第一話 決意
遅れてすいませんm(_ _)m
TOEICだったり、年始に交通事故にあったりして遅くなってしまいました。
第二部、開幕です。
コロン大森林への討伐遠征から始まり、平原での決戦にて幕を閉じた一連の事件から一週間が経った。戴冠式の興奮冷めやらぬ中、それでも日々の生活に待ったはない。市場の商人達は店を開く準備を始め、家事職人達は素材を手に取った。
そして、堂々聳える王城、その中庭。朝靄の中を木と木を打ち付け合う鈍い音が響く。二人の男はそれぞれの手に持つ木剣を巧みに操り、互いの急所を打ち抜かんと振るう。
暫し続いた鈍い剣戟の音も、二刀使いの連撃にもう一方の使い手の剣が折り飛ばされたことで終わりを迎える。高々と舞った木切れは弧を描いて地に落ちる。その時には既に二刀使いの剣が相手の首筋に添えられていた。
「……ふう。一息つくか、廉太郎?」
「……ああ」
一時間ほどの鍛錬の後、廉太郎に向かってそう提案する。今日は久々の廉太郎との修行だった。あの戦争の後のゴタゴタで時間が取れなかったため、毎朝の習慣も行えていなかった。
今日久々に剣を合わせたのだが、やはり廉太郎は強かった。それでもあの大穴の底での修練のおかげか初めて模擬戦で勝ち星を取ることができた。実戦ならともかく、剣技だけの模擬戦では今まで手も足も出ていなかったのだ。達成感に勝鬨を上げてしまったのはご愛嬌だろう。
持ってきていた水筒の内の一つを廉太郎に投げる。廉太郎はそれを片手で受け取り、冷たい水を一口含んだ。俺も木陰に座り込んでゴクゴクと音を鳴らして水を飲んで行く。冷たい水は喉に心地よく、さらさらとなる葉擦れの音に癒される。
ふと、廉太郎の方に目を向けると苦虫を噛み潰したような表情で地面を眺めていた。
「ん?廉太郎、どうしたよ?」
「……負けてしまった、と思ってな」
沈痛な面持ちでそうぼそりと呟かれ、思わず眼を見張る。
「どうしたよ、珍しく弱気だな」
「……」
廉太郎は何も答えず、地面から視線をあげてこちらを見る。その瞳の中に、いつもの自信は存在しなかった。
「剣でだけは、お前に負けたくなかった……。あの日、あの場所で、残ることの出来なかった俺の、たった一つの意地だった……」
搾り出したように溢れた言葉は、予想外のものだった。
廉太郎があの日、逃げるしかなかったことを気にしているのは知っていた。ただ、あの廉太郎が意地という言葉を使ったのが意外だった。言葉が出て来ず、数秒沈黙が降りた。だって、それはあまりにも廉太郎らしくない。
「なんで、お前の負けなんだ?」
だから、漏れ出た言葉は俺の偽らざる本音だった。
「は?」
「いや、だってそうだろ?何十回もやってる手合わせのうち、たかだか一回負けたくらいでなんでお前の負けなんだ?」
「しかし、今の勝負で俺は完全に手玉に取られて……」
「いや、それにしたって次に戦えば同じ手は通用しないだろ。あの穴のそこで身につけた技なんてたかが知れてる。それが品切れになったらどうなるよ?俺はその後も勝ち続けられるのか?
そもそもお前の本当の得物は刀であるべきだろ?この世界に刀が無いから剣を使ってるだけじゃねえか。片刃と両刃じゃ扱いがまるで違うし、ソリのある刀と直剣じゃあまず振方そのものも変わってくる」
そりゃあ、いままで積み重ねてきたものは役に立ってるだろうさ。でも、廉太郎の本当の武器は刀なんだ。それを持った時、俺が勝てる保証なんてどこにも無い。
だから、唖然とした表情の廉太郎に笑ってやる。
「そうだな、今からお前の武器を作ろうか。その剣もいいヤツだろうけど、お前に合わせたヤツをさ。んで、それに慣れたらまた勝負しよう」
「……だが、どうやって?」
「お前、俺の鎧は誰が作ったと思ってんだ?任せろって!」
そうとだけ言って、記憶の中から刀の情報を引っ張り出す。
廉太郎にロングソードを使うようになってから、癖を残さないように使われていなかった木刀を貰う。それに魔力を込めていく。
「まず、材質からだな。鋼だと強度が足りないよな。魔力の通りが良いやつだと、ミスリル?いや、せっかくだからアダマンタイトがいいかな」
あの穴の底には様々な鉱石があった。地の大精霊のお膝元だけあって、それはもう数え切れないほどに。その中から良さげなやつを思い浮かべ、木刀にトレースする。
アダマンタイトはたった一つのことに特化した鉱石だ。それ即ち、不変であること。アダマンタイトは魔力の通りが非常に悪いが、その分他の物質からの干渉を受けづらい。アダマンタイトを加工することは人間には殆ど不可能だが、別の物質をアダマンタイトに変化させること自体はさほど難しくない。
刀の刀身は確か折り返し鍛錬で強度を上げていたはず。そう思い浮かべ、そのように投影すると木刀が、鈍い光を放つ刃へと変わる。本当なら芯と刃でつかう鋼が違うのだが、アダマンタイトの性質から言って問題ないだろう。
「よし、次は柄だな。刃にギミックを仕込めない分、ここにいろいろ仕込むか」
柄は時代劇のヤツを参考に作り、特殊能力を仕込んでいく。
「そうだな、まずは魔力を込めると斬撃を飛ばせるようにするか。後は魔法のブースターがいいか。少ない魔力で空間に干渉しやすくする方向だな」
それを終えたら今度は鞘だ。こちらは昔のゲームから取って防御機能と回復機能ってとこか?
普段から魔力を蓄積するタイプにしよう。廉太郎はあまり魔力が多く無いからその方がいいな。色はそうだな、白がいいか。アダマンタイトも透明感のある白の鉱石だし、合ってるよな。華美な装飾は無しで、質実剛健な感じに仕上げる。
そして、刀を鞘へと納めると、チンッと心地よい音がなった。
「ほら、出来たぞ。銘はそうだな、白雪なんてどうだ?」
そう言って刀を渡し、その能力を説明していく。そうすると、廉太郎はまず驚愕に顔を歪め、そして苦笑いを浮かべた。
「やはり、敵わんな」
そう呟いたその声音に、さっきまでの影はなくどこかはれやかだった。
「この刀に誓って、今度こそお前を含めてB班全員を守ってみせる」
あの後、微調整を繰り返し、完全に白雪を完成させてから合同訓練へと向かった。小隊対抗の模擬戦で廉太郎は今までより明らかに数段上のパフォーマンスを見せてくれた。やはり、廉太郎は強かった。今戦えば間違いなく負けるだろう。そう感じ、俺も追いつくために全力で剣を振るう。
「……で、どうしてこうなった?」
「だって強くなったつばさと戦いたいし……。みんなも期待してるよ?」
なんてことないように答えるのは目の前で完全装備した勇輝だ。
「つ、つばさくん頑張ってください!!」
ああ、シャル。俺の味方は君だけだよ……。なんて嘆きつつ、俺も装備を整える。黒の鎧を身に纏い、すべての武器を装備して、背に剣翼を広げる。腰にある柄を引き抜くとそこから光の大剣が生まれた。
周囲から歓声が飛んでくる。鍛錬場に大きな結界が張られ、観覧席から姫さんやクラスの皆。更には騎士達まで多く詰めかけていた。
本当にどうしてこうなったのやら。
思えば始まりは能登のあの一言だった。
『そう言えば、つばさと勇輝今戦えばどっちが強いんだ?』
その言葉が伝播するや、様々な予想が飛び交い更にはトトカルチョまで始まる始末。騒いでるうちに話が広まったのか、姫さんまでやってきて完全に逃げ場が消えてしまった。
本当はここで魔力を多く使うわけにはいかないのだが、仕方ない。こいつとの戦いで手を抜くわけにもいかないし、全力で相手をしよう。
そして、アルフさんが叫んだ。
「試合開始ッ!!」
瞬間、弾かれたように 勇輝が飛び込んでくる。振るわれるロンクソードを避け、カウンターの横薙ぎを見舞う。
それを勇輝は体をそらしてかわすと瞬時に間合いを取る。これは言わば挨拶。本番はこれからだ。
「行け!」
8本の剣翼のうち半数を飛ばす。微妙にタイミングをずらしながらの連撃だ。弾かれても再び勇輝を襲うそれらは足止めには最適だった。いくら勇輝でもこれを捌くには足を止めなければならない。
すぐさま腰から銃を引き抜き、その銃身が伸びる。戦争の時示威行為にに使ったアレだ。
それを足を止めた勇輝へと撃ち込む。収束した魔力が空中を走り、着弾。大爆発を起こした。
爆風で舞った砂煙が立ち込める中を全力で走る。あの程度で勇輝がくたばるはずもない。銃を一度腕輪の中へと返すことで瞬時に武器を変更し、追撃の魔法を撃ち込みながら影へと向かって光剣を薙ぐ。
剣風で煙が裂け、中から無傷の勇輝が姿をあらわす。勇輝は光剣を避けつつ、回し蹴りを放ってきた。それを腕で受け止める。ギリギリと押し合いながら、話しかける。
「今ので無傷はさすがに化け物だろ?」
「つばさこそ手数があり得ないことになってるよ?」
戯れ言を言い合い、再び間合いを取った。
それは奇しくも最初の位置で、同じ構え。完全に仕切り直しだ。とは言え、今の攻防で明らかとなったことがある。
それは、このままでは俺に勝ち目がないことだ。俺は手数で勇輝に勝り、勇輝は出力で俺に勝る。だからこそ俺は彼奴を足止めできたし、勇輝はさっきの攻撃をふせげた。
つまり、お互いに決め手に欠ける状況。ならば自然と軍配はスタミナのある方に上がる。俺と勇輝では魔力に絶対的な差があるのだ。このままだと俺の方が先にスタミナ切れで負ける。
故に、次の勝機は逃すわけにはいかない。俺の勝利条件は隙を作り、一撃必殺を決めることだ。そしてそれがスタミナ切れまでに出来なければ俺の負け。勇輝もそれは分かっているはず。ここからは攻めと防御に別れた戦いになる。
数秒でそう判断し、8本に戻った剣翼を広げて僅かに浮かぶ。そして最高速で一気に突っ込んだ。
振り下ろした光剣が魔力を纏ったロングソードに受け止められる。それに構わずもう一方の剣を逆袈裟に振るう。それを何と勇輝は魔力のこもった拳で殴り付けて弾いた。
目を見張りつつも受け止められた光剣を起点に空中で回転し背後に回って風の刃の魔法を放つ。勇輝はそれすらをも躱し、俺の腹をを思いっきり蹴り上げた。
「ーーーッ!!」
重力に逆らって真上へと弾き飛ばされる。俺は込み上げる胃酸を堪えつつ、止めを刺そうと巨大な魔法陣を描く勇輝を見やる。
そして、その手に持つロングソードから魔力の気配が無くなったの感じ、すべての条件が揃ったのを知った。
その瞬間、俺は両手の光剣を巨大化させ、勇気のロングソードごと魔法陣を切り裂き勇輝の左右の地面へと突き刺す。それと同時上へと弾き飛ばされたときに地上へと残した剣翼が迅速に動き出す。巨大な魔力の刃に左右を塞がれ、更に上下ともに4本ずつの剣翼が勇輝を囲む。
そして、俺の背に巨大な青の結晶が出現する。それは凄まじい勢いで青の粒子を放出し、俺を飛ばす。
光剣がさらに太さを増し中心へと向かう。更に8方向からの同時斬撃。それら全てを勇輝はーーー
魔力を漲らせ、身一つで受け止めて見せた。
そして、その右腕を大きく振りかぶり、上空から止めの蹴りを見舞う俺の足へと叩きつけた。一瞬の拮抗の後、軍配は勇輝へと上がった。
背の結晶ごと弾き飛ばされた俺に、勇輝の止めのかかと下ろしが決まった。地面になすすべもなく叩きつけられ、全身が悲鳴をあげる。
そして勇気は手刀を倒れた俺の喉元にピタリと突き付けた。……俺の、完敗だ。
やんやの喝采を聞きつつ、何度目かの決意を決める。
ーーー絶対こいつに勝ってみせる!