人。人数が合わないのは俺がD班とE班も兼任しているからである。と言っても方針を決めたり、舵をとったりする役目で、実際にそこで働くわけじゃない。
クラス全員で決めたルールとして毎日夜にグループミーティングを行い、そこでまとめた情報をリーダー会で共有する。また、毎晩戦闘班が持ち回りで非戦闘班の部屋に護衛としてはいることとなった。特に俺と勇輝はその回数が多く設定されている。
これだけは徹底することにした。生き残る可能性を上げるためにと、全員が賛成してくれた。
今日はもう休んでくれと王女に言われたため、早速第一回のミーティングを行うことになっている。
「うし。じゃあ第一回グループミーティングを始めるぞ。まずは自己紹介な」
「つばさのことは皆知ってるし、俺からな。能登 空士。歳は17で、元サッカー部」
能登は日に焼けた顔にいい笑顔を浮かべる。こいつもクラスでも有名な方で、学校行事、それも体育祭などではクラスの中心にいるタイプだ。体格は運動部だけあってガッチリしており、見るからにパワーが有りそうだ。
次はショートヘアの快活そうな女子が自己紹介をする。
「名瀬 泉美でーす。元女バスで、エース張ってました!」
此方もクラスで、と言うか全国で有名なやつだ。うちの学校の女子バスケ部はかなり名門で、全国大会で何度も優勝したりしているらしい。そんな中でエース張る名瀬はその美少女さもあいまって、雑誌で特集されたりしている。
「真中 春です。部活は入ってませんでした。趣味は読書です。古典からラノベまでなんでも読みます」
前の2人と違い、運動部でもなくインドア派の彼女が何故かと思ったが、物語を全力で楽しみたいという少しずれた答えが返ってきた。ゲーム脳と言うわけでく、ただ憧れていたそうだ。
「本井 廉太郎。剣道部だ。趣味は……、特にない」
本井は部活にいく直前だったためか防具と竹刀、そして木刀を持っていた。こいつは言葉数が少ないものの、普段から紳士的で意外とモテる。勇輝や俺も仲が良く、一緒につるむことが多かった。即戦力になりそうなのには期待大だ。
「三塚 紗流流……です。ライフル射撃部でした。名前は、その、気にしないで貰えると嬉しいです」
そして、微妙にDQNネームっぽい三塚さん。彼女は母親がフランス人らしく、父親が日本人のハーフだ。だから漢字と読み方が微妙にマッチングしないという状況になっているらしい。
ライフル射撃部とはうちの学校にあるなかなか珍しい部活で、他所ではあまり聞いたことがない。うちの学校ではビームライフルという弾を使わない物を競技で使っているらしい。ライフルというだけあってかなり高い代物で、高い物だと30〜50万すると三塚さんが話しているのを聞いたことがある。
魔法研究班に似たような物の作成をお願いしたそうだ。まあ、魔法研究班がどこまでの物を作れるようになるかは分からないため、弓を始めて見るとは言っていたが。
これでうちの班の紹介は終わったわけだ。つぎは役割分担とかその他だな。
「よーし、じゃあそれぞれがどんなことするか、ポジションを話し合おうぜ。まあ、廉太郎は普通に剣士だろ?」
「ああ。他にないだろう?」
それはそうだ。
「あの、私は魔法使いに成りたいです!魔法を研究するんじゃなくて、ゲームの魔法使いみたいに攻撃するタイプの!」
「うお、春ちゃんが珍しく押しが強いね?」
「何言ってるの泉美ちゃん!ファンタジーだよ!魔法だよ!使わないとそんだよ!」
「はいはい、分かったから。あ、私は明日いろいろ試して見てから決めるね」
「んじゃあ、俺もそーしよ。 やっぱいろいろ試して見たいしな!」
名瀬と能登は明日からの訓練次第にするそうだ。三塚さんはさっき弓や銃を使うって言っていたし、後は俺か。正直言ってやれることがない。アタッカーは廉太郎になるだろうし、魔法使い志望と狙撃手がいる。残りの2人にしたって運動部でかなり凄い成績を残してる。ちょっと出番が無いかもしれない、と言うか無い。
「俺、どうしよっかねえ。まあバランス考えたら魔法と武器両方ともって感じでオールラウンダーがいいんだろうけど」
「つばさも明日決めればいいだろ?俺らも決まってないしどうしようもなくね?」
「それもそうだけどな。まあ、今はいいか。取り敢えずリーダー会行ってくる。廉太郎、能登が発情したらしばいてやっていいからな」
「もちろんだ」
「ちょ、俺信用なくね!?」
能登が大声で叫び、部屋が笑いに包まれる。俺が部屋を出て扉を閉めると、その声も聞こえなくなった。皆と扉一枚でも分かたれたせいか不安感が湧き上がってくる。どうやら自分は想像以上に緊張しているらしい。情けない自分にため息を一つ吐き出し、ほおを叩いた。
リーダー会はA班の部屋で行われる。まあ、全ての班の部屋が一列に並んでいるためすぐ近くだ。部屋の並びは通路側からB、D、A、E、Cと言う風に戦闘班が非戦闘班の左右と真ん中を固めるようになっている。部屋に侵入者は流石に無いだろうが念のためだ。
A班の部屋に着くと、既に他の班のリーダー達も集まっていた。
A班リーダーは勿論、勇輝。B班は俺で、Cは長野 さくらと言う柔道部女子。D班は大原 弥生という文芸部男子。E班は化学部部長だった小山 萌実という女子だ。そして最後に我らが担任智子ちゃん
「お、来たな作戦参謀」
「誰が参謀だ弥生!」
軽口を叩きながら六つ置かれた椅子に座ると、全員が此方を見る。これは俺に指揮を取れということか?
「いやいや、ここはクラス代表の勇輝に任せるべきだろ?」
「えー、勇輝君は士気を高めることは出来ても指揮は取れないでしょ」
「誰が上手いこと言えといったんだ……」
だが正論ではある。勇輝は持ち前のリーダーシップで皆を引っ張ってゆくことは出来ても、こういう皆を纏めるのには向いていない。特に明確な指針を打ち出すのは不得手だ。優柔不断すぎるのだ、こいつは。
「この主人公やろうめ!」
「どうしていきなり?」
「気分だ!」
勇輝の疑問に即答して見せ、取り敢えず頭を動かし始める。
「じゃあまず、だ。それぞれの班で自己紹介とか役割分担とか済ませたか?」
「うん。A班はおわったよ」
「Cもちゃんと終わらせたわ。今頃はしゃぎ回ってるでしょ、馬鹿ばっかだから」
「Dもだな。ただ、役割分担はどんなことから始めようか考えてるとこだ」
「E班もDと同じく役割分担に悩んでます。何せ今まで全く有り得なかった分野なもので」
成る程な。今日中に済ますべき論点はそこか。まあ団体の行動方針を明確にするっていうのは最初にやるべきことだしな。
「情報収集班はまず、この国と他所の国の関係性。王族や上位貴族の情報。人種や差別。後魔族に関する文献を探すべきだな。この辺は最初に学ばないといかん。今後の身の振り方に関わってくるからな。
あと、調べた情報は基本的に日本語でレポートにして、回覧板みたいに各部屋へ回してくれ。くれぐれも二冊以上同じレポートを作るなよ。盗まれて解読されたら日本語っていう絶対安全な暗号がなくなっちまうからな。ちゃんと番号を打ってファイリングしといてくれ」
「ルーズリーフとかでか?」
「そのとおり。皆それぞれ鞄は持って来てたから、ボールペンや紙はいっぱいある。その辺は悪いが徴収させてもらえ」
「分かった!」
弥生は大きく頷き、手帳にに何か書いていた。恐らく指示や覚えておくことをメモしているのだろう。大柄な体格の見た目と違ってマメなやつだからな。
「次に小山さんたち魔法研究班だが、こっちは文献を基本にして、独自の解釈を含めて研究を勧めてくれ。うちのクラスは理系だし、教科書も参考にしてもいい。
例えば炎の魔法なら、何を燃料に燃えるのか。酸素を使うならそれで何が可能か、とか。光の魔法なら光の収束ということが何か別に使えないかとか。
あと、魔法研究班は人数も多いから、しばらくしたら戦闘班の護衛と一緒に街に降りてくれ。そこで腕のいい職人みたいな人とコネクションを作るといい。ボールペンとかシャーペンでもこっちではオーバーテクノロジーの筈だからな。釣られてくれるだろ」
「分かりました。つまりは魔法をそのまま学ぶのではなくて、その魔法を構成する要素や、副次効果などに目を向けると言うことですね?」
「そういうこと。そうした方が現代的な装備も作りやすくなる筈だしな」
小山さんは俺の言葉にしっかりと頷いてくれた。すると、それをじっと見ていた智子ちゃんが口を開く。
「それで、クラス全体の目的はどうするんですか?私は皆をお家にちゃんと届けなきゃいけないので、治癒魔法とか送還魔法を勉強したいのですけれど」
「ああ、智子ちゃんありがとう。それは確かにやるべきことだよな。治癒魔法なんかは戦闘に必須だろうし。
で、クラスの目的だっけか。まず第一に生き残るだろう。次にこの世界の住人にパイプを作ること、だな。戦果を上げるなり、研究の成果を見せるなりして、相手にいい感情を与えなくちゃいけない。ただ、やっぱり疑うことは必要だ。すぐに信頼して、裏切られたら世話無いしな」
「なるほど。ではそこからは?」
「送還魔法の正確性の確認。そして独立出来るだけの生活基盤の確保だな」
「独立するんですか?」
少し不安げな智子ちゃんに苦笑する。
「ちょっと違うな。自分たちの生活基盤基盤があって、いつでも独立出来る状況なら、俺たちに出て行って欲しく無いこの国としてはより良い待遇をせざるを得ないのさ。
ギブアンドテイクな関係になるだろうけど、そういう関係の相手は大きければ大きいほどいい。この国は適任なのさ」
さらに言えば、と続ける。
「この国が他から援助をしてもらって俺らを呼び出していた場合。いや、それ以外でもこの国に貸しがある国なら俺たち異世界人の何人かを寄越せといいかねない。だから、いざという時に拒否することの出来る基盤を作るべきだ。
自分たちで生活出来るから、自分達の行方は自分達で決める。俺たちは呼び出されただけで従属しているわけじゃないってな」
その場の全員が納得したようで、その時のことを考えているのか、渋い顔をしている。
そう。これは実際あり得ない話じゃあ無い筈だ。その時、俺たちに力がなければどうしようもないのだ。
「取り敢えずはそれぞれが出来る最大の努力をしよう!そして、皆一緒に家に帰ろう!!」
「「「「おおーー!!」」」」
勇輝め、ラストだけ持って行きやがった!
次の投稿は一時間後、18時からになります。三話同時投稿になるのでお気を付け下さい。